王妃候補は、留守番中

里中一叶

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「ん…」
「セリーナ様⁈」

マーサの心配そうな声がする。
何だっけ?ボーッとした頭で考える。無意識に触った左の薬指にある指輪の感触に現実を思い出した。殿下が行方不明になって…
私は気を失っちゃったんだ。
ダメだなぁ、こんなことじゃ殿下に留守を任せられないって言われちゃう。殿下…

「マーサ…殿下は?」

ゆっくりと目を開けて部屋の中を見回すとベッドの横にマーサとエルシィ様がいた。

「気がついた?」 
「エルシィ様…」
「私が王宮に着いてすぐに倒れたのよ。」

ベッドの中で上半身を起こし、マーサに枕を背中に入れてもらう。

「ご迷惑をおかけして、すみません。」
「大丈夫だから、こんな時だもの。私を頼りなさい。」
「エルシィ様、ありがとう。私、どのくらい意識がなかったのですか?」
「ジョシュアが出かけて、今は3日目の夕方、たぶん今朝、現地に着いたはずよ。」
「殿下は7日くらいかかるとおっしゃっていたけれど…」
「殿下の目的地だった村より現場が手前なのとジョシュア達は馬を乗り換えながら夜通し走るからね。まずは、いつでも動けるように食事にしましょう。マーサ、スープを用意して。先に水を飲む?」

エルシィ様に渡されたコップの水を飲むとかわき切っていた身体に染み込んでいくのが分かる。3杯ほど飲み干し、少し落ち着いたところでコンソメスープをいただく。優しい味に落ち着いていく。

「来たわね。」
「⁈」

エルシィ様は立ち上がり、外へ通じている硝子戸を開けるとバルコニーへ出る。バサバサと羽音がし戻って来たエルシィ様の腕には、隼が止まっていた。

「リーン、おかえり。返事書くから待っていてね。」

話がわかるのか、隼は止まり木代わりに私のベッドヘッドに移動した。

「ジョシュアから手紙が来たわよ。」
「伝書隼?」
「馬より速いし、伝書鳩と違って他の鳥に襲われないから、うちではよく使うの。この子をジョシュアに連れて行ってもらって往復してもらうわけ。」
「そんなことが、できるんですね。」
「リーンは特別だから。普通、行き来する場所は先に覚えさせないとダメだけど、この子はジョシュアと私のいる場所にちゃんと来るの。」

エルシィ様はリーンの足環から書簡を取り出して中を確認している。

「予想通り、今日到着したそうよ。現地の捜索隊が道の周囲は、捜索をあらかたしたので、下の村に範囲を広げているところだって。次の指示は?」
「私?」
「あなたがジョシュアに指示したんでしょ?フレディ捜索隊の隊長は、あなたよ。セリーナ!」
「ふもとの村や近くに住んでいる人たちに怪我人を世話している人がいないか確認してもらいましょう。意識がなかったり、けががひどいと殿下だと気付いていないかもしれないし、あとは周辺に洞窟とか使われていない小屋があれば、そこの捜索も。」
「書いたわよ。リーン、お願いね。パパに届けてね。」

リーンは足環を付けるとエルシィ様に甘えるように頭をエルシィ様の頬にすり寄せてから飛び立って行った。
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