縫剣のセネカ

藤花スイ

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第17章:樹龍の愛し子編(1) 争陣の儀

第253話:勝ち鬨

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 ヴェトリウスの想いを聞いた後、セネカ達は森を進み、フォルティウス達との決戦の場に戻った。

 フォルティウス達はすでに姿を消していて、あれだけ激しい戦いのあった場所が今では空虚に見える。

「それではまた後ほどお会いしましょう」

 そう言ってヴェトリウス達は去って行った。プラウティアは残っているのでここにいるのは十三人だ。

 これからセネカ達は撤収作業をする。必要な物を回収して、ヴェルディアに帰るのだ。

 プラウティアの家族達は荒れた森を修復するためにこれから行動するらしい。自然のことは全く考えずに暴れたから直すには労力が必要そうだった。

「マイオル……」

 そんな風に次の行動について考えていると、珍しくケイトーが声を発した。重要なことしか言わない印象なので、全員が注目する。

「マイオル、勝ちどきを上げろ。俺達には勝利の実感が必要だ」

 ケイトーに言われてマイオルはハッとした表情になった。

「もう誰もいないし、ちょうど良さそうね」

 マイオルは拳を握って肩のあたりまで上げたけれど、そこで止まってしまった。

「勝ち鬨って、何を言えば良いんだっけ?」

「思いつく言葉を大声で言えば良いだろう」

 首を傾げるマイオルにケイトーが答えた。『月下の誓い』にはそういう習慣がないのでピンと来ないのだ。

「か、勝ったわよー!」

「おー!」

 セネカも拳を握り、手を空に伸ばす。

「あたし達が教会騎士を倒したのよー!」

「おー!」

「…………」

 身を屈めて待っているが次の言葉がやってこない。何となくみんなで見つめていると、何故かマイオルが怒りだした。

「あぁ、もう知らないわよ! 言うことなんて一つしかないんだからもう良いでしょ! プラウティア、おかえり!!!」

「おかえりー!!!」

 全員で声を張り上げながらプラウティアの元に集まった。楽しい雰囲気だったのでセネカが軽く体当たりすると、いつものようにプラウティアは「はわわ」と言った。

「みんな! 誓えるかしら? プラウティアを助けるって!!」

「誓える!」

 マイオルの問いにセネカは、いの一番に叫んだ。

 みんなが後に続いてゆくが、少しだけ出遅れたプルケルがずいっと前に出て来て、胸元から彼らのパーティの証を取り出した。

「僕はこの羅針盤に誓う」

「何それ格好良い!」

 ニーナはさっき誓ったけれど、プルケルの真似をして誓い直した。

 負けてはいられないとセネカは辺りを見回したが、誓えそうなものが思いつかなかった。だがそんな時、ガイアが言った。

「私は月に誓う」

 セネカはすぐに敗北を認めた。『月下の誓い』が誓うものと言えば月しかなかったはずなのに思いつかなかった。

 今が昼間で快晴だからだと環境のせいにしつつも悔しい気持ちが湧いてくる。

「私も月に誓う!」

 そう言った時、何に誓おうかと考えて珍しくおろおろするケイトーが見えたので、セネカはつい笑ってしまった。



◆◆◆



 シルバ大森林の奥深くに樹龍はいた。
 体表は樹木のようだが、ひびが走り、まるで鱗のように見える。

 少し離れて見れば、もしかしたらそれはただの木のように見えるかもしれない。しかし、ひとたび近づいて見てみれば、表面には艶があることが分かるだろう。

 樹龍は植物の要素を持つ動物だ。触れば生温かく、生き物らしい脈動がある。

 樹龍はまだ休眠している。だが、月の光を浴びるたびに覚醒に近づき、眠りと目覚めの間を行ったり来たりしながら、徐々にその時を迎えようとしている。

 龍は夢を見ない。この世界の機構をよく知るもの達にそれは不要だからだ。

 けれど、龍は人に夢を見せることができる。それは直接的な意味だけではなくて、龍に憧れ、崇める者達に希望を届けることができるからだ。

 休眠しながらも樹龍の意識は存在している。徐々に覚醒に近づく中で、思っているのはただ一つのことだった。

『あの生意気なヘルバの末裔に会うのが楽しみだ』

 見る人が見れば、もしかしたら分かったかもしれない。

 その時、樹龍は笑っていた。



----------



ここまでお読みいただきありがとうございます!
長くなったので、ここで一度区切ろうと思います。

次話から第18章:樹龍のめぐし子編 龍祀の儀が始まります。
この章ほどは長くならない予定です。

よろしくお願いします!
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