王妃候補は、留守番中

里中一叶

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お妃教育も3ヶ月ほど経ち、だいぶ余裕が出来てきた。
そんなある日、殿下が慌てた様子で、私の部屋を訪ねてきた。

「セリーナ。北の国境近くの村が土砂崩れで、直轄領だから私が行くことになった。」
「お気をつけて。」
「復旧までしばらく帰れないけれど、これを渡しておくから、私だと思って持っていてくれ。」

渡されたのは、黒い石の入った太めの指輪だった。
私は自分のお気に入りのペンダントを殿下の首にかけた。

「私の瞳と同じ緑の石をお守りにお持ちください。おかえりをお待ちしております。」


慌ただしく殿下が出かけていき、10日ほど経ち、そろそろ現地についていると思っていた時、その知らせは突然ジョシュア様がもたらした。

「セリーナ嬢、落ち着いて聞いてくれ。殿下が復旧現場に行く途中で次にあった土砂崩れに巻き込まれて行方不明になったと連絡がきた。至急、対策本部を立ち上げるが、詳細を説明するから謁見の間に来てくれ。」

足に力が入らない。殿下がなんて言った?ゆくえふめい?

「セリーナ嬢、大丈夫か?」

ジョシュア様の問いかけに正気に戻る。急いで謁見の間に向かった。

ジョシュア様の話によると殿下と事務官2人は、直轄領まであと少しの山あいで先頭の事務官が音に気づき振り返った時には、土砂崩れが起きていて巻き込まれた殿下が行方不明に、もう1人の事務官は見つかったが重症だそうだ。
直轄領民が手分けして探しているが、なんの手がかりもなく時間だけが過ぎていく。
私は、すぐにでも現場に行きたいが、そんなわがままを言える立場でないことも分かっている。殿下から預かった指輪の石を無意識に撫でていた。殿下のいない今、私にできることは…

「ジョシュア様、土砂崩れした場所の道は復旧できそうですか。」
「先に崩れた方は、もう通れます。今回の場所は馬車は無理でも馬や徒歩なら。」
「では、民は孤立していないですね。殿下の捜索隊は被害に遭われた地区以外から募っていただけますか。復興の妨げにならないように。陛下、それでよろしいですよね?」

私の問いに陛下がうなづいて下さった。

「あと、殿下の馬は見つかりましたか?」
「現地には私が行きますから、そのように伝えます。馬はかなり下で見つかっているそうです。」
「そうすると殿下もかなり下に流されている可能性がありますね。」
「分かりました。ふもとの村にも確認しましょう。念のためエルシィを王宮に滞在させますが、セリーナ嬢は大丈夫そうですね。」

私の対応は、ジョシュア様に合格をもらえたようだ。
ジョシュア様が出立して、入れ違いにエルシィ様が来てくれた。

「セリーナ様。お部屋に参りましょう。」

本当は大丈夫な訳はない。必死に立っていただけの私は、エルシィ様の顔を見た途端、気が緩んだのか床に座り込んでしまった。

「セリーナ様。フレディはこんなことでセリーナ様を手放すはずがないわ。帰ってくるわよ。」

エルシィ様に抱えられるように部屋へ戻るとマーサたちが甲斐甲斐しく世話をしてくれる。みんなに気を使わせていると分かっているのに気力が湧かず、そのままエルシィ様に手を握ってもらって意識を手羽してしまった。



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