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【勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている】
【第九章】 戦う術を
しおりを挟むとうとう三日目を迎えた異世界の朝。
宿屋を出た僕達は曇り空の下で出発の時を待っていた。
というか、正確には春乃さんを待っていた。
各自準備を済ませて外で集合、と決めてからかれこれ三十分は経っただろうか。
シャワーや化粧に加えて昨日買った服に着替える時間が必要だから先に出ていてと言った春乃さんは中々姿を現さない。
真っ先に文句を言いそうな高瀬さんは案の定腕を組み『たかが着替えにどんだけ掛かるんだ』と露骨にイライラしている。
ちなみに僕もみのりも昨日買った服に着替えており、僕はチープな無地の白い布の服を、みのりはそれに少し色と模様の付いた女の子っぽいものを着ているので少しは芸人っぽさも薄れるかと思っていたのだが、実際に着てみると大して変わらない感じだった。
「おまたせ~! 待った?」
丁度口に手を当てあくびをした時、建物の方から春乃さんの声が聞こえる。
案の定高瀬さんがすぐに振り返り、ビシっとその方向を指差し噛み付いた。
「待ったわ! 遅すぎんだろお前、最初の時散々俺に文句言ってたくせ……に」
が、その言葉は向けられた人物の姿を見た途端にしぼんでいく。
対照的に他の面々からは驚きの声が生まれた。
「うわあぁ凄いですー!」
『なんでい、ありゃ』
「……おおう」
なるほどその有様を見ると、高瀬さんが言葉に詰まる理由もみのりが目を輝かせる理由も一目瞭然だ。
現れた春乃さんは昨日までとは百八十度違う、派手というか目立つ服装に変わっている。
黒一色のレースに白いフリルがふんだんに盛り込まれた服と短いスカート、そしてヘッドドレスまで着けているその格好はいわゆるゴスロリとかいうファッションそのものだった。
どこでそんなものを……というかなぜこのタイミングでその格好を?
「お、おま、どこでそんなブツを……」
「ふふーん、昨日最後に行った店で見つけたのよ。なんでも他所の国のお城に仕える侍女が来るものなんだって。どうみのりん、似合う?」
「最高です~、すっごい可愛いですっ」
「確かに派手だがよく似合っていると私も思うぞハルノ」
「へへー、そんなに褒められると照れるわね」
「しかし、城に仕えてもいないのにその格好で旅をするのは少し不自然なのではないか? この国の物とは違うとはいえ用途は明白だろう」
「いーのよ、可愛けりゃなんでも。こういうのは自分のモチベーションの問題なんだから。一回こういう格好してみたかったのよね、あたし」
春乃さんは侍女をイメージしているのかスカートの裾を摘んで少し持ち上げ、ペコリと頭を下げて見せる。
唯一高瀬さんだけが恨めし気な目で睨んでいるどころか、わけの分からないことを言いだした。
「くそう、着ているのが金髪女じゃなければもっと感動があったってのに。みのりたんも是非着てみてくれ!」
「わたしはああいう派手なのはちょっと……」
凄まれたみのりは苦笑いで手を横に振る。
しかし簡単には折れない高瀬さんは徐々に声に力を入れながらみのりに迫っていった。
「いーや、ロリ属性を持つみのりたんの方が絶対似合うぞ。この金髪女より」
「ちょっとおっさん、犯罪者的発言をしながらみのりんに詰め寄らないでよ」
すかさず春乃さんが割って入り、みのりを迫り来る犯罪者から引き離した。
高瀬さんは一瞬残念そうというか悔しそうな顔で恨めし気に春乃さんを睨んだが、即座にセミリアさんにターゲットを変更する。
「じゃあ勇者たんはどうだ?」
「馬鹿を言え、私にこの様な格好が似合うわけがないだろう」
「ちくしょう、揃いも揃って素材の無駄遣いを……こうなったら俺も買って帰ってやる! 三着!」
「……三着も買うんですか?」
「保存用と観賞用と実用分だ」
「こらこら、実用すんなおっさん」
「うるせいやい。お前がそんな格好するから悪いんだ、せめてみのりたんもお揃いで着てくれたなら俺の萌え養分が満たされたってのに」
「満たされなくていいから。ていうかいつまでも変態話してないでそろそろ出発しようよ」
「うむ、あまり悠長にしている時間も無いしそうするとしよう」
「……どの口が言うんだお前。散々待たせておいて」
項垂れたまま言う高瀬さんと『べー』と舌を出す春乃さんを横目にセミリアさんが移動の為に輪になる体勢を取ると皆もそれに続く。
僕達もいい加減なれたもので、口論していようが他に気がいっていようがセミリアさんのそんな仕草を合図に手を取り合い輪になる習慣が身に付いていた。
「まずはノスルクに武器と羽根飾りを貰ってからグランフェルト城に行き、リュドヴィック王に拝謁する予定だ。では行くぞ、アイルーン」
その呪文が耳に届くと同時にまた数秒の時間で森の奥深くにある小屋へと到着。
そして例によってズカズカと中に突入すると、毎度のことながら来るのが分かっていたかの様にノスルクさんに出迎えられる。
「早いお着きじゃの」
「少し早かったか? ではまだ例の物は……」
「しっかりと完成しておるよセミリア。老体に鞭打った甲斐もあったかの、ホッホッホ」
いつ来ても置いてある大きな水晶玉の前に座って本を読んでいたと思われるノスルクさんは愉快そうに笑い、本を置いて立ち上がると小箱から羽根飾りを取り出し僕たち一人一人にそれを手渡してくれた。
それは確かにセミリアさんが首から掛けているものと同じで、布の紐に小さな羽根が二つ付いた首飾りだ。
「これがあれば身の危険に怯える必要も無いんだよな、おじいたん」
皆が手渡された羽根飾りを首に掛ける中、高瀬さんが改めて効能というか効力について言及する。
これは持っていれば大怪我をした場合にこの小屋に自動で退避させてくれるという代物だという話で、僕達にしてみれば未だ信じ難い気持ちになるのも無理はない。
「少なくとも死ぬことは無い、ということじゃな。余程のことが無い限りはな」
「余程のことって例えば?」
同じくみのりの背後に回って紐を結んであげている春乃さんが首を傾げる。
きっと答えは想像もしたくない様なものなのだろうが、遠慮なしに答えたのはジャックだ。
『即死の場合以外は、ってこったな』
「ちょっとガイコツ、怖いこといわないでよね。せっかく人が安心してんのに」
『これでも忠告してやってんだぜ? そのアイテムに胡坐をかいてたら死ぬぜってな。戦場で生き残るコツはどんな時でもどこかしらに緊張感を持ち続けるこった』
「そんなこと分かってるわよ。誰が死ぬ可能性のあるシチュエーションで気なんて抜くのよ、ガイコツのくせに偉そうに」
『んだとコラァ!』
「まあまあジャック、そうムキにならずに」
『ちっ、相棒がそう言うんならそうするがよ。この嬢ちゃん口が悪すぎんぜ』
「ていうかなんであんた康平っちの言うことは素直に聞くわけ?」
『簡単な話だ。俺ぁ相棒がいねぇと動けねえからな』
「何それ」
『百年も箱の中でジッとしてる気持ちはてめぇらにはわからねえだろうさ。そんなわけで俺と相棒には絆があんのさ。な、相棒?』
「……ノーコメントで」
「要するにジャッキーも俺の胸にいるルミたんと同じ気持ちを抱いているってわけだな?」
「「違うと思う」」
「ぐはっ、なんだその無駄なチームワーク」
高瀬さんは大袈裟に仰け反る。
追い打ちを掛けるように春乃さんとジャックが言葉を発した瞬間、僕達全員に向けて無敵の魔法が発動した。
オッホン!
今までよりも大きなその咳払いに高瀬さんも春乃さんも、ついでに僕もそーっとその音がした方へ顔を向けた。
視線の先にいるのは勿論笑顔のノスルクさんだ。その笑顔が逆に恐ろしい。
「そろそろ本題に戻ってもよろしいかの?」
「「「…………はい」」」
上擦った声を揃える僕達だったが、ノスルクさんは特に気にする様子もなく窓の横にある棚から取り出した四つの木箱をテーブルに並べていく。
三つは小さな箱、やけに大きな箱が一つの計四つだ。
「では約束通り、お主等一人一人に武器を授けるとしよう」
気を取り直す様な口調でノスルクさんはまず小さな箱を一つ開けた。
中には銃が収まっている。確認するまでもなく高瀬さんの私物だった物だろう。
「詳しい使い方などの説明は後で個別に行うが、パーティーならばどの武器で何が出来るかぐらいは知っておいた方がいいじゃろう、まずはカンタダ殿」
「おお!」
銃を手渡された高瀬さんが驚くのも無理はない。
全体的に、特にリボルバーの部分が元々の形に比べてえらくゴツくなっている上に銃口も太さと長さを増している。
素人目に見ても威力が増して強そうになった、というのが分かるぐらいだ。
「この装填部分に魔源石を元にした特殊な魔法石を仕込んでおる。炎、氷、雷そして風の呪文を発射することが出来るようになっておる。威力としては中級魔法を少し上回る程度と思ってくれればよい」
「おおおお!」
説明を聞いた高瀬さんは目を輝かせている。
他の者も、そんなことが出来るのかといった驚きの表情だ。
「ただ一つだけ、元々の玉を撃つ機能はもう使えんくなってしもうた。申し訳ないことじゃが」
「んなこと気にすんなっておじいたん。これがありゃ俺は無敵じゃまいか。まさに千人力だな、はっはっは」
高瀬さんは腕を組み大きく胸を張って得意満面に高笑いだ。
もう高瀬の高は高笑いの高だと言わんばかりだ。
「それは良かった。では次はハルノ殿」
「おっ、あたしのはどんなロックな感じになってんの?」
春乃さんもワクワクしたのが分かる口調でノスルクさんの元へと寄っていく。
ノスルクさんは唯一の大きな箱を少し手前に寄せるとゆっくりと開いた。
中には春乃さんのギターが入っているが、高瀬さんの銃とは違い特に目に見えて変わったようには思えない。
「……あんまり変わってなくない?」
春乃さんも同じ感想らしく、目を細め不満げにギターを眺める。
高瀬さんの銃みたく目に見えるグレードアップ感が欲しかったのだろう。
「そんなことはないぞハルノ殿。まず全体的に軽量化し強度を増しておる」
「わっ、ほんとだ。すっごい軽くなってる!」
「そして側部には特殊な軽量金属を貼ってある。これで打撃武器としての威力は大幅に増したといえよう。そして先端に穴が空いているのが分かるかの? そこからは放出系の呪文が発射可能になっておる。呪文の種類は魔法力の塊、所謂魔法弾の一種しかないがカンタダ殿の銃と変わらぬ程度の威力はあるし、何より連発が可能になっておる。近距離、中距離のどちらにも対応出来る武器というわけじゃ」
「おぉぉー、なんかよくわかんないけど凄いことだけは理解したわ。とりあえずギターでぶん殴ればいいってことね?」
「若干理解されていない気もするが……使い方は後で説明するとしよう」
やや呆れた様子のノスルクさんなど気にも止めず、春乃さんは戻ってきたギターを嬉しそうにセミリアさんに見せている。
ノスルクさんも今は言うだけ無駄だと悟ったのか、すぐに春乃さんを目で追うのを止めてみのりに向き直った。
「さて、次はミノリ殿じゃな」
「は、はいっ」
みのりはビシっと姿勢を正して緊張した様子でノスルクさんに数歩近づいていく。
僕も一緒に見守る目の前で木箱が開かれると、現れたのは何らかの武器を想像していただけに意外な物だった。
「武道の経験があるミノリ殿にはこれじゃ」
差し出されたのは一対の白い手袋だ。
といっても指を覆う部分がほとんど無い、いわゆる指ぬきグローブみたいなデザインをしている。
「手袋……ですか?」
「勿論ただの手袋ではない、口で言うよりやってみた方が早いかもしれぬな。さっそく手を通してみておくれ」
「わ、分かりました」
みのりは事情が分からないまま言われた通りに両手に手袋をはめる。
まさか相手を殴る威力が増す、ということは考え辛いが……。
「誰も居らぬ方向に軽く突きを放ってごらん。あくまで軽くじゃ」
「……はぁ」
首を傾げながら答えてみのりは軽く拳を握り、窓の方へ向かって拳を放った。すると、
パリン
「ひゃあっ」
「おおお」
みのりの悲鳴と同時に僕も思わず声を上げていた。
何がどうなっているのか空を切ったみのりの拳の先にある窓ガラスが割れたのだ。
僕にとっては魔法なんて現実味の無いものよりも凄いことに感じる。
「ごごごごごごめんなさい!?」
物を破壊したことへの罪悪感と今のは自分がやったことなのだろうかという思いの狭間でみのりは混乱しながら謝意を露わにした。疑問系で。
しかし促したノスルクさんは当然怒るでも困惑するでもなく、笑顔で諭すだけだ。
「よいよい、やれと言ったのはわしじゃ」
「なになに!? みのりんがやったの?」
「みのりたんがグレたぁぁー!」
ガラスの割れた音により騒がしい二人が集まってくる。
心配の色が見える春乃さんと違って高瀬さんはふざけているだけにしか見えないけど……。
「グレてないです~」
みのりは勿論あたふたしている。
横で見ていて何となく原理は理解したが……これはこれで大概超次元的だな。
「ほっほっほ、それだけいい突きじゃったということかの」
『大人しい顔してそこそこやるじゃねえかチビッこい嬢ちゃんも』
「ねえねえ今のも魔法なの?」
勝手に納得しているノスルクさんとジャックの会話に割って入ったのは春乃さんだ。
「理屈はそれほど難しいことではない、実際すでに同系統の武器もあるしの。甲の部分に仕込んだ宝玉の力で打撃系の攻撃を魔法力に変換して放出することが出来る仕様になっておるのじゃよ」
「それでガラスが割れたってわけね。ていうか先言っといてよ、ビックリすんじゃない」
「そりゃ済まんかったの。そのギターとやらの自慢話に夢中だったようじゃったのでな」
「う……」
痛いところを突かれた春乃さんはバツが悪そうに目を反らしている。
年の功とはよくいったものだ。いやそんなことは置いといて、
「じゃがまあこれならばあまり気の強い方ではないミノリ殿も直接敵に触れずとも攻撃が出来るじゃろう。衝撃波といってもあくまで打撃攻撃の形を失わず、かつ実際の攻撃力よりも威力も範囲も増して放出することが出来る。魔法攻撃が効かぬ相手などには特に有効じゃな」
「みのり、理解出来た?」
「うん、大丈夫。とりあえずギターでぶん殴ればいいんだよね?」
「違うからね!? 理解出来てないどころか話が一つ前に戻ってるよ!?」
「あー……えへへ」
「……笑ってごまかしても駄目だから」
頬を掻きながら苦笑するみのりの気持ちも分からないでもないが、こっちまで不安になってくるからもうちょっと頑張ろう?
話の途中から目をパチクリさせてたからそんなとこだろうとは思っていたけど。
『……おめえら本当に大丈夫か?』
そんな僕達をみてジャックも呆れている。
呆れられても無理をしてでも前向きに答えるしかないよね。
「後でもう一度説明すれば大丈夫だよ……きっと……多分」
自信は無いけど。
「まあわしも出来る限りの説明はさせてもらうが、頭で理解するよりも体で覚えた方が早いこともあろう。では最後に、コウヘイ殿にはこれを」
しっかり頼むぜおい、とかジャックが言ってる横でノスルクさんが最後の小箱を僕の方に差し出したため会話が途切れる。
期待よりは不安の方が大きいのは否めないが、それでも自分と皆の一番小さな箱を受け取り蓋を開けてみると中に入っていたのは銀色のどこにでもありそうな指輪が一つ。
一箇所に黒い宝石のようなものが埋まっている点を除けば本当にただのアクセサリーと相違ない感じだ。
「……指輪?」
「コウヘイ殿は戦闘要員ではないようなのでな、防御に特化したアイテムにしたのじゃよ」
「防御に……」
「使い方は至ってシンプルじゃよ。詠唱と共に見えない盾を生み出し、お主の身を守ってくれるというものじゃ」
「見えない盾……ですか」
僕は手の中の指輪をまじまじと見つめた。
明確なイメージは難しいが、他の人達のに比べれば確かに使い方はシンプルにも思える。
「これも実際にやって見た方が早いかもしれんの。わしが今からこのコップをコウヘイ殿に向かって放る、それを防いでみておくれ。指輪を嵌めた手を前にかざしてフォルティス、と唱えればよい。ではいくぞ、ほれ」
フォルティス?
と心で反復しながら左手の中指に嵌めている間にもノスルクさんは僕の準備を待たずにコップをこちらに向かってトスしてしまった。
「ええっ、ちょっとそんな急に、フォ……フォルティス!?」
何が何だか分からないままに右手を突き出し、ノスルクさんに聞いたばかりの言葉をそのまま口にする。
どちらかというとその突き出した手で直接コップを防ごうというぐらいの気持ちである。
だがゆっくり山なりに飛んできたはずのコップはその手に触れることはなく、僕の目の前で壁にでもぶつかったかのように跳ね返り、そのまま地面へ落下していき、そして割れた。
「おお……な、なんで? これが見えない……盾?」
「左様、今の詠唱によってコウヘイ殿の前に体を覆うぐらいの範囲でシールドが展開されたのじゃ。物理的な攻撃からも魔法攻撃からも身を守ることが出来るじゃろう。勿論、仲間を守ることもな」
つまり、イメージとしては透明の壁のようなものが現れるということだろうか。
驚き過ぎてその度合いを言葉で表現するのも難しくなってきたけど、魔法って何でもありだなぁ……。
「すげぇぇ! バリアじゃんバリア!」
「康ちゃんすごーい!」
理解しようと頭を巡らせているとギャラリーが勝手に盛り上がり始めた。
まあややこしいみんなの武器よりは効果が分かりやすかったということが多分にあるだろう。別に僕が凄いわけではないのだけど……。
「ていうか、ネックレスに首飾りに指輪って一気にチャラくなったわね康平っち」
「人が気にしていたことをサラッと言わないで下さいよ。どうせ似合ってないのは分かってますから」
いっそジャックだけでも外してやろうか。
なんて思っている僕を他所に春乃さんは愉快そうに笑っている。
「わしに伝えられるのはこんなところかのう。あとは実戦の中で慣れるしかないじゃろう」
その言葉をきっかけに僕達はノスルクさんの小屋の外で個別に貰った道具のレクチャーを受けた。
一人一人が実際に使っているのを見るとやはり問答無用に凄いものだ。
高瀬さんの銃は火を吹いたり氷を吹いたりと物理的法則無視の威力を発揮したし、春乃さんのギターはもうほとんどマシンガンみたいになっていた。
みのりに関しても最終的には小さな木をなぎ倒すぐらいのパンチを撃っていたし、僕の盾はというとこれも相当に現実味の無い凄さを発揮し高瀬さんの銃やセミリアさんの斬撃をその身で触れることなくあっさりと防いでしまう始末。
だが皆の興奮冷めやらぬ中説明を続けるノスルクさんによるとどの武器にも短所があり、僕の指輪も例外ではないとのことだった。
僕の指輪で言えばまず指輪をかざした一方向にしか効果が働かないことが一つ。
つまりセミリアさんが本気で僕を斬ろうとしたならば当然あの素早い動きで翻弄するだろう。そうなった場合には僕がその動きに反応出来なければその攻撃は防ぐことは出来ないのだ。
そしてもう一つ。
これも特に重要でこの指輪が生み出す盾は僕と盾の外からの攻撃を完全に防いでくれるのだが、有形の盾を持っている場合と変わらずその衝撃を無くす効果は無いとのことだった。
例えるなら、僕に向かって車が突っ込んできたとしよう。
その車に向かって盾を発動させることによってその車が僕の体に直接触れることは無くなる。
だが車が衝突したことによって生まれる衝撃は結局僕へと降り掛かるのだ。
つまりは片手で走ってくる車を止めるだけの筋力が無ければ車が盾にぶつかったのちに僕はその衝撃で吹き飛ばされる、というわけだ。
それでも正直やり過ぎなんじゃないかと思うぐらいの兵器っぷりだったし、いくら人々を苦しめるバケモノが相手とはいえこの威力の物を同じ生物に向けられるのかという疑問すら湧き上がるぐらいだが、ノスルクさんもセミリアさんもこれだけの装備をしてなお魔王に勝てる見込みは五分ぐらいではないかという見解を示した。
だからといって勝てる見込みが出るまで待つ時間など無いのだと申し訳なさそうに言うセミリアさんの言葉も十分に理解していたし、
『五分五分か、合わせて十割だな』
とか意味不明なことを言ってる高瀬さんも、
『世の中気合いと根性でなんとかなるようになってんのよ』
と相変わらずの行き当たりばったり、もといポジティブな春乃さんにも気後れはない。
そして、みのりも僕もせめてもの信念として怖いから嫌ですなんてことは絶対に口にはしないようにした。
どんな理由でももう引き返せないこところまで、自分達だけが逃げることなんて出来ないというところまではこの数日の旅で到達していることを自覚していたからだ。
そのために武器や羽根飾りを貰った。
そのためにセミリアさんに付いてきた。
勿論そんなことは建前で、少なくとも僕は未知なる危険に対する恐怖も、傷つく事への畏れも自覚しているし正直行かなくて済むならそれに越したことはないと思う気持ちすらある。
だけど、危ない目に遭うことがほとんど確定しているから、死ぬ可能性があるから……じゃあ止めておきます、なんて言おうとは全く思わない。例えそれが全ての人に許されたとしてもだ。
きっとこの数日の間に僕の現実味がなさ過ぎるせいでの開き直りとある種の勇気、そして『なんとかなるだろう』 だとか『分からないことは考えるだけ無駄だ』そんな根拠の無い前向きさが強引に加わってきたのかもしれない。
そんなことばかり考えていると自然と自嘲気味な笑いが漏れる。
「ん? 何笑ってんの康平っち」
「なんでもないですよ。とにかく、男ならやってやれ、ですよね」
「おっ、分かってんじゃん康平っち。さすがあたしの一番弟子だね」
春乃さんは笑顔で僕の背中を叩いた。
どこで聞いていたのか、すかさず高瀬さんが割り込んでくる。
「ちょっと待てゴスロリ。康平たんは俺の弟子だったはずだ、アボンのしるしに誓ってな」
また僕を挟んで元からありもしない僕の立場を巡って言い争いが始まった。
そんな二人や、もう慌てることもなく呆れた風でそれを止めようとするセミリアさんやみのりになぜか僕は人知れず頼もしさのようなものを感じながら、やがて五人揃って森を後にするのだった。
応援ありがとうございます!
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