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第18章:樹龍の愛し子編(2) 龍祀の儀
第254話:不本意
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争陣の儀の決着がついた次の日、セネカ達は都市ヴェルディアのギルドの部屋にいた。
ギィーチョに呼ばれたので、これからのことを話すのだと分かってはいたけれど、その内容は考えていたものとは違っていた。
セネカが部屋に入った時、まず気になったのはゼノンの存在だった。部屋の奥にはゼノンが立っていて、こちらをじっと見ており、時間に遅れた訳ではないが「待たせてはいけない」という気になった。
ゼノンのすぐそばにはギィーチョが座っていた。偉い人なのは分かっているけれど、セネカ達にとっては、頭が良くて立場のある人というだけだ。そのため、戦いに勝った今、そこまで緊張する相手ではない。
マイオルに至っては、ギィーチョに皮肉を言う機会があるかもしれないと肩を回していたが、ゼノンを見た瞬間に顔を引き締めたのが分かった。
部屋には他にアッタロスとレントゥルスがいた。二人は基本的にセネカ達の味方なのだが、ゼノンがいる場合にはそちらを優先することもあるため、セネカは少し身構えた。
争陣の儀に『若き力』として参加した者とプラウティアの総勢十三人で、椅子に座る。セネカの位置は前側で、マイオルとルキウスの間だ。
全員が座るとギィーチョが口を開いた。
「戦いで疲れている中、召集に応じて貰い、感謝する」
ギィーチョは相変わらず淡々とした様子だが、じっと顔を見ると疲れが出ているような気がした。
「そして、争陣の陣の勝利おめでとう。君たちは私の想像を超え、教会第三騎士団の精鋭達を打ち破った。それもただの勝利ではなく、フォルティウス団長を含めた全員を打破しての勝利だ。これは望外の結果で、誰も予想していなかった」
これはギィーチョから出る言葉として最大限の褒め言葉であるとセネカは思った。
「しかし冷静に情勢を見ると、勝ち過ぎたとも言える。教会第三騎士団は真の強者だが、若者に負けたとなれば教会勢力の均衡が崩れる可能性が無視できなくなる」
何だか小難しい話になってきた。セネカは聞くのをやめようかと思ったけれど、アッタロス達に見られていると感じたので、もうちょっと頑張ることにした。
「そこで、王国から君たちにお願いがある。それは一部の者のレベルの開示だ。セネカとルキウスを筆頭に、もしレベル4の者がいれば、教会でレベル鑑定を受けて貰いたい」
ギィーチョと目が合った。セネカは話をちゃんと聞いていて良かったと胸を撫で下ろした。
「ギルドからは昇級をお願いしたい。セネカとルキウスは金級、それ以外の者はすでに銀級のケイトーを除き、全員銀級になることを受け入れて欲しい。この話にはプラウティアも含まれている」
そう言ったのはゼノンだ。ゼノンはゆっくりと頭を下げてからこちらを見た。
ギィーチョはまだしも、ゼノンには色々と助けて貰っているので断りづらい。
「そうすることで教会第三騎士団が弱かったのではなくて、あたし達が強かったという雰囲気を作るということですか?」
「そうだ」
マイオルは非常に嫌そうな様子でギィーチョに聞いていた。不本意なのも分かる。
「今回の戦いって秘匿度の高いものなのではないですか? それなのにそういう空気を作る必要はあるんですか?」
マイオルが続けて質問する。
「ああ、そうだ。秘匿度は高いが、重要性も高い。それゆえに大きな組織の上層部に話は伝わっている。詳しい情報が漏れないとしても、今回のことを発端に動き出す組織があってもおかしくない」
ギィーチョは眉間にシワを寄せてた。セネカにはよく分からなかったが、ギィーチョが言うのだから正しいのだろうなと思うくらいには信用している。
「これは、俯瞰的には王国とギルドが教会に貸しを作ろうとしているという状態だ。そのため、君たちがこれを受け入れれば、この三組織に大きな貸しを作れるという利点がある」
隣のマイオルが早く息を吐く音が聞こえた。頭を全力で働かせて、損得を考えているのだろう。
「まずレベル公表の件だけど、ご指名のセネカとルキウスはどう思っている?」
マイオルに聞かれてから、セネカは少しだけ考えて口を開いた。
「私は良いよ。いつか分かることだったし、隠す理由はそんなにないのかもしれない」
「僕も別に良いよ」
この発言でレベル4であることが確定してしまうが今更だろう。
マイオルは少しだけ楽しそうな顔をしている。
「それでは、レベルについては教会の鑑定を受けます。開示するかは別にして、追加で鑑定を受けたい者がいれば、今回はこちらの負担なく実施させていただくことにできないでしょうか」
「それぐらいであれば問題ない。教会は受け入れる可能性が高いし、そうでなくても王国が支払いを行う」
「ありがとうございます」
マイオルがギィーチョに頭を下げた。そのあとでゼノンの方を向くのが見える。
「ゼノン様、ギルドの昇級の件ですが、基本的には個人の意向を尊重したいと思っていますが、代替案はないでしょうか。これはあたし個人の意見ですが、無試験での昇級は好ましくないと思っております」
「まず前提として、ギルドは其方達に今後最大限の配慮を見せる意向がある。その上で、今回の件に関する金銭報酬や武器、素材についても融通するつもりだ。それらの量を増やすという選択肢が取れないわけではないが、私としては出来れば昇級を受けて入れて貰いたいと考えている」
「そ、そうですか……」
マイオルの勢いも強くはない。やはりゼノンに対しては主張しづらいようだ。ゼノンは師匠の師匠になるので、そういう点でも難しい。
「そもそも『月下の誓い』は、先のトリアスのスタンピードにおける功績を讃えて、内部的には銀級冒険者相当の扱いをしている。其方達は頑なに試験を受けようとしないが、受けさえすれば合格することになっている」
セネカは銀級冒険者の試験中だったので問答無用で昇格していたのだが、それ以外のみんなはまだ銅級だった。受かると分かっている試験を受けるのが嫌だと前に聞いたことがあった。
「其方達の意向を尊重したいところではあるが、出来れば『月下の誓い』の者達には今回の昇級を受け入れて欲しいと私は思っている。どうかお願いできないだろうか」
ゼノンにまた頭を下げられて、マイオルは反抗の意志を失ったようだった。だが、まだ話はついていない。
「私はまだ金級冒険者ほどの業績を上げていません」
「そもそも僕はまだ銅級なんですけど……」
セネカが言うと同時に隣にいたルキウスも口を開いた。二人揃って昇級に対する抗議をする。
「特例中の特例中であることには間違いがないが、私の考えでは其方達の業績は十分だと考えている。まずトリアスのスタンピードでのことだが、事態の収束には二人の活躍が不可欠であったという報告を受けている。実はあの時点でもセネカを金級冒険者にという声もあったが、時期尚早ということで見送りとなった」
立ち上がって抗弁しようと思ったけれど、一言目から何となく旗色が悪い気がして、セネカは堪えた。アッタロスを見ると少しニヤニヤしている。
「アッタロスとレントゥルスの例から分かるように、国家存亡級の事態の終息に貢献するというのはとても大きなことだ。多くの場合、無試験で銀級、もしくは金級に昇格しても問題にはならない」
セネカはすでに言いくるめられる気配を感じていた。フォルティウスには負ける気がしなかったのに、ゼノンのお願いを退ける道は見えない。
「無論それがただの偶然であるとか、スキルの相性が良かったのだという声もあった。しかし今回フォルティウスを二人で倒したことにより、トリアスでの活躍も間違いないだろうという見方が強くなっているのだ」
どうやらギルドの方でも色々あるようだった。実力を認められるのは嬉しくもあるけれど、それだけ問題も増えそうなので何とも言えなかった。
だが、セネカがそう考えていることも見通しているのか、ゼノンは続けた。
「今回の決定に文句を言う者はいないだろう。もし出てきたとしても私を筆頭にペリパトス、ピュロン、そしてアッタロスとレントゥルスが黙らせることになるだろう」
ゼノンの存在感が増し、威圧される。それ自体は何とも思わなかったが、挙げられている名前の豪華さにセネカは驚いた。
おかしなことになる前に話を受けてしまったほうが良いかもしれない。
「セネカ、任せておけ! ちゃんと俺がお前達の実力を宣伝してやるからな!」
アッタロスは楽しくて仕方がなさそうな様子で言った。このためにこの場に来たのではないかと思うほどだ。
「もちろん俺も協力するぜ!」
レントゥルスも混ざって楽しそうだ。
「この二人も以前は無試験での金級昇格は嫌だと言っていたのだが、今ではこうだ。セネカとルキウスもどうか受けてはくれないだろうか」
「…………」
楽しそうだった二人は突然黙り、バツの悪そうな顔になった。良い気味である。
「セネカ、これは受けるしかないようだよ」
どう切り出そうかと考えているとルキウスがそう言った。逃げようと思うと事が大きくなるだけな気がするので、この辺りで諦めるしかないだろう。
セネカは「そうだね」と言った。
「ゼノン様、お話はお受けいたしますが、いくつかお願いがございます」
ルキウスが言うとゼノンが頷いた。
「まず『月下の誓い』のルキウスは、聖者ルキウスとは別だという認識を徹底してください。僕は冒険者ですし、もし仮に聖者として活動しなければならない場合には変装します」
「分かった」
「次に僕は銅級から飛び級したのではなく、銀級を経由したのだということにしてください。そういう例があるかは過去にあるのかは分かりませんが、変に目立ちたくはありませんので」
「具体的にどういう扱いになるのかは私には判断できないがそれも飲めるはずだ」
ゼノンの受け答えは淀みない。
「最後に、龍に関する詳しい情報を教えてください。樹龍ではなく、龍全般に関する情報が知りたいです」
ルキウスがそう言った後、ゼノンは僅かに口角を上げた。
「……それを誰かが話すことはできない。だが、其方は既にその情報を得る権利を持っている」
「権利、ですか?」
「そうだ。今の私が話せることはそれだけで、これ以上のことを言える者は多くない。もし疑問に思うのであれば、プラウティアとよく話すのが良いだろう」
「わ、私ですか?」
突然名前を呼ばれてプラウティアは驚いたようだ。
そんなプラウティアの言葉にゼノンは静かに頷き、試すような目をしてから話を続けた。
この日、セネカとルキウスが金級冒険者になることが決まった。十代でこの階級になった者はおらず、二人の名前が大陸中に広まるきっかけとなった。
ちなみに『羅針盤』も全員が昇級に不満げだったけれど、ゼノンに抗えず話を受け入れた。
ギィーチョに呼ばれたので、これからのことを話すのだと分かってはいたけれど、その内容は考えていたものとは違っていた。
セネカが部屋に入った時、まず気になったのはゼノンの存在だった。部屋の奥にはゼノンが立っていて、こちらをじっと見ており、時間に遅れた訳ではないが「待たせてはいけない」という気になった。
ゼノンのすぐそばにはギィーチョが座っていた。偉い人なのは分かっているけれど、セネカ達にとっては、頭が良くて立場のある人というだけだ。そのため、戦いに勝った今、そこまで緊張する相手ではない。
マイオルに至っては、ギィーチョに皮肉を言う機会があるかもしれないと肩を回していたが、ゼノンを見た瞬間に顔を引き締めたのが分かった。
部屋には他にアッタロスとレントゥルスがいた。二人は基本的にセネカ達の味方なのだが、ゼノンがいる場合にはそちらを優先することもあるため、セネカは少し身構えた。
争陣の儀に『若き力』として参加した者とプラウティアの総勢十三人で、椅子に座る。セネカの位置は前側で、マイオルとルキウスの間だ。
全員が座るとギィーチョが口を開いた。
「戦いで疲れている中、召集に応じて貰い、感謝する」
ギィーチョは相変わらず淡々とした様子だが、じっと顔を見ると疲れが出ているような気がした。
「そして、争陣の陣の勝利おめでとう。君たちは私の想像を超え、教会第三騎士団の精鋭達を打ち破った。それもただの勝利ではなく、フォルティウス団長を含めた全員を打破しての勝利だ。これは望外の結果で、誰も予想していなかった」
これはギィーチョから出る言葉として最大限の褒め言葉であるとセネカは思った。
「しかし冷静に情勢を見ると、勝ち過ぎたとも言える。教会第三騎士団は真の強者だが、若者に負けたとなれば教会勢力の均衡が崩れる可能性が無視できなくなる」
何だか小難しい話になってきた。セネカは聞くのをやめようかと思ったけれど、アッタロス達に見られていると感じたので、もうちょっと頑張ることにした。
「そこで、王国から君たちにお願いがある。それは一部の者のレベルの開示だ。セネカとルキウスを筆頭に、もしレベル4の者がいれば、教会でレベル鑑定を受けて貰いたい」
ギィーチョと目が合った。セネカは話をちゃんと聞いていて良かったと胸を撫で下ろした。
「ギルドからは昇級をお願いしたい。セネカとルキウスは金級、それ以外の者はすでに銀級のケイトーを除き、全員銀級になることを受け入れて欲しい。この話にはプラウティアも含まれている」
そう言ったのはゼノンだ。ゼノンはゆっくりと頭を下げてからこちらを見た。
ギィーチョはまだしも、ゼノンには色々と助けて貰っているので断りづらい。
「そうすることで教会第三騎士団が弱かったのではなくて、あたし達が強かったという雰囲気を作るということですか?」
「そうだ」
マイオルは非常に嫌そうな様子でギィーチョに聞いていた。不本意なのも分かる。
「今回の戦いって秘匿度の高いものなのではないですか? それなのにそういう空気を作る必要はあるんですか?」
マイオルが続けて質問する。
「ああ、そうだ。秘匿度は高いが、重要性も高い。それゆえに大きな組織の上層部に話は伝わっている。詳しい情報が漏れないとしても、今回のことを発端に動き出す組織があってもおかしくない」
ギィーチョは眉間にシワを寄せてた。セネカにはよく分からなかったが、ギィーチョが言うのだから正しいのだろうなと思うくらいには信用している。
「これは、俯瞰的には王国とギルドが教会に貸しを作ろうとしているという状態だ。そのため、君たちがこれを受け入れれば、この三組織に大きな貸しを作れるという利点がある」
隣のマイオルが早く息を吐く音が聞こえた。頭を全力で働かせて、損得を考えているのだろう。
「まずレベル公表の件だけど、ご指名のセネカとルキウスはどう思っている?」
マイオルに聞かれてから、セネカは少しだけ考えて口を開いた。
「私は良いよ。いつか分かることだったし、隠す理由はそんなにないのかもしれない」
「僕も別に良いよ」
この発言でレベル4であることが確定してしまうが今更だろう。
マイオルは少しだけ楽しそうな顔をしている。
「それでは、レベルについては教会の鑑定を受けます。開示するかは別にして、追加で鑑定を受けたい者がいれば、今回はこちらの負担なく実施させていただくことにできないでしょうか」
「それぐらいであれば問題ない。教会は受け入れる可能性が高いし、そうでなくても王国が支払いを行う」
「ありがとうございます」
マイオルがギィーチョに頭を下げた。そのあとでゼノンの方を向くのが見える。
「ゼノン様、ギルドの昇級の件ですが、基本的には個人の意向を尊重したいと思っていますが、代替案はないでしょうか。これはあたし個人の意見ですが、無試験での昇級は好ましくないと思っております」
「まず前提として、ギルドは其方達に今後最大限の配慮を見せる意向がある。その上で、今回の件に関する金銭報酬や武器、素材についても融通するつもりだ。それらの量を増やすという選択肢が取れないわけではないが、私としては出来れば昇級を受けて入れて貰いたいと考えている」
「そ、そうですか……」
マイオルの勢いも強くはない。やはりゼノンに対しては主張しづらいようだ。ゼノンは師匠の師匠になるので、そういう点でも難しい。
「そもそも『月下の誓い』は、先のトリアスのスタンピードにおける功績を讃えて、内部的には銀級冒険者相当の扱いをしている。其方達は頑なに試験を受けようとしないが、受けさえすれば合格することになっている」
セネカは銀級冒険者の試験中だったので問答無用で昇格していたのだが、それ以外のみんなはまだ銅級だった。受かると分かっている試験を受けるのが嫌だと前に聞いたことがあった。
「其方達の意向を尊重したいところではあるが、出来れば『月下の誓い』の者達には今回の昇級を受け入れて欲しいと私は思っている。どうかお願いできないだろうか」
ゼノンにまた頭を下げられて、マイオルは反抗の意志を失ったようだった。だが、まだ話はついていない。
「私はまだ金級冒険者ほどの業績を上げていません」
「そもそも僕はまだ銅級なんですけど……」
セネカが言うと同時に隣にいたルキウスも口を開いた。二人揃って昇級に対する抗議をする。
「特例中の特例中であることには間違いがないが、私の考えでは其方達の業績は十分だと考えている。まずトリアスのスタンピードでのことだが、事態の収束には二人の活躍が不可欠であったという報告を受けている。実はあの時点でもセネカを金級冒険者にという声もあったが、時期尚早ということで見送りとなった」
立ち上がって抗弁しようと思ったけれど、一言目から何となく旗色が悪い気がして、セネカは堪えた。アッタロスを見ると少しニヤニヤしている。
「アッタロスとレントゥルスの例から分かるように、国家存亡級の事態の終息に貢献するというのはとても大きなことだ。多くの場合、無試験で銀級、もしくは金級に昇格しても問題にはならない」
セネカはすでに言いくるめられる気配を感じていた。フォルティウスには負ける気がしなかったのに、ゼノンのお願いを退ける道は見えない。
「無論それがただの偶然であるとか、スキルの相性が良かったのだという声もあった。しかし今回フォルティウスを二人で倒したことにより、トリアスでの活躍も間違いないだろうという見方が強くなっているのだ」
どうやらギルドの方でも色々あるようだった。実力を認められるのは嬉しくもあるけれど、それだけ問題も増えそうなので何とも言えなかった。
だが、セネカがそう考えていることも見通しているのか、ゼノンは続けた。
「今回の決定に文句を言う者はいないだろう。もし出てきたとしても私を筆頭にペリパトス、ピュロン、そしてアッタロスとレントゥルスが黙らせることになるだろう」
ゼノンの存在感が増し、威圧される。それ自体は何とも思わなかったが、挙げられている名前の豪華さにセネカは驚いた。
おかしなことになる前に話を受けてしまったほうが良いかもしれない。
「セネカ、任せておけ! ちゃんと俺がお前達の実力を宣伝してやるからな!」
アッタロスは楽しくて仕方がなさそうな様子で言った。このためにこの場に来たのではないかと思うほどだ。
「もちろん俺も協力するぜ!」
レントゥルスも混ざって楽しそうだ。
「この二人も以前は無試験での金級昇格は嫌だと言っていたのだが、今ではこうだ。セネカとルキウスもどうか受けてはくれないだろうか」
「…………」
楽しそうだった二人は突然黙り、バツの悪そうな顔になった。良い気味である。
「セネカ、これは受けるしかないようだよ」
どう切り出そうかと考えているとルキウスがそう言った。逃げようと思うと事が大きくなるだけな気がするので、この辺りで諦めるしかないだろう。
セネカは「そうだね」と言った。
「ゼノン様、お話はお受けいたしますが、いくつかお願いがございます」
ルキウスが言うとゼノンが頷いた。
「まず『月下の誓い』のルキウスは、聖者ルキウスとは別だという認識を徹底してください。僕は冒険者ですし、もし仮に聖者として活動しなければならない場合には変装します」
「分かった」
「次に僕は銅級から飛び級したのではなく、銀級を経由したのだということにしてください。そういう例があるかは過去にあるのかは分かりませんが、変に目立ちたくはありませんので」
「具体的にどういう扱いになるのかは私には判断できないがそれも飲めるはずだ」
ゼノンの受け答えは淀みない。
「最後に、龍に関する詳しい情報を教えてください。樹龍ではなく、龍全般に関する情報が知りたいです」
ルキウスがそう言った後、ゼノンは僅かに口角を上げた。
「……それを誰かが話すことはできない。だが、其方は既にその情報を得る権利を持っている」
「権利、ですか?」
「そうだ。今の私が話せることはそれだけで、これ以上のことを言える者は多くない。もし疑問に思うのであれば、プラウティアとよく話すのが良いだろう」
「わ、私ですか?」
突然名前を呼ばれてプラウティアは驚いたようだ。
そんなプラウティアの言葉にゼノンは静かに頷き、試すような目をしてから話を続けた。
この日、セネカとルキウスが金級冒険者になることが決まった。十代でこの階級になった者はおらず、二人の名前が大陸中に広まるきっかけとなった。
ちなみに『羅針盤』も全員が昇級に不満げだったけれど、ゼノンに抗えず話を受け入れた。
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