縫剣のセネカ

藤花スイ

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第18章:樹龍の愛し子編(2) 龍祀の儀

第256話:月でも見ながら

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 教会でレベル鑑定を受けた日の夜、セネカはルキウスと共に森に来ていた。

 あの後、セネカ達はヴェルディアのギルド支部に行き、金級への昇格手続きを行なった。この情報は王都ですぐさま公表されるようだが、何だか現実感がなかった。

 その日は空がきれいだったので、何となく木に登った後にルキウスの【神聖魔法】で魔力の板を作ってもらい、上空でゆっくりすることにした。

 今日一日だけで何だか疲れてしまった。戦いの疲労はあらかた取れたと思っていたが、別の部分がくたびれてしまったようである。

 明日からは樹龍を倒すための訓練をするつもりだけれど、情報もなく、強大な相手に対して何をすれば良いのか分からなかった。

 マイオルもそんなことを言っていて、キトだけが考えがあるようだった。その辺りのこともとりあえずは明日聞くことになっている。

「金級冒険者になっちゃったなぁ……」

 そのことがずっと頭にある。

 冒険者になってからセネカの目標は『出来るだけ早く金級冒険者になる』だった。それが叶ったはずなのに単純には喜べない気分だった。

 そもそもを言えば、本当の目標は両親のような英雄になることだ。その通過点として手段として、金級冒険者になることを目指していた。

 レベル4になってからもそれなりに時間が経っている。レベル5のフォルティウスとあそこまで戦えたということは実力的に金級でもおかしくないのだとは思うけれど、すっきりしていない。

「うーん」

 隣ではルキウスが唸っている。さっきから二人でこんな感じで、そういう動物にでもなったかのようだ。

 せっかくきれいな空が見えていてもそこに心を傾けられないでいる。

「これからどうしていこうねぇ……」

 レベル4になった時から先のことを考えてはいた。けれどここに来て、力や強さというものが何なのかまた分からなくなってきてしまった。

「ねぇ、セネカ。セネカもあの時のお金にまだ手をつけていないんでしょ?」

「うん。そうだよ」

 ルキウスが言っているのは冒険者ギルドに預けてあるお金のことだ。セネカには冒険者になる前に開設した口座が一つだけあって、そこには大金が入っていた。

「魔界でオークキングを倒したけど、それでもやっぱり納得できない気持ち? 僕はそうだけど」

「うん。いつかその時が来たら使おうと思ってね。もちろん命の危険があったら使うつもりだったけれど、お金が必要な時も意地を張って手をつけなかった」

 セネカは少しだけ笑った。

 そのお金は、両親が命を賭けて倒したオークキングの討伐報奨金だ。田舎で慎ましく過ごせば、ほとんど働かなくても良いほどのお金が入っている。両親が遺してくれたものは、このお金と大剣だけだったのだ。

 これは以前聞いた話だけれど、両親が倒したオークキングは大勢のオークを引き連れていて、あのまま放置していたら大変なことになっていたらしい。そんな事情もあって、高額な報奨金が出たようだった。

 だけど、そんなことは両親がいなくなってしまったことに比べたら本当に本当に小さなことだとセネカは思っていた。

「セネカはさ、父さん達がどうやってオークキングを倒したんだと思う? 刀剣と大剣の剣士が二人に、氷魔法使いと回復士……。いくら父さん達が良い剣士だとしても流石に威力不足だと思っちゃうんだよなぁ」

「私もそう思う。多分だけどオーク系統の魔物が周りにいたと思うし、どうやったのかが分からないよね」

 オークキングは金級冒険者のパーティが戦うような相手だ。何度考えても銀級冒険者四人が戦って、相打ちでも倒せる敵だとは思えない。だからこそ、セネカは憧れを持っているのだけれど……。

「オークキングを倒したら、胸を張って自分を認められるかな?」

 ルキウスは寂しそうに言った。

 セネカにはルキウスの気持ちが痛いほど分かった。そしてその分だけ、隣にルキウスがいてくれることの大切さも感じる。

「オークキングを倒したら、自分が金級冒険者ってことを受け入れられるかな?」

 セネカも聞いてみる。それはルキウスに聞いたのか、自分に聞いたのか、それとも今もまだ胸の中で眠る両親達に聞いたのかは分からなかった。



「セネカはさ、自分がレベル5に近づいているって気がする?」

 ボーッと空を見ているとルキウスが聞いてきた。

「おぼろげだけれど、見えてきた気がする、かな。特に今回光を纏ってみて、何だか不思議な気持ちになった」

 セネカはあの時の感覚を思い出す。

「自惚れかもしれないけれど、フォルティウス団長と戦っている時に上がろうと思えばレベルが上がるかもしれないって思ったんだよね。それくらいに力が伸びた気がした。でも、まだそんな自分を許せない気持ちもあったんだよね」

「それってどういう気持ち何だろうね。分からないような気もするけど、少し分かるような」

 セネカはまだうまく言葉にできなかった。けれど、そんな言葉にならないものをルキウスにはそのまま出しても良いのだから気が楽だ。

「ルキウスはどうなの?」

「僕はまだまだかなぁ。【神聖魔法】とか、聖属性とか分からないことばっかりなんだよね。でも今回の戦いで、やっぱりこの力は聖属性とは違うものなんだろうなって思ったよ」

 ルキウスが手のひらから白くて緑の玉を出すのが見える。ぼんやりと光っていて、少し落ち着く。

「私もルキウスの魔力はみんなとは違うと思うなぁ。でも、私とルキウスとマイオルとモフはほんの少しだけど似てきていると思う」

「そうだね。特にマイオルはもう聖属性のスキルみたいだよ。最近は迫力もあるしなぁ」

 ルキウスはちょっと笑った後で、真剣な顔になった。

「あえて言うなら、普通の聖属性よりも【神聖魔法】は深さがあるって僕は思っているんだ。密度とか濃さとも感覚的には違うんだけれど、どこか奥深くに浸透していくような気配がある気がしちゃうんだよね」

「何となく分かるよ。魔力が静かにどこかに入っていくような感じ」

「そうそう。セネカもマイオルもモフもその傾向が強くなって来ているように思う。まるでこの世界には奥があって、そこに何かを届けようとしているみたいにね……」

 それは比喩のようだけれど、セネカが何となく思っていたことをうまく表現してくれたように感じた。

「多分ね、聖属性って聖なるものじゃないんだよ。神聖さもね。表面上そう見えているだけで、奥で働いている原理はもっと中立な気がする」

「中立?」

「うん。この世界の原理に良いも悪いもないと思うからさ」

「……ルキウスの【神聖魔法】は原理に介入できる力だもんね」

 セネカがそう言うと、ルキウスはハッとした顔になり、しばらく黙った。深く考えたいことができたようだ。

 そして少し経ってからルキウスはまた話し出した。

「セネカはこれからスキルをどうやって鍛えていこうと思っているの? 新しい技を開発してから何か変わった?」

 そう聞かれてセネカは少し考えた。そして何となくだけれど、もう薄れかけてしまっている母の顔が頭に浮かんだ気がした。

「もし何事もなくプラウティアの儀式が終わったら、もう一度魔法のことを考えてみようかなって思った。未だに訓練を続けていて、[属性変換]も出来るようになったけれど、まだまだ伸ばす余地があるような気がしたんだよね」

「そっかぁ。光を纏ったのも[縫い付ける]の応用だったし、そっちの能力ももっと使いこなせるようになるかもだもんね」

 セネカは頷いた。ルキウスはよく分かっているようだ。それがちょっとくすぐったくもあるけれど、とても嬉しいことだった。

「ねぇ、ルキウス。覚えている? 小さい頃、私が剣士で、ルキウスが回復士になるって約束したの」

「僕が剣士で、セネカが魔法使いって話もしたよ?」

「そう。私もルキウスも立派な剣士になった。それはこれからも変わらないんだけれど、私、魔法使いになってみようかな。お母さんみたいに」

「それじゃあ、僕は回復士かな? まぁ僕たち二人とも半分はそうなっていると思うけれどね」

「そうかな?」

「そうだよ」

「じゃあ、少し頑張ってみようかな」

「うん、大丈夫。僕たちは英雄の子供なんだから」

「うん……」

 一雫だけ涙が出て来て、セネカは空を見上げた。
 月が綺麗に光っていて、もう少しで月詠の日であることを実感することができた。
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