縫剣のセネカ

藤花スイ

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第17章:樹龍の愛し子編(1) 争陣の儀

第245話:髪留め

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 セネカは拠点で目を覚ました。
 ゆっくりと身体を起こして立ち上がる。状態は良いようだ。

 見える範囲には誰もいないが、声は聞こえてくる。
 もう外は明るくなっていそうだ。少し身体を伸ばして行動準備を整える。

 動きながらさっきまで見ていた夢のことを考える。以前から使っている『影縫い』について夢の中で違和感を持って考察していたのだ。

 この技は対象物の影を地面と縫うことで、動きを止めるものだ。魔力消費量は大きく効果も高いが、相手によっては力を込めて離脱されてしまう。

 セネカの中では、影を止めれば本体も動きづらくなるという明確な心像があったのだが、ここに来て、やっぱり筋が通らないように思ってきたのだ。

 それに、これは感覚的なことだが、やっていることの割りに消費魔力が大きいとも感じる。レベルが上がっているので以前よりも簡単に実行できるが、整合性の取れない部分がある気もしていた。

 改めて考えると、影を縫うことと人の動きを止めることには隔たりがあるように感じる。それを言ってしまうと、『影』を縫うというのもまぁおかしいのだが、目に見えない空間や魔力を縫っているのだから、目に見える影くらいは縫えるだろうという謎の確信がある。

 考えながら動いていると乱れた髪が気になってきた。セネカは[まち針]で太く長めの針を出して、それで髪を留めた。いつもは糸で縛っているけれど、たまには違くても良いだろう。針の頭に付いている花の形が少しおしゃれかもしれない。

 思考を『影縫い』に戻す。夢の中で色々と思いを巡らせた結果、セネカは一つの考えに辿り着いた。それは【縫う】によって、影と本体の繋がりを強化しているのではないかということだ。

 影に針を撃つことによって地面と影を固定する。これが『影縫い』の一つの効果だ。そして、影を通じて流れた魔力によって、影と本体の関係性が強まり、影の状態が本体に転移したのではないか。そんな二つの効果がはたらいているのかもしれないと考えた。

 もしその通りになっているならば納得できるとセネカは感じた。影を縫うだけで本体も動けなくなるはずだし、感覚的に多く魔力を使っていることの説明にもなる。

 セネカの【縫う】は思考を反映する。だからこの想像は大切だ。無意識にやっていたことを意識するだけで効果や効率が変わる。

 また、セネカはレベル4になることで[縫い付ける]という力も得ている。これは付与をする力だけれど、言葉に合うので影を地面に縫う時にもこの力を意識している。

 だが、考えたように影の状態を肉体に反映する機能があるのだとしたら、[縫い付ける]を意識することでこの力も強化されるのではないかと感じる。まだ考えに飛躍がある気もするのだが、その辺りはどこかでやってみれば良いかもしれない。

 そして、この考えを利用すれば……。
 ある案が浮かんだ時、マイオルの声が聞こえてきた。

「セネカー、起きてるー?」

「起きてるよー!」

 わりと大きな声だった。敵が近くにいないことが分かっているのだろう。だが一応防具と武具を整えてからセネカは拠点の外に出た。

 日の光が目に入る。ここは森の中だけれど、ちょうど隙間が空いているのだ。そこから見ると今日は空が真っ青でとても綺麗だった。

 みんなが近づいてくる。元気そうな顔だ。

「みんな、ありがとう。完全に回復したよ。敵の状況は?」

「まだ休息しているわ。さっきまでプラウティア以外は寝てたわね。おそらくだけど、どうせあたしに【探知】されてるのだからと開き直って寝たんだと思うわ」

 かなり豪胆だと思った。だが、確かフォルティウスは[危機察知]という能力を持っているようだし、他の二人も異常に気配に敏感だと聞いているので、雑に襲ったら返り討ちになる可能性もあったはずだ。

「その開き直りは正しかったんだけどね。攻めるつもりもなかったし、攻めてもあまり良い状況にならなかったんじゃないかと思っていたから」

 マイオルの後ろにいるキトもゆっくり頷いた。この二人が同じ結論ならきっとそうだったのだろう。

「もう少し準備を整えたら最後の戦いをしに行こうと思うけれど、よいかしら?」

「うん。いいよっ!」

 セネカは針刀を出してゆっくりと振った。手の感覚も良さそうだ。

「それでだけど、フォルティウス攻略の糸口は掴めたかしら?」

「うーん。そうだなぁ……」

 セネカは考えながらルキウスを探した。目が合うとこっちに歩いてきてくれた。

「ルキウスはどう?」

「うーん。そうだねぇ。『真光破砕』を使うと分かる状況にまで持ってければどうにかなるかもしれないけれど、まだ具体的には考えられてないかな」

 こちらと大体同じ感触のようだ。『今から撃ってくる』と分かればよいのだが、そのためにはしっかりと相手を追い込まなくてはならなそうだ。

「……それなら分業しよっか。私はフォルティウスを追い込んで技を使わざるを得ない状況を作るよ。だからルキウスは出した『真光破砕』に対処して?」

「分かった」

 二つ返事だった。セネカの方も具体的な方法を思いついた訳ではないのだが、割と簡単に提案してしまった。

 昨日の戦いでは、何とかなると思って突っ込んだ結果、フォルティウスの技にやられてしまった。ファビウスがいなかったらやられていた可能性が高いのだが、それでも何故かまた何とかなると思ってしまっている。

 これは重症だ。これのせいで色んな人に『生き急ぐな』と言われるのだと思うけれど、今さら治るのだろうか……。

「それじゃあ、フォルティウスの攻略はこのまま二人に任せるわ」

 マイオルはこんな曖昧な二人のやり取りを見て、そう言った。特に心配もしていなさそうだ。

 さて、どうしたものか。困ったのでセネカはとりあえずルキウスに体当たりすることにした。

 ルキウスもそれが分かったのか。何となく受け止めてくれた。

「どうやって追い込むのが良いと思う?」

「うーん。セネカの場合は全力で攻め立てれば良いと思うけど……。昨日はだいぶスキルを抑えていたでしょ? 周りにいた騎士が厄介だったからだけど、今日はいないからね」

 セネカは頷いた。アッタロスの言いつけ通り、昨日は安易にスキルに頼ることはしなかった。それでも善戦できたからあの訓練の効果は間違いなくあった。

 おかげで今までよりも相手のことがよく分かった。例えばフォルティウスの基本戦略は盾での防御だが、実は虎視眈々と攻撃を狙っており、徐々に圧力を増していくような動きが多かった。

 その戦略に対して、昨日と同じように基礎的な対処をしつつも、スキルの力をふんだんに上乗せするというのも悪くなさそうだ。

「今日は天気が良いし、日の光に当たりながら少しだけぼーっとすれば、良い考えも浮かぶんじゃない?」

 そう言われたので、セネカは木々に差し込む陽の光を浴びることにした。顔がポカポカして気持ちが良い。

 不思議なものだけれど、ルキウスの言う通りにしてみたら、試してみたいことを思いついた。

「ねぇ、セネカ。フォルティウスが真光破砕を使った時、攻撃が来るのって見えた?」

 こちらの様子を伺っていたルキウスが言った。今度はルキウスの番だ。

「ううん。見えなかった。剣が光ったと思ったらもう攻撃されてたよ」

「やっぱりそうだよねぇ」

 さすがのルキウスでもあの速さの攻撃を見てから斬るのは厳しいだろう。

「あれってさ、攻撃力のある光を放つ技で、当たると身体がすごく重くなる性質があるんだって考えてるけど、セネカも同じ?」

「うん、同じ。多分だけど、それ以外の性質はなさそう」

「僕もそう思う。そして、あれを出すと本人もかなり消耗する」

 セネカは頷いた。そのおかげで余裕を持って対峙できる。最悪二人同時にやられさえしなければ勝機はある。

「真っ向から打ち破りたいけどなぁ。狙いはきっとお腹か足だし……」

 ルキウスも分かっているようだ。あの技は強力だが、ガイアの魔法と同じで殺傷能力が高い。おそらく頭や胸を狙ってくることはないだろう。

「この戦いを聖女も見てるらしいから傷は癒えるんだけどね。そのおかげであっちは余計に負けたくないんだと思うけど」

「そうなんだ」

 戦力秘匿の意向もあり、この戦いを見ることが出来る者は、ほんの少数だと聞いていた。聖女は治療のこともあって許されたのだろうか。

「まぁ何とかしてみるから、セネカもお願いね」

「分かったぁ」

 自分で言うのも何だが、最終決戦の直前にこんな雰囲気で良いのだろうかとセネカは感じた。

 そしてみんなで打ち合わせをした後にマイオルが言った。

「それじゃあ、勝ちに行きましょうか。まずはガイアとモフが先遣隊ね。そしてケイトーさん、セネカ、ルキウス、ニーナ、メネニアの本隊にあとからモフが合流して決戦。あたしは保険をかけに行くわ。キトはここで待機してもらって、後でガイアと合流ね」

 セネカは髪留めを触った。そして跳び上がり、戦いの勝利を願った。
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