種族【半神】な俺は異世界でも普通に暮らしたい

穂高稲穂

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1巻

1-1

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 第1話 口は災いの元


 俺の名前は西園寺玲真さいおんじりょうま。二十歳の大学生だ。
 親の力で有名大学に進学し、親の買ったマンションに住んで自堕落な日々を過ごしている。
 親は元西園寺財閥ざいばつ、現西園寺グループの代表で、一族は政治家などエリートぞろい。
 そんな凄い一族だけど、俺はただ顔が良いだけの出来損ないだ……自分で言うのもなんだが。
 運動は苦手だし、勉強もそんなにできるわけじゃない。両親は俺のことを愛してくれて甘やかすが、従兄弟いとこ達は俺をバカにしていた。
 家族以外の人間関係でいえば、友達と呼べるのは二人だけだ。その他で友人を名乗る奴は、下心があって俺に近づいてきた奴ばかり。陰口を偶然聞いてしまうなんてしょっちゅうだ。
 女性も、俺を金ヅルとして考えて寄ってくるのがほとんどで、俺も最初は純粋に信じてあれこれみついだものの、最終的に浮気されてましたってこともあった。

「まぁ、俺がこんなんだって知って幻滅げんめつしたのもあるかもだけど」

 俺はそう言いながら、部屋を見回す。
 ここ、高級タワーマンションの三十五階、見晴らしがよく夜景が凄く綺麗きれいな3LDKの一室は、完全な俺の趣味部屋だ。
 フィギュアにアニメのDVDやブルーレイ、壁一面の本棚には漫画やラノベの数々。特注した、人をダメにすると話題の巨大ビーズクッションは、俺の特等席だ。
 幼馴染おさななじみの影響で俺は最初にアニメにどっぷりハマり、さらに漫画やラノベに誘惑され、フィギュアをでるまでになった。大学で講義がない日は、この趣味部屋に引きこもって趣味を堪能たんのうしている。

「はぁ、俺も異世界行ってみたいなぁ……」

 何気なくつぶやいたそんな俺の一言。
 まさかそれを聞いている者がいるなんて――想像もしていなかった。

『その願い、かなえましょう』
「え?」

 突然頭の中に聞こえてきた声に驚いた瞬間、フッと意識が暗転した。
 目を覚ますと、そこは見慣れない部屋の中だった。
 俺は簡素なベッドに横になっていて、起き上がるとクラクラと軽い目眩めまいがする。

「何が……どうなってるんだ……?」

 頭を押さえながら立ち上がると、ポケットの中のスマホからメールの受信音が鳴った。
 スマホを取り出しホーム画面を開くと、今までダウンロードしていたゲームや通販サイト、デリバリー等のいろんなアプリが消えていた。
 そのかわり、メール、検索、翻訳ほんやく、インベントリ、神様クエスト、神様ストア、ステータスというアイコンが並んでいる。

「は……? うそだろ……?」

 結構課金をしていたゲームとかあったのに……。
 俺はしばらく呆然ぼうぜんとしていたが、幾分いくぶんか気分が落ち着いてからメールを開いた。
 ただ一件のみが受信されており、今までの履歴は全て消えている。
 未読のメールをタップして開き、読むとその内容にまた呆然としてしまう。


 ようこそ、西園寺玲真様。
 私は遊戯ゆうぎ享楽きょうらくつかさどるメシュフィムと申します。
 貴方の心からの願いが聞こえ、この世界ムールへと御招待しました。
 ムールは貴方が読まれている小説の世界と同様のモンスターが存在し、魔法もあるいわゆるファンタジー世界です。
 このスマホは貴方をこの世界に御招待する時に唯一持っていた物だったので、役立つ道具として一緒に持ってきて改造を施しました。
 バッテリーは存在せず、充電の心配をする必要はありません。これは貴方の魔力によって維持されます。貴方以外はこのスマホに触れることができないようにしてあります。
 また貴方を御招待するにあたって、負荷に耐えられるように誠に勝手ながら種族を変えさせていただき、この世界の成人年齢である十五歳に若返らせていただきました。
 どうかこの世界を楽しんでください。
 何かございましたらメールをしてください。


 とんでもない内容だった。
 確かに異世界に行ってみたいとは常々思っていたし、チートで冒険するのを夢想したこともある。
 だけどまさか実現するなんて思ってもみなかった。

「俺が突然消えたら、お父さんやお母さんは……こんなことになってごめんなさい……」

 この世界で謝っても届くはずがないことはわかっているが、両親のことを考えると胸が締め付けられる。
 異世界に来て心が躍らないと言ったら嘘になるが、両親のことが心配だ。元の世界に帰る方法を探さないと。

「というか、メールしてみればいいのか」

 元の世界に帰る手段はあるのかと、唯一アドレスに名前があるメシュフィムにメールしてみた。


 詳しくは言いませんが、戻る手段はあります。


 言えないんじゃなくて、言わないんだなとメールをにらみつける。
 多分、今こうしている時も俺を見ているんだろうと、俺はなんとなく空を見上げる。
 最初のメールにあったように、この世界を楽しめってことなんだろうか。

「……武文たけふみならこの状況、全力で楽しむんだろうな」

 俺の幼馴染にして、良き理解者であり俺をオタクに染め上げた男のことを思い浮かべる。

「戻ってこの話したらうらやましがるんだろうなぁ」

 そんな光景が容易に想像できる。
 とりあえず、まずはこのスマホのことだな。
 ステータスのアイコンをタップすると、ゲームのようなステータスの画面が開かれる。


 リョウマ・サイオンジ 男 15歳(0年) デミゴッド
 レベル1
 魔力 :150   持久力:10   筋力 :9
 俊敏 :8     器用 :11   幸運 :92
【スキル】


「種族を変えるってこういうことかよ!! デミゴッドって半神じゃん、ヤバいだろ!!」

 普通に考えれば半神という存在は異常だ。
 俺は再び心を落ち着かせ、次にインベントリのアイコンをタップ。
 するとそこには、初心者冒険セットなるものが入っていた。
 それをタップすると、少し大きめの箱が現れる。
 戸惑いつつ、恐る恐る開ければ、ショートソードとかわの胸当て、腰に剣を差す革ベルトが入っていた。その他にも、液体が入った小瓶が五個に、銀色の硬貨が十枚入った布袋があった。
 まずはショートソードを手に取りよく見る。

「まぁ……本物だよな」

 アイテムをインベントリに入れられないか、試しにスマホを近づけると消えた。
 なるほど、取り出したければアイテムをタップして、収納したければインベントリの画面に近づければいいのか。
 次に翻訳のアイコンをタップしたのだが、うんともすんともいわない。
 首をかしげつつ今度は検索をタップすると、アプリが起動し、検索画面が現れた。
 見慣れたサイトの検索ホームだな……。
 キーボードとマイクのマークがあり、文字入力と音声入力ができるようだ。
 これは……調べたいワードがあれば教えてくれるってことだろうな。
 試しに『デミゴッド』と検索すると詳しく出てきた。


 デミゴッドは神の祝福と恩恵により特別な進化をした種族。
 強力な力を持ち、その祝福と恩恵で非常に長命であり、姿は老いることなくいつまでも変わらないが、不死ではないため殺されれば死ぬ。
 世界ムールにはデミゴッドは五人だったが、新たに一人増えた。


「思った以上にヤバイじゃん……六人目って俺のことだよな。騒がれるんだろうなぁ……」

 俺は眉間みけんにシワを寄せて頭を抱える。
 しばらくして平静を取り戻した俺は、神様クエストと神様ストアに目を向ける。

「これも絶対ブッ飛んだものに違いないだろうなぁ……」

 そう予想しつつ、まずは神様ストアをタップしてみる。
 開かれた画面をスクロールして――言葉を失った。
 神様ポイントなるものでスキルを買うことができるし、スマホの拡張機能として様々なアプリもインストールできるみたいだ。

「これはヤバイぞ……思った以上に凄いチートだ」

 夢にまで見たチートだが、いざ自分がその立場になってみると、困惑することがわかった。

「落ち着けー……落ち着けー……ふぅ……」

 深呼吸してから、次は神様クエストを見てみる。

「……チュートリアルクエスト?」

 1から順に番号の振られたチュートリアルクエストが、ズラッと並んでいる。
 最早ゲームだ。ここまで親切にチュートリアルが用意されているとは思わなかった。
 ともかく、まずはチュートリアル1。


 チュートリアル1 武器と防具を装備しよう!
   クリア報酬1:神様ポイント10
   クリア報酬2:スキル剣術


 クエストを受けて報酬で神様ポイントを得るようだ。スキルまでもらえるのは良いな。
 インベントリからショートソードと革の胸当てと革ベルトを取り出し、身に付ける。

「これで良いのか? ……お、良いみたいだな」

 装備を身に付けると、クエストの画面が点滅する。
 それをタップすると、クエストクリアと表示されて、0だった神様ポイントが10に増えていた。ステータスを見ると、スキルの所に剣術Lv‌1が追加されている。
 次だ。


 チュートリアル2 神様ポイントを使ってステータスの能力値を増やそう!
   クリア報酬1:神様ポイント10
   クリア報酬2:全能力値+10


「マジか……神様ポイントで能力値も上げられるのか……」

 ステータスを開くと、能力値の横に+のマークが追加されていた。
 試しに筋力の+をタップすると、神様ポイントが1消費されて筋力が5増えた。
 とりあえず全ステータスで、均等にポイントを1ずつ使っていく。
 チュートリアル2もクリアして報酬を受け取る。


 チュートリアル3 小屋を出てみよう!
   クリア報酬1:神様ポイント10
   クリア報酬2:マップインストール


 小屋? ……なるほど、この部屋は小屋だったのか。
 外に出ると、周りは樹木に囲まれていた。
 どんなモンスターがいるかわからないからすぐに小屋の中に戻り、クエストのクリア報酬を貰う。

「お、マップのアイコンが追加されてる」

 インストールされたマップをタップすると、その言葉通り地図が出る。
 周囲が濃い緑に覆われていて、至る所に黒い点と灰色の点があり、それらは動いていた。画面中央にある三角アイコン、これが自分なのだろう。地図を拡大縮小することもできる。

「多分この黒い点はモンスターなんだろうな。灰色のは……何だろ? 動物とかかな。まあいいや、次のチュートリアルだ」

 チュートリアル4 スライムを倒してレベルを上げよう!
   クリア報酬1:神様ポイント10
   クリア報酬2:水魔法
   クリア報酬3:魔法指南書


「おお!! 魔法だ!!」

 戦いに備えて、神様ポイントでステータスを10ずつ上げておく。
 周囲の状況を把握できるようにマップを開くと、一つの黒い点に向かって線が伸びていた。

「これ、もしかしてナビゲート機能か?」

 その線を辿たどっていくと、ズルズルとゆっくりと移動する、水色の半透明な水の玉が視界に入ってきた。あれがスライムなのだろう。

「よし……」

 俺はショートソードを手にしてスライムと対峙たいじした。
 意を決して剣を振りかぶり、勢いよくたたきつけるように振り下ろす。
 スライムの粘液ねんえきがデローッと周囲に広がっていくと、欠けた灰色の玉が露出ろしゅつした。

「た、倒せたのか?」

 地面の粘液や欠けた玉を剣先でツンツンと突いてもなんの反応もないことに、ホッとする。

呆気あっけなかったな……そうだ、報酬を貰わないと」

 ステータスのスキル欄にしっかりと水魔法のスキルが追加されているのを確認した俺は、急いで小屋に戻った。


 チュートリアル5 魔法を使ってみよう!
   クリア報酬1:神様ポイント10
   クリア報酬2:魔力100


 再びクエストを確認したけど……いきなり魔法を使えと言われてもできるわけがない。
 さっきの報酬で貰った魔法指南書を取り出し、装備を外してからベッドに腰を下ろして読み込む。

「……なるほど」

 パタンと本を閉じてベッドの上で胡座あぐらをかく。
 瞑想めいそうの要領で精神を落ち着かせて集中し、己の内側に秘める力、魔力を感じ把握する。
 そして水を操る自分を明確にイメージする。

「ふぅ~~~~」

 ゆっくりと息を吐き意識を集中する。
 ん~~、なんとなく……これかな?
 全身からあふれ出る、今までに感じたことのない不思議な何か。これが魔力なんだろうと理解し、これまた不思議なことにすんなり受け入れることができた。結構簡単だな……。
 全身から溢れ出る魔力を支配し操れるようになったと、本能でわかる。
 続いて魔力を体の中でグルグルと循環させていく。

「ふぅ~~」

 何となくだが、感覚が鋭くなったような気がする。
 俺は続いて、水魔法に取りかかる。
 まずは水を生み出すことから試したが……これもそう長くはかからなかった。
 イメージすることで、小さな水滴が徐々に水球になって浮かび上がる。


 この時点で魔法は成功しているのだが、俺がイメージする魔法は水の弾として対象に放つことだ。
 水球を放つイメージをすると、パシャッという音と共に、小屋の壁がれた。

「よし、なんとかできた。これでクリアだな」

 報酬を受け取り、次のチュートリアルを見る。


 チュートリアル6 ゴブリンを倒そう!
   クリア報酬1:神様ポイント10
   クリア報酬2:鋭いナイフ
   クリア報酬3:スキル解体


「次はゴブリンか」

 マップを開くと、孤立している黒い点にナビゲートされていた。
 装備を付けなおして、小屋を出てその点に向かえば、案の定一匹のゴブリンがいた。
 よし。
 身をかがめた俺はショートソードを手に、静かに深呼吸して、激しい鼓動を落ち着かせる。
 そして、勢いよく飛び出し、ゴブリンの背後から袈裟斬けさぎりした。

「ゴ……ブ……!?」

 何が起きたのかもわからないのだろう、ゴブリンは叫び声を上げることもなく倒れる。

「よ、よし……ウップ……」

 こみ上げる吐き気を必死に我慢する。
 ゲームや漫画、ファンタジー小説などで、モンスターは倒すべきで殺されて当然、みたいに刷り込まれてきた。だけど現実でこうして命を奪うことに、一瞬で慣れるなんてのは無理だ。
 手に嫌な感触が残っている……経験値になって俺のレベルを上げてくれるんだ、感謝しないと。
 マップで周囲の様子をうかがいつつ、周りにモンスターがいないことを確認してクリア報酬を受け取り、次のチュートリアルを見る。


 チュートリアル7 スキル解体を使ってゴブリンの魔石を取り出そう!
   クリア報酬1:神様ポイント10
   クリア報酬2:スキル浄化魔法


「……だよなぁ。可能性はあるって思ったけど、自分で解体するとなるとさすがにキツイな……」

 絶命しているゴブリンを前に少し戸惑ってしまう。
 解体のスキルを試してみると、どういう風にさばいていけばいいのかなんとなくわかって、何が素材となるかがわかる。
 ゴブリンの素材は魔石で、それは胸の所にあり、それ以外は素材として用途がないみたいだ。

「胸をさばいて自分で取らなきゃいけないのかよ……」

 インベントリから鋭いナイフを取り出す。
 これもチュートリアルのため……頑張れ俺ッ!!
 意を決して、ゴブリンの胸にナイフを刺す。

「ッ!! オエエエエエエエエ!!」

 あまりにも生々しい感触が伝わってきて、胃液を吐き出した。
 くじけそうになるが、この世界で生きていくには必要なことだと自分に言い聞かせる。何度もえずきながらも、グチュグチュと血と肉の中に手を入れて魔石を取り出した。

「ッハァ、ハァ……」

 目に涙をいっぱい浮かべ、なんとかやりきった。
 ゲームのようだなとどこか軽く考えていたが、現実は甘くないと思い知らされた。
 顔面蒼白そうはくになりながら、クリア報酬を受け取る。
 まずは浄化魔法を試そう、今すぐにナイフや手に濡れる血を綺麗にしたい。
 魔法ということだから、水魔法と同じ要領だな。
 血が消えて全身が綺麗になるように強くイメージすると、俺の全身がほのかに輝き、血はおろかわずかな泥汚れも消え去った。ついでに小さな魔石も綺麗にしインベントリにしまう。

「はぁ……。キッついなぁ……」

 その場を立ち去る前に、胸が開かれたゴブリンを見て手を合わせて祈る。
 俺の糧になってくれてありがとう。
 自己満足であるが、そうしたかった。
 マップを見ながらトボトボと小屋へ帰る。幸いなことに、モンスターに遭遇することはなかった。
 小屋に戻ってきた俺はベッドに倒れ込みしばらく休んでから、次のチュートリアルを確認しようとスマホを取り出す。


 チュートリアル8 ゴブリンを倒してレベル10になろう!
   クリア報酬1:神様ポイント10
   クリア報酬2:スキル治癒


「今日はもういいや……精神的に結構疲れた……」

 神様ポイントが52もあるから、神様ストアで何か面白そうなものに交換できないか見てみる。
 まず目についたのは、換金アプリや両替アプリ、通販アプリだ。
 どれも神様ポイントが1万必要で、今はまだインストールできないが、かなり気になるところだ。
 しばらく神様ストアを見て暇を潰していると、日が暮れてくる。

「そう言えば、昨日から何も食べてないのにあんまり腹減ってないな」

 そう思いつつ、俺は小屋に食料がないか探してみることにした。
 棚の扉を開けると、そこには見慣れたものが入っていた。
 ブロック状の携帯用栄養補給食。コンビニとかでよく見たアレだ。

「なんでこんな所にあるんだ?」

 一瞬疑問に思うが、これもメシュフィムの仕業だろうと考えて、封を開けて一本食べる。ついでにコップもあったから水魔法で水を注ぎ飲む。
 空腹ではなかったが、食事という習慣をこなしたことで心も落ち着いたので、ベッドに横になる。
 灯りのたぐいがないのでどんどん暗くなってきたこともあり、俺はそのまま寝ることにしたのだった。


「……ん」

 目が覚めてスマホで時間を確認すると、ちょうど六時。
 ベッドから体を起こし少しぼーっとする。
 思いの外気分も良く、少しのんびりしてから装備を身に付ける。

「よし、やるか」

 マップを開くと、ゴブリンと思われるいくつもの黒い点に向かってナビゲートの線ができていた。
 まずは近い所から向かう。
 木々をけ、茂みに隠れて近づいたところで静かに腰から剣を抜く。
 いざ攻撃しようとしたところで気付かれてしまったが、勢いよく袈裟斬りする。攻撃を食らったゴブリンは倒れ込んだので、すぐにとどめを刺した。
 断末魔の叫びを上げたゴブリンは次第に動かなくなり、絶命した。
 昨日と同じく心の中で感謝しつつ、すぐにその場から離れて次のゴブリンへと向かう。
 最初は真剣にやっていたが、何十匹と倒していくと状況に慣れてきて、流れ作業となった。
 倒した、まだレベル上がってない、よし次。といった具合だ。
 ちなみに、倒すだけ倒して魔石は取っていない。今回はレベルを上げるのがメインだから解体は後回し、という言い訳をして逃げた。
 日が真上に昇った頃に、やっとレベルが10になった。
 レベルが上がるごとに必要な経験値は増えていくから、徐々に上がりづらくなる。
 だけど、ナビゲートではゴブリンに案内されるから、それに従いゴブリンだけを倒した。
 今回の達成報酬であるスキル治癒は、自分の治癒力が上がるようだ。
 何回か油断して攻撃を食らい、切り傷や打撲ができたが、それが心なしか早く治ってるような気がする。


 リョウマ・サイオンジ 男 15歳(0年) デミゴッド
 レベル10
 魔力 :1388   持久力:73   筋力 :79
 俊敏 :92     器用 :93   幸運 :107
【スキル】
 剣術Lv‌4 水魔法Lv‌3 浄化魔法Lv‌1 解体Lv‌1 治癒Lv‌1


「うーん、ステータス上がったのはいいけど、どれぐらい強いのかってのが判断できないよなぁ」

 比較対象がいないから仕方ない。ゴブリンなら瞬殺できることは確かだけど。
 気を取り直し、スマホを取り出して次のチュートリアルを見る。


 チュートリアル9 森を出よう!
   クリア報酬1:神様ポイント10
   クリア報酬2:旅人の外套がいとう


「おお! 森を出られる!」

 マップを見れば、しっかりと森を出られるようにナビゲートされている。
 その案内に従って歩くこと約二時間。やっとのことで森を出ることができた。
 報酬を受け取り、インベントリから旅人の外套を取り出して着る。グレー色で生地きじは結構しっかりしていた。

「たしか、財布もベルトに括りつけられるんだよな」

 インベントリからお金の入っている布袋を取り出して、ベルトに括りぶら下げる。

「よし、次のチュートリアルは、っと」


 チュートリアル10 都市に行こう!
   クリア報酬1:神様ポイント10
   クリア報酬2:アイテムバッグ(小)


 マップには都市までの行き方が表示されており、それに従って草原を進んでいると街道に出た。
 案内はこの街道に沿っているから、この道を行けば都市に行けるようだ。
 日はだいぶ傾いているし、確実にどこかで野宿することになるだろう。

「小屋で休んで朝一で出発すれば良かったな」

 森を出られると興奮して気がはやった。
 仕方ないから少しでも街に近づけるように歩き進めるが、次第に辺りは暗くなってゆく。

「あ、野宿するにしてもやらなんやらするんじゃなかったっけ……? やべ……」

 薪なんて集めてないし、もう暗くなっていて今から準備なんて無理だし、そもそも焚き火なんてできやしない。
 はぁ……多少暗くてもマップを開きながら進んでいくしかないか。
 まぁ、マップを見れば近くにモンスターがいないかすぐわかるから助かった。
 周囲を警戒しながら、月明かりに照らされる街道を進む。
 それにしても、この時間でも動き回っているモンスターが多い。近くにこそいないが、黒い点がそこかしこで活発に動いていた。
 そのうち、歩みを進めるにつれて、三つの黒い点がまっすぐ俺の方に向かってくるのに気付いた。
 クソッ、完全に俺をねらってるな……。
 ショートソードを抜いてその黒い点の方へ構える。
 街道のわきの茂みがガサガサと揺れ、中型犬くらいのモンスターが現れた。

「グルルルルル……」

 のどを鳴らして威嚇いかくしながら、ゆっくり近づいてくるモンスター。
 緊張感が高まり、剣を強く握る。
 いつの間にか背筋にツーっと汗が流れていた。
 タッと地面をる音を立て、一匹が襲いかかってきた。
 月明かりでかろうじて見えていたから、そのモンスターに向かって剣を振り下ろすものの、モンスターはヒョイと簡単にかわし、俺の背後に回り込む。
 そして続けて、今度は三匹一斉に襲いかかってきた。

「クソッ!!」

 無我夢中むがむちゅうで水弾をイメージして水魔法を発動する。
 水の玉が無数に浮かび上がると、まるで銃弾のような形になってギュルッと勢いよく回転する。イメージしたのはもちろん拳銃けんじゅうの弾だ。
 それを射出して、モンスターを穿うがつ。

「「「ギャイン!?」」」

 三匹は悲鳴を上げてバタバタと倒れた。もうほとんど虫の息だ。

「……」

 自分自身でも魔法の威力に愕然がくぜんとした。ゴブリン相手に剣で戦ってたのが馬鹿らしくなるほどに余裕の戦いだ。
 倒したモンスターはひとまずインベントリに収納する。
 今は暗いから無理だけど、後で解体して魔石など使える素材を取るためだ。
 ゴブリンみたいな二足歩行じゃなくて獣だから、まだ気持ち的にはやりやすいだろう。
 俺はとにかくその場を離れたくて、再び闇夜やみよの街道を進むのだった。


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