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【勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている】
【第二章】 パーティー結成!
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改めて二人が同じテーブルで向かい合ったところで従業員である僕はまず女性の前にグラスに入ったアイスコーヒーを差し出した。
こちらが尋ねる前に西原春乃と名乗った金髪の女性はにこりと微笑み『ありがと』と一言告げて口を付ける。
一応は仲介した立場であるため本来ならば間に入るべき僕がその場を離れ二人きりにしてしまうのはどうかとも思ったが、どうやらそんな心配は杞憂に終わったらしくコーヒーを入れている短い時間に初対面であるがゆえの余所余所しさみたいなものはあっさりと消え去り、年頃の女子らしく? 髪の色について盛り上がっていたようだ。
ちなみにセミリアさんはコスプレ道具を用意しに一旦部屋に戻り、今は鎧を身につけ剣も持っているので銀髪の勇者再びといった感じである。
「でさ、やっぱ今の時代って自己主張してなんぼじゃん? だからあたしもこんな髪にしてみたんだけどやっぱセミリアの髪見ちゃうとちょっとヌルかったなって感じるわ」
この春乃さんは驚く程フレンドリーな性格の持ち主で、既に僕達のことを呼び捨てにしている。
自身のことも気軽に名前で呼べとのことだ。
「そんなことはない。ハルノの髪も綺麗な色をしているではないか、似合っていると思うぞ」
「いーや、まだまだだねっ。無難に留まってるようじゃ一生無難な道を歩いて行くんだよ。あたしはそんなの御免だもん。せっかく生まれてきたんだからその意味を刻むんだ、音楽で」
なにやら話が熱を帯びてきた。
セミリアさんも気を遣わずに済む関係性を即座に構築出来たことにある種の安堵を抱いているのか、はたまた純粋に感銘を受けたのかは定かではないけど、なんか普通に感心しているし。
「私と歳も近いというのに強い意志を持っているのだな。私も見習わねば」
うんうん、と小さく頷く姿は鎧や剣がなければどこにでもありそうな光景にも思えるが、こんな調子では本題を切り出すのが難しくなるじゃないか……というかそれも僕の役目なのか?
なんてげんなりしていた時、
「頼もぉぉぉー!!」
勢いよく店のドアが開いた。
響き渡る大声に女性陣の会話もピタリと止み、皆が何事か一斉に振り向いた。
全ての視線の先にあったのは細身で背の高い男性の姿。
長い髪を折り畳んだバンダナでたくし上げ、何かのキャラクターのイラストが大きく描かれたジャージーに下はジーンズというおかしな格好をしている。
「あ、いらっしゃいませ。お一人ですか?」
驚きと戸惑いを抱きながらも、やっぱり従業員である僕は反射的に客を出迎える姿勢を取っていた。
男はチッチッチ、と舌を鳴らしながら人差し指を振ると何故かドヤ顔で自らの立場を否定する。
「少年よ、悪いが俺は客じゃない」
「え……ではどういった御用でしょうか」
「冒険が俺を呼んでいた、とでも言っておこうか」
「…………」
あれぇ~?
それって……もしかして?
「つかぬ事を伺いますが……この辺りで掲示板をご覧になられたりしました?」
「うむ!」
「魔王を倒すとか、勇者の仲間にとか、そういった内容の?」
「いかにも!」
嘘でしょ……そんなことってある?
許可も取らずに掲示板に張りつけた甲斐があったね!
いやいやいやいや、無理矢理にテンションを上げて誤魔化している場合じゃなくて。
僕か?
僕がおかしいのか?
あんなワケの分からない内容の募集に二人も集まってくるなんて普通有り得ないよねどう考えても。
「えーっと、取り敢えずですね……もう一人いらっしゃいますので奥へどうぞ」
もう何がなんだか分からないのでとりあえず席にご案内。
全く理解は出来ていないけど、誰も来ないよりはずっといいんだから。
「セミリアさん、もう一人希望者がいました……」
「ああ、聞こえていたよ。よく来てくれたな」
「おおぉぉぉ!! イッツアビューティフルガール!! 我が名は高瀬寛太! 冒険あるところに現れる貴公子だ」
「キモ、何この変なおっさん」
「誰がおっさんだぁぁ!!」
少し前まで静寂に包まれていた店内の人口密度が急激に上がり、何やら騒がしくなってきた。
というか『変な』の部分はスルーでいいのだろうか。
「ちょ、ちょっと落ち着いて下さい。僕ももうすぐ交代の時間ですからそれからちゃんと話をしましょう。セミリアさんも春乃さんもそれでいいですか?」
「オッケー。確かにこうやって雑談するために来たんじゃないしね」
「うむ、二人にはしっかりと説明しなければならんしな。しかしコウヘイ、交代とはなんだ?」
「今日の店番は一時までなんです。もう代わりの子が来ると思うので」
この時間を指定したのはそれが理由である。
たまたまお客さんがいないからよかったものの、そうでなければ僕は一緒に雑談なんて出来ない。
「そうか。理解した」
「あなたもそれでいいですか?」
「うむ。しかし勇者たんが女だったとは驚いたぞ。いかにも流行の最先端だが、現実に目の当たりにするとこれ程の萌えだとは」
椅子に座ると腕を組み、うんうんと頷く高瀬さんとかいう男性は満足げだ。
対照的に冷めていく空気が残念でならない。
「……うわー」
春乃さんはもうあからさまに引いていた。
そう思っていても口に出さなかった自分を褒めてあげたい。
勇者たんって……やっぱり見た目の通りそういう趣味をお持ちの方なのだろうか。
そうでなければコスプレ会に参加しようとは思はないだろう、という分析はもっともだけども。
それにしてもみのりの奴遅いな~。
大方いつものご飯が遅くなってーってパターンなんだろうけど。
「ごめん康ちゃん! お母さんがご飯作るのが遅くなっちゃって~」
ナイスタイミング、そしてやっぱりか。
静まりそうになっていた店内を賑わせたのは、いつもの様に言い訳をしながらドタドタと裏口から店に駆け込んでくる一人の女の子だ。
名前は月野みのり、歳は僕と同じで十六。
幼馴染で調理師を目指しているみのりはその一環でこの店でアルバイトをしている。
僕と同じく付き合いが長く仲の良い母さんの誘いで働き始めたみのりは休みの日だけではなく平日も夕方からから店に出ているためヘルプみたいな僕とは違って正式な従業員である。
ゆえにみのりの時給は千円だ。
こればっかりはいつまでたっても納得がいかないんだけどね……僕の倍だよ、倍。
「おはよう、みのり」
「うん、おはよう康ちゃん」
「さっそくで悪いんだけど僕はこの人たちと話しがあるからあとよろしく」
「え、あ、いらっしゃいませ」
みのりはセミリアさん、春乃さん、変な人の存在にたった今気が付いたとばかりに慌ててご挨拶。
基本的にのんびりした性格なので大体いつもこんな感じだ。
「ああ、いいよ。お客さんじゃないから」
「ほえ? そうなの?」
みのりは一瞬きょとんとした後、すぐに目を細めて僕を見る。
これ以上ないぐらいの疑わしい者を見る眼差しだった。
「な、なに?」
「康ちゃん、ちょっとこっち来て」
なぜかみのりは僕の手を取り厨房の中へと引っ張っていく。
基本的にのんびりした性格なのに、頑固な一面を見せるから困ったものだ
「ねえ、あの人たち康ちゃんの知り合い? 康ちゃん外国の知り合いなんていたの?」
声が届かない距離まで連行されたところでようやく掴まれていた腕が離された。
何が悲しくてそんな疑惑の目を向けられなければならないのか。
「いや、知り合いってわけじゃないんだけど……成り行きで集まったというか」
「む~、康ちゃんまた変なことに巻き込まれてない?」
「へ、変なことって何さ……」
実際変なことになるのはほぼ間違いなさそうなんだけど。
ではどう変なのかは自分でも分かっていないので説明のしようがない。
「どうせ頼み事されて断り切れないまま話が進んじゃったんでしょ。じゃなかったら康ちゃんが外国の人とかあんなイケイケの女の人とか変なおじさんとかで集まって何かするはずないもん」
さすがは幼馴染、鋭い。
前例が多々あったのは否めないけども。
そんな僕の心中を察したらしくみのりは呆れ顔だ。
「もう、そういう時はちゃんと断らないと駄目って言ったでしょ。じゃないとまた歩いて日本一周とか馬鹿なことやろうとして途中で警察に保護されるようなことになっちゃうよ?」
「いつの話をしてるのさ。それは中学の時でしょ」
「いつの話でも同じだよ~、そうやって何でも安請け合いしていつも貧乏くじ引くんだから。分かった、わたしが断ってきてあげる」
「だあーっ、口出ししなくていいってば。みのりが出て行ったら余計ややこしくなるから」
「ほら、余計ってことは元々ややこしいってことじゃない」
「ほんと大丈夫だって。すぐ終わる話だから」
僕の役目はセミリアさんの仲間探しに協力することだ。
あの二人との話し合いが終わればそれで僕の出番は終わる。
「本当に?」
「うん。間違いなく」
「分かった。じゃあわたしもその話し合いに参加する」
「……は?」
「すぐ終わるんでしょ? だったら丁度お客さんも居ないし、康ちゃんがこれ以上変なことに巻き込まれないように」
「ちょっと待ってみの……」
その声は遠ざかっていく背中には届いていない。
早足でホールに戻っていくみのりはやがてセミリアさん達の居るテーブルへと帰り着き、止める間もなくやや緊張の面持ちで声を掛けてしまっていた。
「あのっ」
「む?」
強引に引っ張られていった僕を見て何事かとこちらの様子を窺っていたセミリアさんを始め、三人が揃ってみのりに視線を向けた。
元々気の強い方ではないみのりはそれだけでやや萎縮してしまっている。
僕もすぐに四人の方へ戻るが、もう手遅れ感がハンパない。
みのりは昔から一度思い込むと視界が狭くなり人の話を受け付けにくくなる傾向がある。そして大抵暴走して先走った行動を取るのだ。
「おお! イッツアビューティフルガール2!」
「おっさんうるさい!」
「誰がおっさんだぁぁ!!」
ギャーギャーと口論する春乃さんと高瀬さんに一層困った顔を浮かべながらもみのりはセミリアさんへと視線を戻し、言わなくてもいい台詞を口にしてしまった。
「えっと……わたしも、この集まりに参加してもいいでしょうか?」
辛うじてみのりを阻止出来なかったものの放っておくわけにもいかず、慌てて横からストップを掛ける。
が、やっぱりあんまり効果はない。
「みのり、早まるなってば。別に僕は参加するわけじゃ……」
「康ちゃんは黙ってて!」
「……えぇぇ」
何で僕にだけ強気?
あと人の話はちゃんと聞こう?
「貴女は?」
「あ、わたしは康ちゃんの幼馴染みで月野みのりっていいます」
「コウチャン? それはコウヘイのことか? ならば断る理由は無い、こちらからお願いしたいくらいだ。私はセミリア・クルイードという、よろしく頼む」
幸か不幸か、逆に誠実なセミリアさんは場外からの乱入者みのりにもしっかりと対応し、自己紹介もした上に握手まで求めている。
みのりは若干上ずった声で『よ、よろしくお願いしますっ』と差し出された手を握った。
しかもそのまま話が進もうとしている始末。
「ではコウヘイも戻ったことだしさっそく本題に入るとしよう。ハルノ、それからタカセカンタ、言い争いは後回しにしてくれ」
「むむ……勇者たんがそう言うならここは抑えておこう」
「何が勇者たんよ、気持ち悪い」
「お前の方が気持ち悪い」
「絶対あんたの方が気持ち悪い」
一旦言い争いを止めた春乃さんと高瀬さんだったが、一瞬で睨み合い一触即発の雰囲気に戻ってしまった。
だが、いい加減付き合いきれなくなったのかセミリアさんはお構いなしに話を続ける。
「まずはこの場に集まってくれたことに感謝する。コウヘイの他に力を貸してくれる者が三人もいるとは正直私も驚いている」
「セミリアさん、ちょっといいですか?」
「どうしたコウヘイ」
「このみのりは参加者じゃないんです。ちょっと勘違いしてるだけで」
「そうなのか?」
セミリアさんは僕からみのりへと視線を移すが、やっぱり簡単には引き下がろうとしない。
「いえ、わたしも参加します」
「みのり、いい加減に……」
「まあよいではないか。本人がこう言っているのだ、無下に参加を拒むこともあるまい。今は一人でも多くの同志が必要なのだ」
「それはそうかもしれないですけど……」
というか、コスプレが何人でやるものか知らないですけど。
「ではさっそく私から説明させてもらう。私の名はセミリア・クルイード、勇者をやっている。人員を募った理由は張り紙の通りだ、もっともあの説明だけでは全てを理解するのは難しいかとは思う。まずは私がこの世界に来た理由を聞いてくれ」
そんな切り出しに始まり、セミリアさんは事の経緯を順に説明し始めた。
同じ四人掛けのテーブルに腰掛けるみのり、春乃さん、高瀬さんがそれぞれが真剣な表情で耳を向けているので横やりも入れ辛く、横に立っている僕もひとまずは黙って聞くことに。
その内容は昨日僕が聞いた話とほとんど同じだったが、それでもセミリアさんは熱心に、時折感情的になって訴えかけるように話を続けた。
全然関係ないけど、どう考えても僕とみのりの立ち位置逆じゃない?
何で曲がりなりにも勤務中のみのりが椅子に座って交代で終わった僕が立ってんの?
「というわけなのだ。だから、どうか私に力を貸してくれればと思う。もうあまり時間は残されていない、今こうしている間にも苦しんでいる人がいるかもしれん、そう思うと心苦しいばかりだ。富や名声が欲しくてやっているわけではない。目の前であれ、見知らぬ土地であれ苦しんでいる人を見過ごすことなど出来ない。私一人で世界が救えるかどうかは分からん、それでも……私は多くの人々を救いたいんだ」
その言葉が終わると同時にセミリアさんは座ったままテーブルに両手を付き、頭を下げた。
内容が内容だけに皆がどんな反応をするかと少しの不安はあったけど、これだけの誠意に溢れる演説を茶化したりする者はおらず誰もが同じぐらい真剣に話を聞いていたことは間違いない。
「あたしはそっち系のことはよく分かんないけどさ、本気度ってのはしっかり伝わったよ。気まぐれだったけど来てよかったかも。力になるよセミリア」
「ハルノ……」
「ふっ、これも運命の一つか。任せておけ勇者たん、俺が勇者と魔王の長き戦いの歴史に終止符を打ってやる」
その直向きさに感銘を受けた様子の春乃さんと、話の内容そのものに感じるものがあった様子の高瀬さん。その二人の言葉を受けてセミリアさんの表情が少しばかり安堵に緩む。
「あ、あのっ、わたしも頑張ります!」
そんな二人を見て自分も何か言わなければと思ったのか、唯一全然分かっていなさそうだったみのりが胸の前で両拳を握って声を張った。
いやしかし、みのりはさておいても二人とも順応するの早いなあ……僕とは大違いだ。
「改めてその意志に感謝する。では私の話は終わりだ、次は適正検査も含めて貴殿等の話を聞きたい」
「適性検査?」
「なになに? それで駄目だったら参加出来ないなんて言うんじゃないでしょうね?」
春乃さんも僕に続いて疑問の声をあげた。
てっきり話の流れ的にここにいる二人はもう仲間として認められてるものだと思っていたけど、違うのだろうか。
「そんなに難しいことではない、元々人を選べる立場でもないからな。それでも大いに危険が伴うことだ、貴殿等の命を預かる身としては最低限の情報は知っていた方がいいだろう。仲間となるからには命を掛けて貴殿等を守ることを約束するが、誰がどういった人物かを把握しておくのはパーティーを組む上での基本だ。順番に名前と志望動機、それから職業を教えてくれ」
言ってセミリアさんはまず第一に僕を見た。
ふと、ある一つの疑問が浮かぶ。
「え? 僕もですか?」
「当然ではないか。旧知のミノリや私はよくともこの二人とは初対面なのだろう? ここに居る五人でパーティーを組もうというのだ、お互いを知っておかなくてはな」
「もしかしなくても……僕もメンバーに入ってるんですか?」
「コウヘイのおかげで光が見えたのだ。お主が参加しなくてどうする」
「ええぇ~……初耳なんですけど」
「む? そうなのか?」
セミリアさんは少し、いやかなり残念そうな表情をしている。
確かに力を貸してくれとは言われたが、それは仲間を集めるという目的に知恵を貸すということであって、その仲間に僕自信が加わるなんて話は一切なかったはずだ。
「えー、いーじゃん康平も参加しなよ。こういうのは人数が多い方が楽しいんだから。見ず知らずのあたし達が集まったのも巡り合わせってことでさ」
「それはそうかもしれないですけど……」
「そうだよっ、康ちゃんが参加しないと意味ないじゃん」
「その言い分はみのりが勝手に先走ったからこそだろうに」
呆れる僕などお構いなしにみのりと春乃さんは不満顔を向けてくる。
それを見たセミリアさんは僕の顔色を窺いつつ、複雑そうな表情だ。
「コウヘイ、どうしても嫌だと言うのなら強制するつもりはないが……」
「そういうわけじゃないんですけど、僕はそういった知識もありませんし参加しても何も出来ないと思いますし、居るだけ邪魔になるだけなのでは」
「そんなことは無い! 事実こうして……」
「まあまあ、落ち着け勇者たん」
少し興奮気味のセミリアさんを制したのは意外にも高瀬さんだった。
わざとらしく溜めを作り、一つ大きく息を吐いて僕と目を合わせると真面目な顔をしてこんなことを言う。
「この手のタイプは理屈では動かない。よくいるだろう、ヒロインと仲良くする主人公を嫌悪するタイプのサブヒロインが。そういうキャラを攻略するには理屈じゃなくハートで勝負するのが鉄則だ。お前もそういうタイプだろう?」
「いや……言ってる意味がよく分からないんですけど」
「いいか、康平たん」
「康平たん!?」
「人の価値というのは何が出来るのか、何の役に立つのか、そんなことでは決まらない。大事なのは何をしようとするか、その意志だ。ただ共にいるだけで勇気を与え、安心させてくれるような……そんな関係だろう? 仲間ってもんは、さ」
なぜか高瀬さんは遠い目をして言った。
何この無駄に熱いキャラ。
「ふっ、見た目によらず粋な事を言うではないか」
さらにはセミリアさんが感激したのか目元を押さえていた。
むしろ、やっぱり僕にはついていけないと証明されたのと変わらないのではなかろうか。
「……なぜ泣く」
「そういうわけだ少年。特に参加したくない理由がないのであれば参加してみてもいいだろう。こんな美少女の頼みを断れるほどモテる様には見えないぞ?」
「それは余計なお世話ですけど、まあ別に断る理由もないといえばないですね、確かに」
単に自分に縁がない趣味の世界だってだけで積極的に参加しようとは思わなかっただけだ。
そりゃ多少の偏見があったのは事実だけどね、変なことになるんじゃないかって。
でも悪い人ではなさそうだし、そもそもみのりだけ参加させて放っておくわけにもいかないし、今は春休みの一日ぐらい付き合ってみてもいいか、と思わなくもない。
「分かりました、では僕も参加します」
「おお、本当かコウヘイ」
「さっすが康ちゃん」
「そうこなくっちゃ」
女性陣三人の表情が一斉に明るくなる。
ついでに一人だけドヤ顔になっていた。
「ふっ、その調子でしっかりと俺を目指すのだ康平たんよ」
「それはお断りします」
「がーん!」
そんな遣り取りにその場を少しの笑い声が包む。
ともあれ、参加するならするでいい加減話を進めたいので言われた通り自己紹介をするとしよう。
「そろそろ話を戻しましょうか、自己紹介をすればいいんですよね。名前は樋口康平です、志望動機はいいとして……あと何でしたっけ?」
というわけで適性検査という名の自己紹介を再開。
最初に振られた僕が率先して話を始めればいくらかスムーズになるだろう。
「うむ、職業だな」
「職業は……学生? です」
「ガクセイ? ガクセイとはどういった職業だ?」
「えーっとですね、なんて言えばいいんだろう。ハイスクールです、ハイスクールスチューデント」
「?」
どうにもセミリアさんは理解出来ていない様子だ。
そういえばインターネットだって分かっていなかったっけか。
「セミリアさんってどこの国の出身なんですか? 流暢な日本語ですけど」
「グランフェルト王国だ」
「グラン……フェルト」
聞き覚えの無い国名に他三人の方を見てみたが、三人揃って全然聞いたことがない、といったジェスチャーだった。
もっとも聞き覚えがあったところでその国の言語なんて知らないのだから大して意味はないのかもしれないけど。
「学生っていうのは学校に行って勉強している人のことです」
「ほう、勉強か。つまりコウヘイは博士や大臣を目指しているというわけだな?」
「いや、そういうことじゃなくて……」
「それならばコウヘイは参謀役ということにしようと思うのだが、皆もそれでよいか?」
どうにも理解が及んでいなさそうだが、あまり細かいことは気にしても仕方がないのかもしれない。
その証拠におかしな方向で納得した風のセミリアさんが問い掛けると、すぐに全員が同意しているし。
「ま、いいんじゃない? 見た感じ康平はそういうタイプだし」
「康ちゃんに危ないことは似合わないので私もそれがいいと思います」
「戦闘は俺たちにまかせておけ」
……もうなんでもいいや。
「では次はミノリだ」
呼ばれたみのりは緊張の面持ちでピシっと姿勢を正した。
自己紹介というか面接みたいになってない?
「えっと月野みのりです。十六歳です。志望動機は……康ちゃんを守る為です」
「コウヘイを守る?」
「はい。昔からお人好しな康ちゃんは色んな事に首を突っ込んではよく大変な目にあってきたのでわたしがそれを止めないといけないんです」
「みのり、余計な事は言わなくていいから」
なんかすごく恥ずかしいよ。
「コウヘイは昔から人情家だったのだな。それにコウヘイを思いやるみのりも素晴らしい人間だと思うぞ」
「そ、そうですか? えへへ」
「しかし守ると言うが、何か心得があるのか? 剣術や武道、魔法の」
「少し前まで空手をやてました」
「カラテ? それはどういうものだ?」
「どう説明したらいいのか分からないですけど……人を殴ったり蹴ったりする練習? みたいな感じです」
「つまりミノリの職業は武闘家というわけか。それは頼もしいな」
「そ、そんな、武闘家なんて大袈裟なものじゃないです。じゃあなにかと言われたら困るんですけど……学生は康ちゃんが言っちゃったし、強いて言うなら……料理人見習いでお願いします」
「なんだよ職業料理人見習いって、学生でいいでしょ。別にかぶったら駄目だなんてルールはないんだし」
「そう難しく考えなくても構わんではないか。職業などただの基準に過ぎないのだからな。改めてよろしく頼む」
セミリアさんが言うと、みのりは「はいっ」と元気に答えるのだった。
そして面接……じゃなくて自己紹介は続く。
「では次はハルノだ」
「ほいきた。あたしは西原春乃、大学生。気軽に春乃って呼んでね。おっさん以外」
「誰がおっさんだぁぁ!」
春乃さんはおっさ……高瀬さんをスルーし、
「職業はボーカル、志望動機は刺激を求めてってとこかな」
「ボーカルとはなんだコウヘイ?」
「簡単に言うと歌を歌う人ですね」
「ほう、ハルノは歌い人なのか」
「そだよ。ロックバンド組んでるんだ。それでオリジナルの曲を作ってるんだけど歌詞に困っててさ、ちょっと知らない世界に飛び込んでみるのもいいかなって」
「ハルノは何か心得があるのか? 魔物に対抗出来るような」
「んー、格闘技とかはやったことないけど、ま、大丈夫でしょ。とりあえずギターでぶん殴るから。まさにロックって感じで」
「そうか、問題が無いならよろしく頼む」
「オッケー、まかしといて」
何がどうオッケーなのかはさておき、春乃さんは笑顔で親指を立てた。
セミリアさんは『うむ』と短く、それでいて満足そうに答えると続けて高瀬さんを見る。
「最後はお主だな。確か名前は……カ……カ……カンダタ?」
「ちっがーう! 俺は寛太だ! それ別の人!」
「おお、そうであったか。済まぬなカンタダ」
「おかしい……何かがおかしいぞ。確かに俺の名は寛太だ。だが最後の『だ』は名前の一部ではない『だ』であって、俺の名前は……」
「もー、おっさんの名前なんてどうでもいいから話進めてよ」
「誰がおっさんだぁぁ! そしてどうでもいいとか言うな、人の名前をなんだと思ってんだお前は」
「だから、カンタダでしょ?」
「こ、この馬鹿女め……」
高瀬さんが怒りのあまりプルプルしている。
分かってはいたけど、相容れない人種というか、やはりこの二人の相性は最悪のようだ。
「ま、まあまあ高瀬さん。落ち着いて下さい」
今にも立ち上がらんとする高瀬さんをどうにか宥めてみる。
すぐにセミリアさんも割って入ってくれた。
「無礼をしたのは私だ、済まない。どうか抑えてくれまいか」
「ぐっ、勇者たんに免じてここは引いといてやる」
「寛大な心に感謝する」
「よせやい!」
一瞬にして相好を崩す高瀬さんであった。
もう分からん、この人。
「では話を続けてくれ」
「うむ、もう一度だけ言っておくが俺の名はカンダタでもカンタダでもなく寛太だ」
……実際もの凄くややこしいな。
「志望動機は戦いが俺を呼んでいたこと、そして一攫千金の為だ。ちなみに職業はカリスマニートだ」
どこに胸を張れる要素があるのか。
そう思ったのは僕だけではなかったらしく、その姿と言葉にやっぱり春乃さんは引いていた。
「カリスマニートとはなんだ?」
そんな中、首を傾げるのはセミリアさんだ。
「セミリアさんに分かりやすくいうなら……遊び人ですかね」
「遊び人か、あまりいいイメージはないのだが」
「心配には及ばんぞ勇者たん。俺はいずれ賢者に転職する遊び人だからな」
「まことか!? それは凄い」
「間に受けすぎですよセミリアさん」
「それに、サバゲー経験があるからな。武器の扱いなら人並み以上である自信がある」
「それは頼もしい。では改めてよろしく頼む」
「まかせろぜ!」
最後に高瀬さんとも握手を済ませると、セミリアさんは立ち上がる。
リーダー気質とでもいうのか勇者キャラというべきか、ちゃんと仕切ってくれる人がいて本当によかった。
「では特に問題は無いようなのでここに居る五人でパーティーを組むことが決定した。残された時間も少ない、私の言い分ばかりを押しつけるのはいささか心苦しくはあるが、可及的速やかに私の居た世界に戻ろうと思う。各々準備もあるだろう、一旦解散し準備をした上で再びこの店に集まってもらいたい。異存がある者はいるか?」
「問題なーし」
「わたしも大丈夫です」
「僕もまあ、特には」
「萌えてきたぜええぇ」
「よし、では一旦解散!」
その言葉を合図に、それぞれが店を出たり持ち場に戻っていく。
春乃さんと高瀬さんは再集合時間に定めた午後六時までは準備に取り掛かる為に家に帰り、二人を見送ったのちにセミリアさんも『時間まで少しばかり休ませてもらう、部屋を借りるぞ』と部屋に戻っていった。
店内に残ったのは僕とみのりの二人だけだ。
「なんか思ったより楽しそうだね」
二人並んで横で洗い物をしていると、みのりがそんなことを言った。
なぜ僕が手伝っているのかは少々疑問ではあるが、いつものことなのでもう気にしても仕方がない。
「そうかなぁ……そりゃみんな悪い人じゃないんだろうけど、なんで春休みに僕はコスプレごっこに参加することになったのか未だに謎だよ」
「あはは、わたしもそういうのはあんまり分からないよ。でも康ちゃんと一緒になにかするのって久しぶりだし、まあいいかなって」
「そんなことないでしょ。よく宿題とか一緒にやってるじゃないか」
「もー、そういうのとは違うでしょっ」
「あっ、馬鹿、濡れた手で叩いたな」
「しーらないっ」
洗った食器類を乾燥機に掛けるとみのりは頬を膨らませながらホールの方へ行ってしまった。
何はともあれ、どうなることやら。
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竜人に転生したリュードが行く、のんびり異世界記ここに始まれり。
洗脳機械で理想のヒロインを作ったら、俺の人生が変わりすぎた
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白石翔太は、いじめから逃れるため禁断の選択をした。
財閥令嬢に自作小説のヒロインの記憶を移植し、自分への愛情を植え付けたのだ。
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偽りの記憶から生まれた感情に真実はあるのか?
マッチポンプ(自作自演)の愛に苦悩する少年の、複雑な心理を描く現代ファンタジー。
「愛されたい」という願いが引き起こした、予想外の結末とは——
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
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魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
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これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
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