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三日目
14 * ラストナイトの空の色
しおりを挟む帰りのバスはすごい混雑具合だった。大勢の人達が一斉にバスに乗ろうとするのだから仕方あるまい。先ほどまで「精神の距離は近い」とか言っていた人々は、こうなればバスを奪い合うただの敵となる。人類の悲しい性だ。
結局、バスに乗るのはあきらめて、七人でぞろぞろと歩いて帰ることになった。寿司詰めになって帰るよりも、歩いて帰ってパンパンになったお腹の中を消化する方がお得な気がしたからだ。
ホテル近くまで戻ってきたときには、昨日のラウンジはもうすぐ閉まるという時間になっていた。だからといって、そのまま眠ってしまうのはもったいない。最後の夜だ、名残惜しいではないか。
街にはまだ開いている店も多かった。だったらいっそ買い物タイムにしよう、という流れになる。買い物タイムがやたら多い気がするが、かまわない。グアムとはきっとそういうものなのだ。明日の予定も、半日買い物だ。
つぐみたちは見たい店があったらしく、翌朝の集合時間を決めて、解散した。
ところでみなさんは、ハードロックカフェという服屋をご存じだろうか。わたしはこのときまで知らなかった。
羽斗がいきなり「ハードロックカフェに行きたい」と言いだしたとき、驚いた。バンドや楽器に興味なし、好きなアーティストはAAAである羽斗が、ハードロック? そしてあれだけ食べておきながら、まだ食べるのか?
連れられたところは、Tシャツがたくさん売っている店だった。
「ハードロックカフェって、服なのか。カフェなのに」
「カフェもあるけどね。Tシャツほしくてさ」
「好きな人は好きだよね、ここのTシャツ」
勝手知ったる様子のひばりも、羽斗と一緒にTシャツを見て回っていた。あれ、わたしもしかして、すごい恥ずかしいこと言ったかな。なんとも言えない気持ちになる。
そういえば昔、友達のTシャツを見て「バナナのTシャツかわいい~」と言い「アンディ・ウォーホル、知らないの?」と怪訝な顔をされたことがあった。それ以来、服に対して余計なことを言ったり、書かれた文字を読んだりするのはやめにしたのだ。ちなみにアンディ・ウォーホルはポップアートの画家であり、ブランドではないというのを、これを書きながら検索して知った。
ウィンドウショッピングを一通り楽しみホテルに戻ると、つぐみから「プールサイドのデッキチェアで酒を飲んでいる」という連絡があった。迷ったが最後の夜なので、わたしたちも行ってみることにする。
デッキチェアが並んだその場所は、浜辺から一階分ほどあがったところにあった。暗い海を見渡すことができる。
雨で濡れたデッキチェアに慎重に横たわり空を見上げると、わずかながら星が見えた。南の島といえば星がたくさん見えるものだと思っていたが、そうじゃないのだ。グアムは明るい街だから。その場に行かなければわからないことがたくさんある。
物思いにふけりながら、つぐみがくれたチョコレートを食べたらタバスコ味だった。辛かった。絶対に許さないと思った。
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