王妃候補は、留守番中

里中一叶

文字の大きさ
21 / 37

21.

しおりを挟む
王太子殿下の執務室に初めて足を踏み入れたが、紺色を基調とした落ち着いた部屋で、殿下用の机と一回り小さい秘書官用の机とソファーセットがあり、秘書官用の机の上にある書類をサラサラと片付けているジョシュア様がいた。

「ジョシュア、帰った。クラビア公爵が来たから、話を始めるぞ。」
「では、この書類を陛下に提出して来ますから、少しだけお待ちいただけますか。」

ジョシュア様が急いで陛下の元へ行っている間にお茶が用意されて、従僕が部屋から出ていった。

ジョシュア様が戻り4人でソファーに座る。

「殿下、私はセリーナを紹介しましたが、アイリスの身代わりにしたつもりはありません。ちゃんと仕事を見て、アドバイザーを依頼したのではないのですか?」
「もちろん仕事はちゃんとしてもらったよ。それにセリーナを身代わりとは思っていない。」
「好きだった人に似ているからとまだ会ったばかりの女性を手元に置こうとするのは…」
「私の好きな女性本人なんだから、何も問題ないだろう?」
「殿下…」

「セリーナを王都に呼ぶ前に調査をして、セリーナ本人に確認をした。あのアイリス嬢はセリーナだったんだろう。」
「申し訳ありません。あの当時はどうしてもああするしか考えつかず、殿下にもセリーナにも迷惑をかけました。だからセリーナと新しく知り合ってもらえたらと考えておりましたが、既にご存知だったのですか…」
「それで話というのは、セリーナをクラビア公爵家の養女にして欲しい。モルトン伯爵家が悪いわけではないが、セリーナは候補にするには年齢的に反対される可能性がある。家格をあげてバックを固めておきたい。」
「クラビア公爵、先ほど陛下にサインを頂いてきた王太子妃候補認定書です。こちらに養女にして後見するとサインを頂ければ。」

ジョシュア様はそのために走って陛下の所へ行ったらしい。

「ジョシュア、君は本当に有能だな。息子に欲しかったよ。」
「クラビア公爵、私は宰相になるつもりですから、今後は息子のように扱っていただいても構いません。ちなみにクラビア公爵が養女にされない場合は、我がティーダ公爵家が手を上げますので。」
「なぜセリーナにそこまで?」
「決まっているじゃないですか、殿下が結婚してくれる、しかも優秀。母が気に入りましたからクラビア公爵夫人と母が後見なら、盤石だと思いますよ。」
「もちろんセリーナは娘同然なので養女にするが、ティーダ公爵家とも今後仲良くさせてもらおうか。」
「父にはセリーナ嬢の話は、視察に行って一目惚れしたクラビア公爵家に縁続きの伯爵令嬢がいるとしか話していません。母は王太子の叔母として事情を知りましたが、父に政治的関与をさせて壊したくないと協力的です。」
「父親にさえ話さないと?」
「父が母以外には優しくないのを知っていますから。」
「いつでも宰相執務室に遊びに来てくれ。歓迎する。」

私と殿下を置き去りにして2人で話を進めてくれる。

「では、足固めは出来ましたので、ちゃんとモルトン伯爵にお嬢さんをくださいってお願いしてきてくださいね。そこで断られたらあとは知りません。」

ジョシュア様に言われて、殿下は

「当たり前だ。セリーナを幸せにするとちゃんと言ってくるよ。」

と言ってくれる。
ジョシュア様の力により、私たちは、一歩どころか十歩くらい進んだ感じがした。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

【完結】氷の王太子に嫁いだら、毎晩甘やかされすぎて困っています

22時完結
恋愛
王国一の冷血漢と噂される王太子レオナード殿下。 誰に対しても冷たく、感情を見せることがないことから、「氷の王太子」と恐れられている。 そんな彼との政略結婚が決まったのは、公爵家の地味な令嬢リリア。 (殿下は私に興味なんてないはず……) 結婚前はそう思っていたのに―― 「リリア、寒くないか?」 「……え?」 「もっとこっちに寄れ。俺の腕の中なら、温かいだろう?」 冷酷なはずの殿下が、新婚初夜から優しすぎる!? それどころか、毎晩のように甘やかされ、気づけば離してもらえなくなっていた。 「お前の笑顔は俺だけのものだ。他の男に見せるな」 「こんなに可愛いお前を、冷たく扱うわけがないだろう?」 (ちょ、待ってください! 殿下、本当に氷のように冷たい人なんですよね!?) 結婚してみたら、噂とは真逆で、私にだけ甘すぎる旦那様だったようです――!?

【完結】殺されたくないので好みじゃないイケメン冷徹騎士と結婚します

大森 樹
恋愛
女子高生の大石杏奈は、上田健斗にストーカーのように付き纏われている。 「私あなたみたいな男性好みじゃないの」 「僕から逃げられると思っているの?」 そのまま階段から健斗に突き落とされて命を落としてしまう。 すると女神が現れて『このままでは何度人生をやり直しても、その世界のケントに殺される』と聞いた私は最強の騎士であり魔法使いでもある男に命を守ってもらうため異世界転生をした。 これで生き残れる…!なんて喜んでいたら最強の騎士は女嫌いの冷徹騎士ジルヴェスターだった!イケメンだが好みじゃないし、意地悪で口が悪い彼とは仲良くなれそうにない! 「アンナ、やはり君は私の妻に一番向いている女だ」 嫌いだと言っているのに、彼は『自分を好きにならない女』を妻にしたいと契約結婚を持ちかけて来た。 私は命を守るため。 彼は偽物の妻を得るため。 お互いの利益のための婚約生活。喧嘩ばかりしていた二人だが…少しずつ距離が近付いていく。そこに健斗ことケントが現れアンナに興味を持ってしまう。 「この命に代えても絶対にアンナを守ると誓おう」 アンナは無事生き残り、幸せになれるのか。 転生した恋を知らない女子高生×女嫌いのイケメン冷徹騎士のラブストーリー!? ハッピーエンド保証します。

元王太子妃候補、現王宮の番犬(仮)

モンドール
恋愛
伯爵令嬢ルイーザは、幼い頃から王太子妃を目指し血の滲む努力をしてきた。勉学に励み、作法を学び、社交での人脈も作った。しかし、肝心の王太子の心は射止められず。 そんな中、何者かの手によって大型犬に姿を変えられてしまったルイーザは、暫く王宮で飼われる番犬の振りをすることになり──!? 「わん!」(なんでよ!) (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

当て馬失恋した私ですが気がついたら護衛騎士に溺愛されてました。

ぷり
恋愛
 ミルティア=アシュリードは、伯爵家の末娘で14歳の少女。幼い頃、彼女は王都の祭りで迷子になった時、貧民街の少年ジョエルに助けられる。その後、彼は彼女の護衛となり、ミルティアのそばで仕えるようになる。ただし、このジョエルはとても口が悪く、ナマイキな護衛になっていった。 一方、ミルティアはずっと、幼馴染のレイブン=ファルストン、18歳の辺境伯令息に恋をしていた。そして、15歳の誕生日が近づく頃、伯爵である父に願い、婚約をかなえてもらう。 デビュタントの日、レイブンにエスコートしてもらい、ミルティアは人生最高の社交界デビューを迎えるはずだったが、姉とレイブンの関係に気づいてしまう……。 ※残酷な描写ありは保険です。 ※完結済作品の投稿です。

【完結】私、四女なんですけど…?〜四女ってもう少しお気楽だと思ったのに〜

まりぃべる
恋愛
ルジェナ=カフリークは、上に三人の姉と、弟がいる十六歳の女の子。 ルジェナが小さな頃は、三人の姉に囲まれて好きな事を好きな時に好きなだけ学んでいた。 父ヘルベルト伯爵も母アレンカ伯爵夫人も、そんな好奇心旺盛なルジェナに甘く好きな事を好きなようにさせ、良く言えば自主性を尊重させていた。 それが、成長し、上の姉達が思わぬ結婚などで家から出て行くと、ルジェナはだんだんとこの家の行く末が心配となってくる。 両親は、貴族ではあるが貴族らしくなく領地で育てているブドウの事しか考えていないように見える為、ルジェナはこのカフリーク家の未来をどうにかしなければ、と思い立ち年頃の男女の交流会に出席する事を決める。 そして、そこで皆のルジェナを想う気持ちも相まって、無事に幸せを見つける。 そんなお話。 ☆まりぃべるの世界観です。現実とは似ていても違う世界です。 ☆現実世界と似たような名前、土地などありますが現実世界とは関係ありません。 ☆現実世界でも使うような単語や言葉を使っていますが、現実世界とは違う場合もあります。 楽しんでいただけると幸いです。

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。

112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。 エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。 庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──

殿下、毒殺はお断りいたします

石里 唯
恋愛
公爵令嬢エリザベスは、王太子エドワードから幼いころから熱烈に求婚され続けているが、頑なに断り続けている。 彼女には、前世、心から愛した相手と結ばれ、毒殺された記憶があり、今生の目標は、ただ穏やかな結婚と人生を全うすることなのだ。 容姿端麗、文武両道、加えて王太子という立場で国中の令嬢たちの憧れであるエドワードと結婚するなどとんでもない選択なのだ。 彼女の拒絶を全く意に介しない王太子、彼女を溺愛し生涯手元に置くと公言する兄を振り切って彼女は人生の目標を達成できるのだろうか。 「小説家になろう」サイトで完結済みです。大まかな流れに変更はありません。 「小説家になろう」サイトで番外編を投稿しています。

処理中です...