ネオンブルーと珊瑚砂

七草すずめ

文字の大きさ
17 / 21
四日目

16 * お土産は夢と現をわたす橋

しおりを挟む


 最後の買い物タイムとなった。
 ひばりは内定祝いにブランドのバッグを買ってもらうそうで、父と共にデパートに向かった。わたしも羽斗といっしょにデパートに入り、何かおもしろいものがないか、見てまわる。
 途中、R2ーD2の目覚まし時計と目が合ってしまった。ボタンを押すとおしゃべりするのがかわいい。すかさずアマゾンで検索し、帰国すれば簡単に入手できなそうなことがわかると、すぐにレジに持って行った。
 会計をしている最中、羽斗がトイレに行くと言ってその場を立ち去った。便秘だと言っていたから、きっとがんばっているのだろうなと思い、会計後もその近くでのんびりと待つことにした。
 しゃべる目覚まし時計には、ストームトルーパーやダースベイダー、ミニオン、スパイダーマンなど、いろんな種類があった。ボタンを押し、音を聞いているだけで時間をつぶせる。ダースベイダーはどんな音が出るんだろう、あの曲かな、と思いサンプルを押してみると、「コー……コー……」という例の呼吸音が響き笑った。
 そんなことしながら羽斗を待っていたら、となりの店で腕時計を購入しているつぐみと彼氏に会った。そのレジでJTBのなんたらを見せるとゴディバのチョコレートがもらえるということを教えてもらい、わたしもJTBのなんたらを見せ、チョコレートをもらう。
「これからどっか行くの?」
「羽斗が今トイレにいってるから、待ってるの」
「そうなんだ。大丈夫かね、おなか」
 などと言葉を交わし、二人と別れる。それにしても羽斗、遅い。心配になってきた。ラインを送ってみる。
【まだー】
 すぐに返信が来た。
【ごめん もう出てきてる】
【Pradaの前にいます】
 え、いつ出たの? わたしは置き去りにされたの? そして、どうしてPradaだけ英語なの? 
 ……Pradaの前に行くと、羽斗と母がソファに座っていた。
「絶対に許さない」
「まじでごめん(笑)」
 反省してるんか、というような様子だったが、これが母やつぐみだったら苛立つだろうに、羽斗だと怒る気にすらならないから不思議だ。ひばりや羽斗になら、多少適当なことをされたり、身勝手なことをされたりしても、全く怒りに結びつかない。
 たぶん、年齢の差なのだろうと思う。つぐみとは三つしか離れていないが、ひばりとは七つ、羽斗とは九つ離れているのだ。羽斗など、わたしのなかではまだオムツをしたままの赤ちゃん。ひばりもわたしの中ではまだトトロが大好きな四歳児のままなのだが、今や父にブランドバッグを買ってもらい喜んでいる。変な感じだ。が、よく考えたらわたしももう三十手前だということに気付き背筋が凍った。
 家族といる時間はこわい、精神年齢が勝手に巻き戻ってしまう。落ち着け、つぐみは仙水忍と同い年だし、わたしは野原みさえと同い年だ。いや、仙水さんの貫禄すごいな。(わからない方は幽遊白書をどうぞ)
 羽斗たちは次に、ハードロックカフェに行くらしかった。昨日は結局買わずに店を出たが、今日はどれかを買うつもりだという。わたしはハードロックカフェで売っていたドラムスティックが気になっていたのでいっしょに行こうかとも思ったが、グアム土産のドラムスティックって謎だなと我に返り、一人で他の店に行くことにする。
 JPストアというところは、雑貨やお菓子が多く売っており、イオンの雑貨売り場やサービスエリアのお土産コーナーに雰囲気が近かった。
 お土産をわたしたい人の顔を思い浮かべ、ひとつひとつ見繕う。こういう瞬間が、夢みたいな旅行と、戻らなければいけない現実をつなぐ、大切なものだと思う。お土産を買う時間がなかったら、わたしは永遠に現実に戻れない気がする。
 雑貨たちの中に、どうしても気になるものを見つけてしまった。自宅用のものはそんなに買わないつもりだったのだが、その小さなガラスの器は、あまりにかわいかった。
 流木の上に、ガラスがとろりと溶けたように置かれている。流木はひとつひとつが自然の物なので、必然的にガラスの器の形もひとつひとつが異なる。砂や貝をかざってもいいし、魚を飼う水槽にもなる、というようなことがパッケージの写真からうかがえた。
 実はちょうど、ベタの飼育を考えているところだった。家には既にデグーとハムスター、バトラクスキャットの三人衆がいるのだが(旅行中はウェブカメラと知人を駆使し留守番してもらっている)、ドレスのようなヒレと個性あふれる色が美しいベタという魚にはずっと惹かれていた。
 コップで飼えるとうたわれることも多いが、さすがにある程度の大きさがないと水質を保つのが大変だし、水替え不要の水槽を買おうかな……と思っていた矢先に、ほどよい大きさで手作りの、オンリーワンの水槽に出会ってしまったのだ。これは運命かもしれない。
 ただ割れ物だし、けっこうな大きさもある。値段は二十ドルと、だいぶ手頃。買うか、買わないか……。
 こういうときは、ベタについて詳しく調べるに限る。生き物を軽率にお迎えしてはいけない。「ベタ 飼育 水槽」で検索すると、ある知恵袋のページが引っかかった。
「ベタは跳ねます。コップで飼うなんて、干からびて死んでいるのを見つけるのがオチ。やめてください。」
 わたしはそっとブラウザを閉じた。いくら素敵な水槽でも、その横で愛するベタが死んでいたら美しくもなんともない。お迎えする際にはきちんとした水槽を用意しようと心に誓う。
 が、これを書いている今、やっぱり買えばよかったかなとちょっと後悔している。網でふたをすれば大丈夫なのではないかと思って。でも、それだとだいぶ不格好になるだろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

処理中です...