薫くんにささぐ

七草すずめ

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フォロワー数-フォロー数=アカウントの価値

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 小説を書いて投稿しているメインアカウントでは、ミノリちゃんをフォローしない。だって、「フォロワー数-フォロー数=アカウントの価値」だから。かわりにミノリちゃんのアカウントで自分をフォローする。これでMINORIがわたしを認めたことになるはずだった。わたしはMINORIに、一方的に思われている存在になれたのだ。現実、一方的に思っているのはわたしの方だということには目を瞑る。そもそもMINORIはわたしの存在を知っているのだろうか。
【ちょっぴり久しぶりの浮上です。最近あまり小説を書けていないのですが、近いうちに一作公開しる予定です。何卒よろしくお願いします!】
 ログインしたついでにつぶやいておいた。ミノリちゃんよりも賢そうな言葉を選んだつもりだったのに、投稿してから誤字に気付いてスマホをぶん投げそうになった。悔しさのあまり、ぎい、と声が漏らしたらしく、正面の座席に座っていた白髪のおばあさんが目をまるくしてこちらを見た。
【ミノリちゃんはセックスがすき! Kくんは騎乗位がすき。奥さんよりもいいって言ってくれたよ。うける!】
 それは、ミノリちゃんに下品なことを言わせてミノリちゃんの株を下げる作戦だったのに――そうすることで間接的にMINORIを攻撃したつもりだったのに――、自分があまりにも傷ついていて驚いた。気を抜いたら泣いてしまうくらい。そうかあ、薫くんは騎乗位が好きで、わたしよりもMINORIとのセックスの方が好きなのかあ。だからずっとしてくれなかったんだね、イライラのはけ口にするセックスしかする価値ないんだね。
 セックス、という単語に反応してか、ミノリちゃんのフォロワーが四人増えた。なのにわたしのメインアカウントは、久々につぶやいたことでフォロワーが三人減っていた。乾いた笑いがこぼれた。へへへ、白髪のおばあさんはもうこっちを見なかった。今ここでセックスと叫んだら、MINORIみたいに愛してもらえるのだろうか。
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