宝かごみかは、君しだい

七草すずめ

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小さな君の大冒険

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 銅
 丸く
 冷えた
 十円の噂
 知ってる?
 これひとつで
 冒険にいけるよ
 パパの財布の百円
 十円玉十枚に化けた
 バネをはじいた勢いで
 ルーレットと目がまわる
 国をとるため戦うコインは
 著作権なんて無視した絵の
 褪せたペンキを通過して
 アメリカ西部へ向かう
 頑張れ少年頑張れと
 小さな応援団の声
 僕は十円を操り
 気がついたら
 駄菓子一つ
 おかえり
 パパは
 笑う
 夜


   *


 小さい頃、カップに入れた砂利は一瞬でごはんに変身したし、紙はちょこっと四角を書くだけで簡単にパソコンになった。空き箱は車になるし、人形は生き生きと動き出す。物を何かに見立てて遊ぶとき、いつだって子供の目には、それが本物として映っている。
 大人になって好きなときにパソコンに触れるようになったら、紙は「二つ折りにしてパソコンの画面を描いたもの」にしか見えなくなってしまった。本物のパソコンは便利だけど、紙のパソコンのわくわくにはかなわない。だけど最近うれしいことがあった。画用紙がスマホになったのだ。
 ただの鬼ごっこに飽きたクラスの子たちが編み出した遊びが、逃走中ごっこだった。テレビ番組の「逃走中」と同じように、ミッションをクリアしながらハンターから逃げる。レク係の子がクラス全員分のスマホを作り、ミッションを書いた。もらった子たちは大喜びでスマホケースをつけた(描いた)。
 その日の休み時間の楽しさといったら。ハンターから身を隠しつつ、通りかかった子とライン交換をした。すぐ横にいる子には電話をかけた。ハンターに見つかって逃げていたら十人ほどの集団がスマホを向けてきたので、陽気にピースしてたら捕まった。「先生これムービーですよ」と言われ、笑い崩れた。
 ポケットに入っているスマホの何十倍ものわくわくが詰まったそのスマホは、いつでも使えるよう引き出しの中にしまわれている。
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