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【勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている③ ~ただ一人の反逆者~】

【プロローグ】 国王の悩み事

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   ~another point of view~


 グランフェルト城は慌ただしい雰囲気に包まれていた。
 あちらこちらで兵士達が駆け回っており、そのほとんどが数人を一班にして城外へと向かっている。
 その様子を横目に、兵士達とは逆に城の奥へ向かって広い廊下を歩く一人の少女が居た。
 背には大きな剣を携え、光が当たって一層輝く銀色の綺麗な髪の毛をなびかせながら凜とした表情を崩さずに城内を進むその少女の正体は国民や兵士からは救世主と呼ばれ、国士無双と謳われる女勇者セミリア・クルイードである。
 普段と違う城内の様子にセミリアは一体何事かと引っ掛かってはいたが、兵士達は自身に気が付くと頭を下げ、大きな声で挨拶こそしてくれるものの話し掛ける間もなく走り去ってしまう。
 敵襲や何らかの事件であれば真っ先に自分の元に知らせが届くはず。
 それすなわち誰かが危険に晒されているわけではないだろうと思いこそすれ、では何があったのかということが気になって仕方がなかった。
 そんな中、ふと視線の先に城に仕える使用人の姿が目に入る。
 兵士達の邪魔にならないよう廊下の端を歩く彼女達ならば話をする暇もないということはなさそうだ。
 そう考えたセミリアはその若い使用人に声を掛けた。
「ミランダ」
「ほえ? あっ、勇者様! ご苦労様です、何かお飲み物をご用意しましょうか?」
「ああいや、飲み物は結構だ。それよりも、これは一体なんの騒ぎなのだ?」
「それが、ロールフェリア様がお部屋から抜け出されてしまったようで……慌てて街を捜索に出ているところだということです」
「またか……ということは、やはり勉強を嫌ってのことなのだろうな」
「恐らくは」
「一頻り街を物色すれば飽きて帰ってこられるだろうが、そういう問題でもないのだろうな。私が今日国王に呼ばれた理由が分かった気がするよ」
 引き留めて悪かったな、仕事を頑張るのだぞ。
 最後に一言告げて、セミリアは止めていた足を再び動かした。
「いってらっしゃいませ」
 と、お辞儀をするミランダに軽く手を振りながら。

          ○

「セミリア・クルイード、参りました」
 間もなく謁見の間に到着すると、すぐにセミリアは膝を折る。
 目の前に座るこの国の主リュドヴィック王はすぐにセミリアを立たせたが、その表情は晴れない。
「わざわざ呼び立てて済まなかったな、勇者クルイードよ」
「何を仰います。気など遣わないでください」
「そう言ってくれるとわしも助かる。もうわしにはどうすればいいものか」
「それは、ローラ姫のことでしょうか」 
「もう耳に入っておったか。今度は大臣に付かせてみたももの、一刻と持たずに投げ出してしまう始末でな……」
「大臣でも駄目でしたか……私やガイア様でも同じ結果だった以上は致し方ないのかもしませんが、やはりローラ様の勉強嫌いは筋金入りと言わざるを得ないのでしょうね」
「率直に申せば予想通りの結果になっただけの話だが……そう悠長な事も言っていられないのだ勇者よ。わしもいい歳だ、いつまで王でいられるかも分からぬ。その時、わしの後を継ぐのはローラしかいないのだ。軍事も政治もまるっきりでは民が不憫でならぬ」
「縁起でもないことを仰らないでくださいリュドヴィック王。まだまだ王位を退くような歳ではありますまい」
「そうであったとしても、いずれそうなることは変わらぬ事実であろう。クルイードよ、今一度お主がやってみてはくれないだろうか」
「断る理由はありませんが……ローラ様の勉強嫌いは無関係に私は適任ではないかと存じます」
「なぜそう思うのだ?」
「武術や剣技を教える、というのであればまだしも、元々私自身頭の良い方だとは思っておりませぬ。軍事はともかく、政治について適切な指導が出来るとも思えないのです」
「うーむ……しかし、ローラよりはずっと経験も知識もあるであろう? もうローラに軍事や政治を覚えさせることは半ば諦めておる。それでもローラが王になる日が来るのであれば、例えどれだけ無能であったとしても王としてこの国の旗印、象徴とならなければならなぬ。だからこそ、せめて信頼出来る者を傍に置いておきたいのだ。ローラ本人にその器が無くとも、ローラの横でローラに代わって国のために指揮を執る優れた人物に支えて欲しいと、そう思っているのだ」
「そのお気持ちとお考えは理解しました。しかしリュドヴィック王、それならば尚のこと私などには務まるとは思えませぬ。先程も申し上げた通り、私は戦闘以外であらゆる事情を考慮し、その上で適切な判断が出来るほど賢い人間ではないでしょう。それが国を背負い民の生活を左右することともあれば尚更に」
「しかし、お主以外にそれを任せられる人物がいるとも思えぬ」
「ガイア様が亡くなってしまわれた今、確かに早急に人選せよと言われると難しいものがあるかもしれませんが少し時間を掛けてそれに足る人物の選定を……」
「いや、待つのだクルイードよ」
「はい?」
「良いことを思い付いたぞ。わしの悩みを解決し、ローラを預けるに足る、優れた才気を持っておる上にお主の信頼も厚い者がおるではないか」
「……と、いいますと?」
「コウヘイを呼べばいいのだ」

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