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オオカミ少年
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ハンバーガー店を出て、たまたま入ったお土産屋さんは、いわゆる女子向けのお店だった。
ちっこい袋に小分けされたカラフルなあられとか、ごてごての飾りが付いた香水とか、こまごまとしたお土産ばかりがところ狭しとならんでいる。
「正直ここには欲しいものねえなー」
店内をきょろきょろ見回しながら、智己が不満そうに呟いた。
そういえば携帯から目を離した智己を久しぶりに見た。
「僕もなんもいらないわ」
「だよな、そーいやー、涼は?」
「まだ外にいる」
涼はかえでに押し付けられたナゲットを店の前で急いで消化しているらしい。
ふぁー、と思わずあくびが出た。
「退屈だなぁ」
そうこぼしたとき、
「りくー」
店の奥の方から千夏の声がする。
「ん?」
「これとこれ、どっちが似合うと思う?」
目の前に出されたのは、2つの小さなピン止めだった。
…やばいな、こういうのあんまよくわからないし。
しばらく黙って考えていると千夏はこらえきれなくなったように、
「こっちの方が似合うよね??陸もそう思わない?」
と、金色の方のピンを髪に当てながら、半ば早口で聞いてきた。
「うん。かわいい、と思う」
「ありがと」
かわいい、と思う。
思わずさらり、と言ってしまった後の妙な恥ずかしさ。
こういう不意に出る本音って、フラれる気まんまんでの告白よりも案外恥ずかしかったりするんだと思う。
「やっぱこっちだよね、正直言ってこっちだと最初から思ってたんだけどね、確認だけ取りたかったんだよね」
なんだ、そんなことか。
「これ買ってこよっ」
千夏はレジへ走っていった。
「あー食った食った」
ガラスのドアを押しながら、涼が店の中に入ってきた。
「お前はいつの間に大食いキャラになったんだよ」
「ほんとそれ。でも、もう当分ナゲットはいらないわ。で、買い物済んだ?」
「ここには俺たちの欲しいものはないわ。な、陸」
「ああ」
「やっぱ俺らは食い物欲しいよな~」
僕たち男子がそんなどうしようもない会話をしているうち、女子たちが戻ってきた。
そのまま店を出て通りの方へ向かう。
歩きだすと、智己がまた携帯をいじり始めた。
それに気づいたみんなも、それとなく自分の携帯を気にしはじめる。
…あれ?
なんとなくみんなの動きにつられたのか、千夏もバッグから携帯を取り出した。
「ん?」
千夏と目がばっちり合う。
じろじろ見てたのバレたか。
「どうかした?」
「いや、特に」
「ねえ、見て、こんなのも買ったんだ」
千夏はそう言いながら、さっきの店のビニール袋から小さなストラップを取り出した。
小さい鈴が付いていて、持っているだけで歩く振動でちりんちりん、と音を鳴らした。
「もう着けちゃおうと思って」
そう言って千夏はケースの小さい穴にストラップのひもを通し始めた。
なんだ、そんなことか。
みんなが携帯ばっかりいじってるのを怪しんてたわけじゃなかったみたいだ。
「これ、…陸にあげる」
「え?」
「私のと色ちがいの。これも、さっき買ったの」
千夏は、まるでお釣りでも渡すかのような手つきで、僕の手にストラップをのせた。
ちりん、ときれいな音がした。
心臓がとくん、と鳴ったような気がした。
「いいの?」
「幼なじみの仲なんだよ?私たち。受け取ってよ」
幼なじみ。そこばかりやけに耳についてしまう。
「これ、お返しだから」
急に千夏が不可解なことを言い出す。
「なんの?」
「陸にもらったストラップの」
「そんなの、あげたことあった?」
「小6の時。覚えてない?」
「覚えてな………あ、思い出した」
思い出した。
「いや、あれはただ引っ越すときにみんなに配ったやつだよ」
「でも、私にはストラップくれたじゃん?あれ、みんなに配ったって言ってたけど、違ったんだよね?あとで智己に言われて知ったんだけど。
…あの時のお返し、ってことで」
あの時の思い出が急によみがえってきて、顔から火が出そうに熱くなる。
そのころ、引っ越していく人は世話になったクラスメイトにものを配るというのが一種のしきたりのようなものになっていた。
それで僕も引っ越すとき、お母さんが近所の文具店で買ってきた鉛筆と消しゴムをクラスのみんなに配ることになった。
鉛筆と消しゴムを1こずつ、小さい紙袋に入れて、そこに新しい住所を書いた紙切れを貼った。
今までありがとう、また遊びに来てね、みたいな簡単なメッセージを添えて。
卒業式の前の日、クラスでなんでもバスケットをやった後、僕のためにささやかなお別れ会が開かれた。
確か、智己はすっごく泣いてくれた。
持っていった紙袋を手渡したとき、よくわからない言葉を叫びながら僕に抱きついてきた。
もらい泣きするのを僕は必死こいて我慢してたことを覚えてる。
だけど、結局、千夏には何も言えずに終わってしまった。
それが悔しくて、千夏にもう一度会いに行く口実を作りたくて、その日、学校が終わってから急いで隣の学区まで自転車を飛ばした。
いつもはお母さんとしか入らないような、こじゃれた雑貨屋で、ネコのストラップを買った。
結局、千夏の家に持っていったのはいいけど、家にはお母さんしかいなくて、直接会うことはできなかったのだけれど。
「そんな古い話、忘れてた」
「そっか」
しばらく、間があった。
「ありがとうな」
僕はストラップをカバンにしまった。
そこで、携帯がまた震える。
智己からだ!
みんなは一斉に携帯を見る。
僕も携帯を開く。
横から感じる千夏の視線がかなり痛かった。
こんな方法以外に何かなかったのかよ、と、今さらになって後悔の気持ちがわいてくる。
もっと円滑に進められないのかよ。
メッセージを開くと、
『作戦開始!』
簡単なその4文字だけが姿を表した。
僕の頭の中は完全に停止した。
作戦開始…?
今までさんざんいろいろ調べておいて、たったそれだけ?
この指示が何を意味しているのか、涼や、かえでや、栗本さんに聞きたい。
だけど、ルール上、聞けないのがもどかしい。
次に来る指示を待って、歩きながら携帯の画面を眺め続ける。
その途端にガツッ、と重い衝撃を背中に感じた。
「す、すみません!」
駅前に近づいてきたので、僕たちの列は時折人ごみにまきこまれる。
人ごみに埋もれては何度も肩をぶつけて、迷惑そうにすれ違っていく人たちに謝り倒す。
メッセージは全くもって送られてこない。
それぞれは個々の携帯ばかり見ているから、お互い離れてときどき見失いそうになる。
勝負本番が近づいているのに、先がわからない恐怖でやけに心拍数が上がってきた。
「あっ」
メッセージだ!
『陸!動くな!お前はそこにいろ!!』
行き交う観光客の中で、突如として立ち止まる僕。
そっか。
そういうことか。
ここで千夏と二人きりになれれば作戦は成功だ。
心の中でガッツポーズをしかけたそのときだった。
ツアー客たちがはけて少しだけ視界が良くなった駅前で、僕は重大なことに気づいてしまったのだ。
「千夏が…いない」
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