薫くんにささぐ

七草すずめ

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恋愛に現を抜かした挙げ句に全てを失うことを選ぶ

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 電車を乗り続けて、終点についたら適当に乗り換えて、ということを繰り返していたし、それを終電まで続けるくらいの気でいたのに、中途半端な駅で降りてしまったのは、そこがどう見ても果ての果てで、たまたま辿りつけたここで降りなければ、また現実に戻ってしまうと直感したからだ。
 人のいない、だけどICカードをぴっとする機械だけがある改札を出たら、そこは小さな浜辺で、左右の数十メートル先には有刺鉄線がはりめぐらされていた。この駅で降りる奇特な人間は、浜辺をうろうろするか、海に向かって沈むか、改札を再び通って電車を待つかしかできない。なんのためにここに駅があるのかさっぱりわからず気味が悪いけど、その理屈で言えばなんのために生きているのかさっぱりわからないわたしも気味が悪いということになってしまう。
 空たかくを泳いでいる、飛行機が見えた。薫くんが乗っているかもしれないと思ったら、飛行機すべてがきらきらして見える。だけどそのとなりにはMINORIが乗っているのだと思ったら、飛行機すべてが地獄に向かっていればいいと思う。
 さにゃがつぶやいていた。
【私の友達は本当に馬鹿。恋愛に現を抜かした挙げ句に全てを失うことを選ぶ。】
【彼女は自分で生み出すことに長けていない。なのに誰かに寄り添うことにも向かない。】
【足掻けば足掻くほど底に沈んでいく。私は手を差しのべずにそれを描く。】
 本当に、その通りだと、思った。
 ノーマクンはそれにリプライを送っていた。絵文字多め、やさしい声を体現したみたいな文章。
【だけどかわいい部分もあると思うよ。一生懸命がんばって、空回りしているところとか。】
【@ノーマクン でもあんただって、本命の彼女いるんでしょ?】
 さにゃは容赦なかった。絶対に開かないようにと頑丈な鍵を百個つけて閉じ込めておいた事実を、箱ごと踏みつぶすようにして暴いてしまう。真野くんの彼女を一度見かけたことがある。きれいで姿勢がよくて、自立しているのだろうとわかる歩き方のひとだった。
【@さにゃ それでも俺は、ひたむきで不器用なところが魅力だと思うよ。】
【@ノーマクン でも、誰かの一番になるのは難しい子。】
 ごごご、低くてきんとする音が響く。だけど音は遅いから、空からの轟音にそちらを向いても、そこに飛行機の姿はない。実体は、音よりもずっと先にある。
【俺があいつと結婚したのは、なんでだか知ってる?】
【@Kくん え、知りたい、教えて。】
【@ミノリちゃん ラインする】
 もうやめてよ、薫くん。そう思うのとは裏腹に、スマホの液晶を指が軽快にすべる。わたしはもう、わたしじゃないのかもしれない。炎上している人を、おもしろがって一緒に叩いているような。自分が分身したような変な感覚。
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