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【勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている④ ~連合軍vs連合軍~】

【第十三章】 襲撃

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 船から飛び降り、高く跳ねた馬はそのまま海面に着地する。
 後からは『コラァァァ! そこの犬っころ! 誰に断ってお姉様に抱き付いてやがりますかぁぁ!!』とかなんとかユメールさんの怒声が聞こえた。
 そんなこと言われても本気で怖い僕は必死にしがみつくしかない。というか誰が犬っころだ。
 なんて思っている場合ではないので足下に目を落とすと、驚くことにそこかしこに氷が張っていた。馬はその氷の上に着地していたのだ。
 幅一メートルほどの氷の床は、数百メートル先の港まで続く道の如く遠くまで続いている。
「行くぞ」
 直後に聞こえたクロンヴァールさんの号令を合図に馬が走り出した。
 後ろからも足音が聞こえてくる。
 どうやらセミリアさんとユメールさんも後に続いているみたいだ。
 どんな原理で氷が張って、なぜそんなことを馬が出来るのかは一切分からないがとにかく、三頭の馬が隊列を組んで陸地へ向かって走る。
 氷の上を走る馬に乗っているというのは中々恐ろしいものがあったけど、確か外国では氷の上を走る競馬のレースがあるんだっけか。
 なんて元居た世界での事実などなんの気休めにもならず、馬が大きいせいで高さはあるし速度は速いし落ちたら海だしという恐怖に耐えるべく、僕は必死にクロンヴァールさんの腰に手を回してしがみついているのが精一杯だ。
 背後からは延々と、クロンヴァールさんに続いているのではなく僕を捕らえてどうにかしてやろうと追い掛けてきているのではないかという勢いでユメールさんの怒る声が聞こえてくるが正直それどころではないので聞こえないふりをする他あるまい。
 やがて港に到着し馬が足を止めると、安堵する暇もユメールさんから文句を言われる暇もなく惨状とも呼べる光景が目に入った。
 宿舎なのか休憩用なのかは不明だけど、右手に見える船員や兵士達が使うためにあるのであろう大きな小屋は半壊し、船から見えていたまんな煙が立ち登っている。
 そしてその周りには兵士らしき格好をした人達が数名、地面に突っ伏すように倒れていて動く気配はないことが一目で分かった。
「クロンヴァールさん、あの人達っ」
 馬が動きを止めたため腰に回していた手を離し、背中越しにその名前を呼ぶ。
 だがクロンヴァールさんは兵士や小屋の方を見ようとはせず、前方を見たままだ。
「皆まで言うな。今私達が気にすべきは他にあることが分からんか」
 分からんか。と言われても分からい僕だが、怪我人を放置してまで優先すべきこととは何かと考え、セミリアさんやユメールさんが同じ方向に目をやっていることで理解した。
「まさか、誰か居るんですか?」
「今頃気付いているようでは長生きは出来んぞ阿呆」
「そう言われましても僕は気配とかで分からない人間なの……」
「そこに隠れている賊よ、吹き飛ばされたくなければ出て来い!」
 クロンヴァールさんは僕の言葉を掻き消し、港の後ろに広がる雑木林に向かって声を張った。
 既に横に居るセミリアさんは馬に跨ったまま剣を抜いている。
 二秒か三秒かして、林の中からパカパカと馬を引き連れながら現れたのは若い男女の二人組だった。
 男の方は僕より少し年上であろうどこか目付きの悪い青年だ。
 右手に大砲の砲身のような物を嵌め込む様に装着していて、某猫型ロボットアニメに出てくる空気砲さながらの、何らかの武器であることが一目で分かる物騒な右手である。
 そして女の方はまず間違いなく僕より年下であろう少女だった。
 見るからに十四、五歳という若さで、にも関わらず両の太ももに装着された鎌がキラリと光っている。
 二本の鎌の柄の部分が鎖で繋がれておりチャリチャリと音を立てているところを見るに鎖鎌といわれる武器の様だ。
「貴様等、何者だ」
 クロンヴァールさんが先制で二人組に問い掛ける。
 背中越しなので顔は見えないけど、声のトーンからしていつか僕が死を連想させられた時の恐ろしい目をしているのだと分かった。
「やっはっは、まっさかあの姫騎士が直々にお出ましとは誤算もいいところだねぇ。オイラはハイアント・ブラック。誇り高き帝国騎士団の五番隊副隊長でやんす」
 答えたのは男の方だ。
 クロンヴァールさんの殺気に怯むことなく、どこか余裕すら感じられる佇まいをしている。
 次いで少女も自己紹介を始めるが、共に武器を構える様子はない。
「あたしはルイーザ・アリフレートっていうッス。同じく帝国騎士団三番隊副隊長、よろしくッス」
「ほう、貴様等が噂の帝国騎士団とやらか。港を襲撃したのも貴様等か?」
 言葉を返すクロンヴァールさんは対照的に腰の剣を抜いている。
 もはやその問いを否定したところで何の意味も為さぬであろう声音である。
「当然、って言ったらどうするでやんすか?」
「当然でないと言ったところでここで捕らえる。腕の一本や二本は覚悟してもらうぞ」
「いやはや、喧嘩っぱやいことで。うちの隊長に通じるところがあって嫌いじゃないでやんすが、どうするアリフレート?」
「姫騎士に加えて、あの銀髪は確か聖剣とか言われてる奴ッスよブラック。あたし等じゃまず勝てないッスよねぇ」
「んじゃま、いい土産話も持って帰れそうでやんすし逃げるとしやすか」
 呆れ声で首を振るブラックと名乗った男は右手の砲身をこちらに向けた。
 まさかいきなり攻撃してくるつもりかと僕はいつでも盾を発動出来るように男の動向に神経を集中する。
 一瞬にしてこの場にピリピリとした空気が張り詰めたことが僕にすら分かった。
 しかしこちらを向いていた砲身は下方へとずれ、地面に向いたところで制止したかと思うと次の瞬間にはけたたましい爆音が鳴り響かせる。
 次の瞬間、辺り一帯は煙に覆われ視界の全てを白く染めていった。
 所謂煙幕という物なのか、瞬く間に白以外に何も見えなくなってしまう。こんな状態で攻撃されようものならひとたまりもない。
 僕の身体は無事だし、目の前のクロンヴァールさんもそれは同じであったがセミリアさんは大丈夫だろうか。
 名前を呼んで安否を確認しようかとも思ったものの、声を出すことで居場所を察知されてはクロンヴァールさんが微妙に位置をずらしている意味が無くなってしまう。
 どうにか目で確認出来ればと視線を彷徨わせたが、セミリアさん達も攻撃に備えて場所を変えているらしく人影は見当たらない。
「クリス、聖剣、追うぞ!」
 僕の心配など何のその。
 クロンヴァールさんの声が響くとすぐに馬が急発進し、前方へと駆け出した。
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