勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている

まる

文字の大きさ
205 / 231
【勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている⑤ ~破滅の三大魔獣神~】

【エピローグ】 狂い始めた歯車

しおりを挟む
   ~another point of view~


 カルマがフローレシア王国で邪神を蘇らせようとしている頃。
 アークヴェール宮殿では人間界サントゥアリオ共和国から帰還したばかりの淵帝ゴアが最高幹部に位置する者達を招集していた。
 宮殿内で最も広く、最も大きな淵帝の間で最も豪華な帝王の玉座に腰掛けるゴアの前には招集に応じて駆け付けた四人の魔族が並んで立っている。
 魔王の一人である三男ドネス。
 同じく魔王の一人であり末妹であるシェルム。
 そして四天王の肩書きを持つシオンとマグマである。
 一切戦いに加わることなく、気弱でおどおどとした態度が常であるドネスの表情や佇まいは日頃のそれとの違いを推し量ることを困難にさせていたが、少なくともシェルムとシオンの二人はどこか普通ならざる雰囲気を感じているのは自分だけなのだろうかと周囲を見渡し、それぞれの顔色を窺っていた。
 息子と娘、四天王は全員集まるようにと伝令を受けたものの、それに該当する者の半数がこの場に居ないのだ。
 ドネスほどではないにしろ、ほとんどの時間を宮殿で過ごしていることもあってその理由を知らない二人がそれを疑問に思わぬはずもなく、どうにも形容しがたい不安を払拭することが出来なかった。

「マグマよ、メゾアはどうしたのだ」

 ゴアは玉座に腰掛け、四人を見下ろした状態を維持したままながらようやく口を開いた。
 その声色や表情は普段との違いを感じさせるものではなかったが、言葉を操ることの出来ないマグマの返答に対する言葉は全ての認識を覆させるものだった。
「ブブ……ブブブ……」
「いつまでも身勝手な奴だ。まあよい、たった今カルマ、エスクロ、バジュラが最後の仕上げに取り掛かるために地上に行っている。それが終わればようやく……ソ、ソレが終レバ……ようやく我等魔族が頂点に立つべく人間を討ち滅ぼす時を迎えることが出来るのだ。長き……ナ、ナガキ戦いに終止符を打ち、人間を……ニンゲンをミナゴロシにスル時ガ来タノダ!!」
 大きな声が広間に響く。
 立ち上がり、拳を握りながら吠える様に言ったゴアの言葉に呼応する者は誰一人として居ない。
 少しの間を置いて二つの小さな声が重なる様に返っただけだった。
「……淵帝様」
「……パパ?」
 シオンは心配そうな顔で、シェルムは不安そうな表情で、それぞれゴアを見詰めている。
 その声に、その視線に気付いていないのかゴアは似通った言葉を繰り返すだけだ。
「今こそ憎き人間を……ニ、人間ヲ……愚カナニンゲンヲ殲滅スルトキダ。ス……ス……スベテノニンゲンヲ……コノヨカラハイジョシ、ネダヤシニスルノダ!!!」
 再び大きな声の後に静寂が残る。
 ほとんど焦点の合っていない目で、どこか狂った様に吠え猛るゴアに恐怖さえ覚えるシェルム、ドネス、シオンの三人はどう反応すればいいのか分からずただ言葉を失う他ない。
 しかし、それでいてふと何かが切り替わったかの様に、唐突に我に返ったかの様にゴアの表情、雰囲気が見知ったものへと形を戻した。
「カルマ達が戻るまでは待機でよい。ドネス、シェルム、お前達は自発的に戦いに加わることもないだろうが、くれぐれもメゾアのように勝手な真似はしてくれるでないぞ。用件はそれだけだ」
 ゴアは普段の落ち着いた口調でほとんど一方的に言い付けると、見るからに不安げに何かを問いたそうにしている三人には目もくれずに部屋を後にした。
 残された四人から特に感想も抱いていないマグマを除いた三人に酷く後味の悪い心証を残して。

          ○

 淵帝の招集からしばらくが経った頃。
 四天王の紅一点である蟲姫シオンは一人宮殿の中心部にある長い廊下を歩いている。
 寝付くまで傍に居て欲しがるシェルムが寝入ったのを見守ると、どうにもジッとしていることが出来ずにある人物に会いに行くことを決めた。
 その頭に思い浮かぶのは部屋に戻った後のシェルムの怯えた顔だ。

『パパなんかおかしかった……あんな風に怒鳴ったりするの絶対変だよ、あんなに怖いパパ見たことないもん……』

 そう言って寄り添ってくるシェルムの抱く不安と自分が感じた正体不明の不安は同じものなのだろうと、シオンは広間での出来事を思い返している。
 淵帝様の様子がおかしいことは間違いない。
 人間を恨み、憎む気持ちは語り尽くせない程に蓄積しているだろう。かといって復讐心に我を失う様なタイプではないはず。
 であるにも関わらず、先程の様子は明らかに普段の様子と違っていた。
 これから何が起ころうとしているのだろうか。

「シェルム様は戦い続け、人間を滅ぼすことよりも家族やわたくし達と共に笑って過ごせる未来を望んでおられるのに……」

 様々な思考が渦巻く中、シオンは無意識にそんなことを呟いていた。
 兎にも角にも、カルマ様に会いに行けば何か分かるかもしれない。
 宮殿に戻っているかは不明だが、あの御方ならば状況も把握しておられるに違いない。それでいて聡明でありシェルム様も大層懐かれている。
 きっと自分達を安心させてくださるだろう。
 半ば願望混じりにそう結論付け、シオンはカルマの部屋を目指して足を進めていく。
 少しして十字路に差し掛かった時、その右側から一人の男が歩いてくるのが見えた。
 全身を黒い甲冑で覆い、面妖な風貌でありながらどこか軽薄な性格を持つ、見知った男の姿だった。
 カルマ様と共に地上へ行っていたはずのエスクロがここに居るということはカルマ様もすでに戻っているということだろうか。
 しかし、この先にはメゾア様の部屋があるだけだ。またカルマ様の遣いだったのだろうか。
 そんなことを考えつつ、シオンは立ち止まり男が十字路に差し掛かるのを待って声を掛けた。
「エスクロ」
「よお、シオンじゃねえか。どうした浮かねえ顔してよ」
 相変わらず軽々な口調と態度であったが、エスクロも同じく立ち止まる。
 同じ四天王でありカルマの腹心であるエスクロならば自分達が知らないことを知っているかもしれない。そう思うと、シオンは心の内を吐露するのを止められなかった。
「貴方は……ここ最近で淵帝様の様子がおかしいと感じたことはありませんか? どうにも普段の様子と違っている気がして、シェルム様も不安がられているのです。淵帝様が何をしようとしておられるのか……それが淵帝様の意志ならばわたくし達は従うだけですけれど、どうにもよからぬ事が起こりそうな気がするのです。エスクロ、地上での戦いは今どのような状況なのですか?」
 もの悲しげな表情でシオンは言う。
 それに対して、エスクロは愉快そうに笑った。
「クックック、お前はずっとシェルムの世話をしていたンだ。知らねえのも無理はねえンだろうなぁ」
「……シェルム? 、でしょう」
 ピクリと、シオンの眉根がつり上がる。
 悲壮な表情は一転し、冷え切った敵意を孕む視線をエスクロへと向けていた。
 しかし、エスクロにそれを気にする様子は一切見られない。
「しばらく同じ四天王なンざやっていたよしみだ。一つ、良いことを教えてやるよ」
 疑わしげな目を向けたままのシオンは黙って言葉を待っている。
 そこに続いた言葉は、シオンにとって理解不能なものだった。



 エスクロはそれだけを言い残し、高笑いをしながらシオンの反応を待たずにそのまま立ち去っていった。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

洗脳機械で理想のヒロインを作ったら、俺の人生が変わりすぎた

里奈使徒
キャラ文芸
 白石翔太は、いじめから逃れるため禁断の選択をした。  財閥令嬢に自作小説のヒロインの記憶を移植し、自分への愛情を植え付けたのだ。  計画は完璧に成功し、絶世の美女は彼を慕うようになる。  しかし、彼女の愛情が深くなるほど、翔太の罪悪感も膨らんでいく。  これは愛なのか、それとも支配なのか?  偽りの記憶から生まれた感情に真実はあるのか?  マッチポンプ(自作自演)の愛に苦悩する少年の、複雑な心理を描く現代ファンタジー。 「愛されたい」という願いが引き起こした、予想外の結末とは——

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ブラック企業で心身ボロボロの社畜だった俺が少年の姿で異世界に転生!? ~鑑定スキルと無限収納を駆使して錬金術師として第二の人生を謳歌します~

楠富 つかさ
ファンタジー
 ブラック企業で働いていた小坂直人は、ある日、仕事中の過労で意識を失い、気がつくと異世界の森の中で少年の姿になっていた。しかも、【錬金術】という強力なスキルを持っており、物質を分解・合成・強化できる能力を手にしていた。  そんなナオが出会ったのは、森で冒険者として活動する巨乳の美少女・エルフィーナ(エル)。彼女は魔物討伐の依頼をこなしていたが、強敵との戦闘で深手を負ってしまう。 「やばい……これ、動けない……」  怪我人のエルを目の当たりにしたナオは、錬金術で作成していたポーションを与え彼女を助ける。 「す、すごい……ナオのおかげで助かった……!」  異世界で自由気ままに錬金術を駆使するナオと、彼に惚れた美少女冒険者エルとのスローライフ&冒険ファンタジーが今、始まる!

処理中です...