縫剣のセネカ

藤花スイ

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第17章:樹龍の愛し子編(1) 争陣の儀

第243話:これまでを超える力

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 セネカ達と合流したプルケルはすぐに状況を察し、セネカとルキウス、そしてニーナとメネニアを離脱させた。

 戦場に残っているのは、プルケル、ストロー、ファビウス……。『羅針盤』の男三人組だ。

 フォルティウスは動きが鈍く、サナトリウスが支えている。セルウィクスは拠点からプラウティアを連れ出そうとしている。

 周囲にいる騎士はプルケル達のことを見ていて、今にも攻撃してきそうだ。だが【四元魔法】を持つジルダリウス以外はレベルが3で、支援や回復が中心の騎士が多い。

 団長、副団長の三人のうち誰かを落とせれば、戦いの流れは完全にこちらになる。だが、この三人の力は別格で、まだプルケルには底が見えなかった。

 やはり彼らの逃亡を許したとしても、それ以外の騎士を削る方が良いだろう。

「ストロー、ファビウス。巫女が逃げるのは仕方がないことにして、残りの騎士を相手にしよう」

「分かった。どれくらいの力を使えば良い?」

 ファビウスは調子が悪そうだ。声は小さく、動きもぎこちない。だが顔を見れば、それを理解した上でここに残ったのだと分かる。

「全力……。いや、これまでを超える力を出して欲しい」

 そう言うとファビウスもストローもプルケルの顔をじっと見てきた。これまでの長い付き合いの中で、こんな指示をしたことは一度もない。

「いいね」

 だが二人とも笑みを浮かべて武器を構えた。目が据わっている。覚悟を決めるのが早くて、とても心強い。

「ジルダリウス、任せたぞ……」

 向こう側にいたフォルティウスはそう言って離脱を始めた。拠点の方を見ると、セルウィクスの後に続いて、儀式服を着たプラウティアが出て来た。

 プラウティアを見るのは本当に久しぶりだ。肌は白く、唇には紅をさしている。そのせいなのか、佇まいが神秘に見える。

 プラウティアはこちらを見て、ゆっくりと頷いた。自分と目が合った気がしたけれど、おそらくファビウスを見たのだろう。

 迷っている様子はない。むしろ答えを出して、進む先を決めたような雰囲気が伺える。優柔不断な面もあるが、一度決めたら頑固なところがあることをプルケルはよく知っていた。

 プルケルはファビウスの肩を叩いた。言葉をかけられるのはこれが最後かもしれないのだ。

 そのことに思い至ったのかファビウスは大きな声で言った。

「プラウティアさん! 僕たちは君を助ける。必ず……絶対に!!!」

 プラウティアが目を拭うのが見えた。そして、セルウィクスに連れられて、機敏な動作でこの場から離れて行った。

「さぁ、戦いの時間だ。ファビウスの言葉を真実にする作業をしよう」

 プルケルは改めて騎士達を見た。いまファビウスが大声で勝利宣言をしたので、騎士達は剣呑な様子だ。空気も重くなっている。

「僕が先行する! [動的防御]!」

 ファビウスが走り出した。動きを見れば疲弊していることがよく分かる。けれど、それでも力を振り絞って貰わなければならなかった。

「プルケル、決めてくれ!」

 ストローは双剣を手にファビウスに続いた。普段は魔法師として後方にいるが、実は双剣の名手でもあるのだ。自滅覚悟で魔法を当てに行くのかもしれない。

「[雷装結界]」

 プルケルはサブスキルを発動する。この能力で特定の領域の中に雷の力を満たし、行動に大きな補正をつけることができる。魔力の消費が激しいが、長い時間使う必要はない。

 続けてプルケルは[帯雷]を使った。これが切り札だ。[雷装結界]の中でさらに強く速く動けるようになる。

 さっき口をついて出て来た言葉を思い出す。何故あんなことを言ったのかは分からないけれど、あれは仲間よりも自分に言いたかった言葉だったのかもしれない。

『これまでを超える力を出して欲しい』

 これまでのことを考えると、こういう状況でプルケルは安全な行動を取ってきた。精度が良くて再現性も高い技を使って、場を安定させてきた。

 土壇場で秘められた力が発揮されるなんて都合の良いことは起きないし、そんなことをして失敗する自分を許せなかった。

 苦しい状況で頼れるのはこれまで積み重ねてきた訓練で、無意識でも使える技こそ至高だと思っている。

 だけど、何故か今だけは未完成の技を出してみたいという気持ちになっていた。訓練でも成功率が低く、仲間にも話したことのない技……。

 プルケルはそれを使うことで足を踏み出したかった。頭で考える完璧な道から逸れて、心が示す場所に向かってみたい。

 プルケルは細心の注意を払って[雷魔法]を使う。身体に纏う雷を槍まで広げ、ゆっくりと密度を上げてゆく。

 ファビウスが騎士に突っ込み、危なっかしい動きで攻撃を捌いているのが見える。続くストローが[金属操作]を使って、彼自身にも当たりそうなほど地面から鋭利な物体を出し続けている。

 プルケルはそんな仲間の姿に勇気を貰った。

 圧縮力の高まった雷の力をゆっくりと槍に集める。完全に移すことはできないが、強度は高まっている。

 黄色く見えた光は白くなり、紫色を経て青くなった。

 プルケルは走り出す。
 一瞬にしてストローを超え、今にも倒れそうなファビウスに近づく。

 全ての魔力を費やして、プルケルは[雷撃]を発動する。
 いま出そうとしているこの技は単純で、プルケルが持っている全ての能力を同時に使うものなのだ。

 標的は騎士ジルダリウス。彼は[高速発動]や[四重魔法]などの厄介な力を持つけれど、雷光のように動く今のプルケルには関係ない。

 プルケルは槍に力を込める。身体の至る所が痛くて、雷が自分を焼いていることが分かる。もう制御を超えているのだ。

 穂先が接触した瞬間、プルケルは溜めていた力を解放した。弾けるように雷が広がり、ジルダリウスや自分を含めた全ての者に襲いかかる。

 熱く痺れる感覚に浸りながら、プルケルは身体中から力が抜けていくのを感じた。いま気づいたが、ストローの金属は、プルケルの雷を広げる動線のような役割を期待して設置していたようだった。

 朦朧とする意識の中で、プルケルは呟いた。

「未熟な技も悪くなかったな……」

 森は静かだった。

 そして気がついた時には身体は完全に治療されていて、自分は脱落したのだと聞かされることになった。
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