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【勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている② ~五大王国合同サミット~】

【最終章】 再び旅の終わり

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 バターン!
 なんて、ほとんど蹴破らんばかりの勢いで扉が開いた。
 すぐに駆け寄ってくる人影が三つ。
 セミリアさん、夏目さん、ミランダさんだ。
「コウヘイ様っ」
「コウヘイ!」
「康平君!」
 再会の挨拶や心配掛けてごめんなさい、なんてことを口にするよりも先に三人が三人ともベッドに座ったままの僕へ、ほとんど飛び掛かってくる様に抱き付いてくる。
「うぅ、コウヘイ様……良かったですぅ~」
 いつもは一歩引いているミランダさんが、真っ先に僕の腰にしがみつくように手を回しながら涙を流している姿にまた少し罪悪感。
「コウヘイ、私が傍に居ることが出来ればこんなことにはならなかったというのに……すまなかった」
「康平君ー、ホンマに心配してたんやでー。目ぇ覚めてよかった……ホンマに良かったで」
 なんだか……もの凄く恥ずかしい。
 女性三人に抱き付かれていることもさることながら一人で勝手に死にそうになった挙げ句に、それによてってどれだけ心配を掛けていたかということに今更気付いた。
 無事でよかったね、ぐらいの感覚でいた直前までの自分をビンタしたい。
「心配させてしまってすいません。でももう大丈夫みたいですから」
「ホンマ、ウチら心配しすぎてハゲそうやったで。ミランダちゃんなんか戻ってきた康平君見て気失ったんやから、服もズボンも血塗れやったんやから」
「お恥ずかしいところを見せてしまいまして……あれ?」
 確かに僕の衣服は血でびしょびしょになっていたことは覚えている。
 しかし、今着ている服は新しい物に替わっているみたいだけど……。
「つかぬ事をお聞きしますけど、僕の服って誰が着替えさせてくれたんです?」
「そんなんミランダちゃんに決まってるやん」
「…………」
 そっちの方が恥ずかしい!
「それよりもコウヘイ、敵は魔王軍の幹部だったと聞いた。まさか一対一で倒してしまうとは……やはりお主はいつも私の想像を超える男なのだな」
「倒すというより、倒すのは無理だと思ったので最初から相打ち狙いに徹しただけなんですけどね……」
 我ながらよくそれを成功させることが出来たとは思うけど。
 もしまた似た様な場面に直面した時に同じ事をする勇気が持てるかどうかは相当自信ないし。
「それでも、だ。マリアーニ王も大層感謝しておられた。今回の旅におけるお主の活躍はリュドヴィック王や他国の耳にも届くだろう。お主の存在はまたしても我が国にとって良い効果をもたらしてくれることになるのだ」
「いやぁ……」
 未だ僕の腰で嗚咽を漏らしているミランダさんの頭を撫でつつ、そんな言葉を聞いていた。
 毎度のことながら同じ感想を抱く。
 持ち上げすぎ、である。
 マリアーニさんのことにしたって、セミリアさんや会場に居た他の国の人達であったなら簡単に連れ去られはしなかっただろうし、僕みたく相打ちなんて狙わなくても勝てた可能性が大いにある。
 僕だからこうなってしまっただけなのに、それが何故か凄い事をしたかの様に言われるのはいかがなものか。
 一周回って『弱いくせによく頑張ったね』と言われている気さえしてしまうのが率直なところ。まさかこの人達がそういう意味で言っているわけがないことは勿論理解しているけども。
「ところで、サミュエルさんと高瀬さんはどちらに?」
「二人とも心配しとったけど、TKは船酔いに負けて寝てるわ。サミュやんはツンデレらしくウチ等と一緒にこの部屋来るのが恥ずかしいんか知らんけど、目ぇ覚ましたんやったらちょっとの間休んで、その後康平君の方から自分に会いに来いゆーてたで」
「そうですか、ではサミュエルさんには了解しましたとお伝えください」
 ほぼ確実に心配していた云々ではなく、お説教や叱責を受けそうだけどそれがあの人ってことろか。
「コウヘイ、到着まではしばらくあるが私達と一緒に部屋に戻るか? マリアーニ王はこの部屋を使っていて構わないと仰ってくれているが」
「そうですか、ではお言葉に甘えてもう少し横にならせてもらおうと思います」
「分かった。では私達は邪魔にならぬよう部屋に戻る。何かあればすぐに呼んでくれ」
「ありがとうございます」
 答えると、三人は一言二言残して部屋を出て行った。
 ちなみにミランダさんは厨房でみんなの軽食を作っている最中だったらしく、それが終わり次第また戻ってきますと未だ心配そうに言われたりもした。
 そんなわけで一人用の部屋は急激に静けさに包まれ、僕一人が残される。
 僕と、いつの間にか僕の首に戻っているジャックだけだ。
『相棒、ご苦労だったな。さすがの俺もお前さんが刺されたのを見た時は肝を冷やしたぜ』
「ジャックのどこに肝があるのやら」
『そりゃ言わねえのがお約束ってもんだ』
「でもまあ、本当に色々あったよ。今回も」
『その全ての出来事においてお前さんの存在がなければ結果は違っていただろう。相棒は嫌がるかもしれねえが、もう何も知らないどこにでもいる普通のガキって自称は通用しねえぜ? お前さんは立派に国や仲間を背負える人間だ』
「そんな大袈裟に表現されるような人間じゃないよ、僕は。確かに頭を使う場面はそれなりにあったけど、そういうところで多少なりとも役に立てたならそれで十分だからさ」
『相変わらず自己評価の低い相棒だぜ。だが、いい加減それも周りが許してくれなくなる頃だろうがな、カッカッカ』
「何が面白いんだか」
『それから、一つだけ言っておこうと思っていたんだがな』
「何を?」
『あっちの姫さんだが、大層おかしな能力を使っていたぜ? お前さんを治した魔法だが、ありゃ異常だ。貫通した腹の傷を綺麗さっぱり治しちまう、そんな回復魔法はあり得ねえ』
「何か特殊な能力ってこと?」
『だろうな。いくら回復魔法が得意な奴でもそこまでの効果になることはねえし、何よりそのスピードだ。長い時間当て続けりゃ多少深い傷でもある程度治すことは可能だろうが、それでも完治させることは出来ねえ。それをあの短時間でやっちまうってのは普通の魔法じゃねえ』
「ふーん……確かに他の国の人には使っちゃいけない能力だ、なんて本人も言ってたけど……」
 もしかしたら例の生まれ持った覚醒魔術ナチュラル・ボーン・ソーサリーってやつなのだろうか。
 だけどまあ、今はその正体なんてどうでもいいか。
「どんなおかしな能力だったとしても、そのおかげで僕が死なずに済んだだから今は気にしないでおくよ。生きていることに感謝、それでいいじゃない」
 あとは島に帰って旅の報告をして、グランフェルト王国に戻って、どのぐらい滞在するのかは分からないけど少し休んで日本に帰るだけだ。
 そう思うと、やっと少し安心できた。同時にまた眠気が襲ってくる。
「ごめんジャック、安心したら眠たくなってきちゃった。少し寝るね」
 短く伝え、僕は再び瞼を閉じる。
 前回の魔王の時と同じか、それ以上に危険だらけの旅になってしまったけれど、どうにか今こうして無事に帰ってこれた。
 だから僕はこの台詞を繰り返す。
 結果よりも過程に拘る僕であれど、やっぱりこの台詞を繰り返すのだ。
 終わりよければ全て良し、だ。
 少しの達成感を胸に、僕は再び眠りに落ちていく。
 こうして僕と僕達の異世界で繰り広げられた二度目の冒険は終わりを迎えるのだった。
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