王妃候補は、留守番中

里中一叶

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直轄領の視察よね。仕事なんだけど…

直轄領に向かうために、早朝乗り込んだ馬車には王太子殿下が待っていて、現在、私は殿下の膝の上に座らされている。

「あの…殿下、そろそろおろしていただけませんか?」
「馬車での移動はクッションが良くないと疲れるから。」
「なんで、殿下がクッションになるんですか?」
「昨日、叔母上にセリーナを取られて全然構えなかった。馬車ならほかに邪魔が入らないから。」

いえ、目の前にマーサがいるし。
確かに昨日は、イザベラ様が私とずっと一緒にいたから殿下が不機嫌だったらしいけど。

「王太子殿下、そろそろセリーナ様を開放してください。私は皆様から殿下を引っぺがす許可を得ておりますから。」

マーサがそう言ってくれて、やっと横に座るだけに譲歩してくれた。

「伯爵領へ行かれる時は、殿下は馬車ではなく騎乗を進言しておきます。」
「マーサ、お前…」
「私は坊っちゃま達なんて怖くないですから、小さい頃の話でもしますか?」

都合が悪い事を言われたくないのか殿下が大人しくなる。マーサにとって、殿下やジョシュア様は子どもみたいなものらしく、殿下も強く出れないようだ。

「すごい…」

直轄領に降り立った私が見たものは、たわわに実り金色に光る一面の小麦畑だった。

「これはセリーナのおかげなんだ。」
「私?」
「直轄領のことを話した時に農機具の設備投資の話をしたよね。あれを元にやった結果だよ。だから今度は学校を作りたいと思っていたところで、クラビア公爵から話を聞いてセリーナに会えた。ちゃんと私たちの縁は繋がっていたんだと嬉しいよ。」

直轄領には、すでにある建物を使って学校が作れそうだというので、教室の改装やソフト面だけで済みそうと分かり、来春から開校と言うことを担当の役人達と話し合ってまとめる。アドバイザーの役目は始まったら、何か困った時だけになるので、ひと段落したところで席を外した。

「セリーナ、お疲れ様。そろそろ昼食にしよう。」

殿下に誘われて、直轄領役所の裏手にある庭へ行く。
役人達も昼休み時間なのか、何人かが、それぞれ思い思いの場所でランチをとっていた。

「天気がいいから、ランチボックスにしてもらったんだ。」

芝生にシートを敷き、保温ポットからカップに注いだ紅茶を受け取る。ボックスの中には色とりどりのサンドイッチがある。

「伯爵領では、よく農作業の合間にこうやってランチしていたので、こういうランチは嬉しいです。」
「さすがに王宮では無理だが、私もここへ来るとよくやる。外で食べるのは楽しいな。」
「はい。」
「セリーナが喜んでくれて良かった。」

その日は夕方まで確認作業を行い、役所の担当者に後は任せて
王宮に戻るとクラビア公爵様が待っていた。

「殿下、今日は仕事でアドバイザーを連れて直轄領に出かけたと聞いておりましたが、なぜセリーナと手を繋いでお帰りになったのでしょうか。」
「クラビア公爵、先日はセリーナを紹介してくれたことを感謝する。こちらも話したいことがあるので、私の執務室へ行こう。」
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