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三日目
13 * 言葉が溶けて消えた夜
しおりを挟むホテルに戻ってうっかり眠ってしまった。
実際寝ていたのは一時間もなかったと思うが、つぐみとひばりはその間にしっかり化粧を直したようだ。そういうところだよなあ、と、寝ぼけ眼でバス停に向かいながら自省する。まゆげが残っていればよいのだが。
バス停までは、わりと距離があった。体にきちんと意識が収まっていないような、寝起きならではの不快感に包まれながら、バスを待つ。雨が降っていた。
ようやく来たバスに乗り、一区間分で下車する。タオタオタシ、というディナーショーの会場は、海風が吹き抜ける木造の建物だ。
ここでも食事はビュッフェ形式だった。一日二ビュッフェ。贅沢な経験だ。だいぶ早めに着いたこともあり、閑散としたなかで優雅に食事を選んだ。エビにパスタにスペアリブ。もはや自分が何を食べたいのかもわからず、手当たり次第皿にのせた。
注文したお酒が揃うと、最後の夜に乾杯をした。旅の終わりを感じ、ちょっと感傷的な気分になる。それを打ち消すように、目の前のココナッツなんたらをぐいっと飲み干した(と書ければかっこいいのだが、実際はアルコールが濃かったのでちびっと飲んだ)。
食事をしている間、ギターの演奏や子供を集めてのダンスなど、様々な催しがステージの上で行われていた。「こういうショーなのか」とエビを頬ばりながら思っていたのだが、これがとんだ勘違いだった。
照明が落ち、地の底から響くような音楽が流れた瞬間、あ、さっきまでのは前座だ、と一瞬で察した。空気がまるで変わったのだ。見るじゃなく、観るやつ。「ショーの途中にもごはん取りに行ってもいいのかなー」などと言っていた自分を恥じた。これはそういうやつじゃない。
透明感のある声で歌われるメロディに、激しいドラムのリズム。照明も舞台装置も、すべてが迫力のあるものだった。客席まで大きく使ったダンス、子供のパフォーマーによる演技。台詞や歌詞を正確に理解することはできなくても、それを凌駕する勢いに圧倒される。
目の前で凄まじいショーが行われ、そのステージの向こう、白波の立つ海が月の光を浴びる静かなさまが見え、なんだかよくわからないままに目頭が熱くなった。今いろんな国の人が一緒にこれを観て、この時間を共有しているのだと思うと鳥肌が立った。
最後は観客もみなステージの上にあがり、踊りながらフィナーレを迎えた。パフォーマーのダンスを真似ながら、同じように踊る、様々な文化を背景に持つ人たちを見て、笑いとか感動とか、そういうものは言語を超えて伝わるんだな、という単純なことに改めて気付かされる。そして反対に、いくら同じ言葉を使っていても、気持ちが重なっていなければ思いはちっとも伝わらないなあ、とも。とても変だけどとても健全だ。駅ですれ違う日本人より、目の前で踊る、会話もろくに成り立たない異国の人の方が、精神の距離は近い。
時間や思いを共有するのはとてもいいものだ。異国のダンスを不格好に真似し、ライブ会場さながらの熱気に包まれながら、そう思った。
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