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第1章
信じる思いと対する思い
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「冒険者に、なりたい?」
毎晩の対話を経て、少しは態度が柔らかくなったガロ。
その顔は再び怪訝なものへと変わる。
「ガロ、失礼でしょ」
そんな相方を嗜めるのは、ガロと同じA+ランクの冒険者であるキャロル。しかし、キャロルの表情もまた、良いものではなかった。
「この地に何かご不満でも?アマミ様がお望みでしたら領主に伝え、できる限りご希望を叶えます。」
不安げな顔をするキャロルに、美しい少女は微笑を浮かべて答える。
「そうではない、折角何の縛りもなく世界に降り立ったのだ、色んなものを見てみたいし、食べてみたい」
恐ろしい存在である事を理解している分、意外と素朴な理由を口にした少女に、キャロルとガロは少し驚く。
「アマミ様よ、俺らこれでもかなり上位の冒険者なんだわ、もしよかったら俺らとパーティを組まねえですか?」
相方の不安定な敬語ににがわらいを浮かべつつ、キャロルもまたガロの提案を肯定する。
「確かに、私たちとパーティを組めば冒険者という意味ではかなり便利になるとは思います。都市などに入るときの検問も無視できますし、アマミ様には都合がいいと思います。それに、もしもアマミ様がどこかへ向かうのでしたら、お供をさせていただきたいです。」
理のかなったキャロルの提案に、少し考えたのち、少女は頷く。
「ああ、では君たちに任せよう。まずはエウロニの街を見てみたい、案内してくれ」
「偽りの神を信じるとは何事か!!貴様らに信仰心は無いのか!!」
エウロニの中央広場
大勢の人で賑わう露天の広場は、1人の男の怒号で静まり返っていた。
真っ白な生地に金色の刺繍の入ったローブ、"法衣"と呼ばれる物を纏った5人の男達は、彼らの代表と思われる男の声と同じく、怒りを露わにしていた。
「空から降ってきただと?!山に篭っているだと?!何処の馬の骨とも知れぬ物を、神として信仰するなど!」
立ち止まった街の人々を見渡しながら怒る男の、その目は不安で揺らいでいた。
エウロニの人々の彼らを見る目は冷たく、厳しい。
実態もなく、彼らの危機に何の手助けもしなかった"神"と呼ばれる存在と。
絶望の淵にあるエウローンに突如空から舞い降り、彼らを救い、そして今も尚切り立つ連峰より見守ってくれる存在。
彼らの信仰心がどちらに向くのかというのは、あまりに愚かな問いであった。
それどころか、自分たちの救世主とも呼べる存在を侮辱され、彼らは怒りすら覚えていた。
「出ていけよ!」
ふと、エウロニの若者の声が響く。
その場にいる皆の心を代弁したかの様な言葉は、広場にいたエウロニの人々の心に火をつけた。
「そうだ!出ていけ!」
誰のものとも分からぬ言葉はやがて嵐の様な怒号となる。
「人を救わずして何が神だ!」
「俺たちの事は見捨てたくせに!」
「悪魔に怯えて助けにも来なかったのに何を今更!」
民衆の怒りに満ちた怒号に、法衣の男たちは後退る。
その目に映るのは怯え。
国教の司教として人々の尊敬を集めてきた彼は、その光景に見覚えがあった。
かつて異教徒を公開処刑に処した時のものだ、その時は自分が彼らの中心に立っていた。
そして命乞いをする異教徒の家族を、一人一人殺していった。
その行為に自分の正義を信じて。
その時、飛び交う怒号に一つの声が響く。
-殺せ-
誰が叫んだとも分からぬその言葉は、すぐに場を支配した。
騒ぎを聞きつけた騎士団が向かった時には、すでに暴動へと発展していた。
エウローンに起きた悲劇、圧倒的な力の前に、なす術なく家族を失った民衆の不満は、自分たちを救わなかった王国と、そして国教であるノルヴァーナ教へと向いていた。
そしてそれは騎士団とて例外ではなかった。
だからこそ見て見ぬ振りをした。
現状のエウロニに、ノルヴァーナ教の司教が立ち入る事の危険性を理解していなかったわけではない。
エウロニの正門に彼らが現れた時、本来は領主の元まで護衛するべきであった事も。
分かっていて何もしなかったのだ。
担ぎ上げられた司教と神官。
彼らの未来は想像するに易い。
民衆の狂気は、もはや止められない。
膨れ上がった不満は、暴力という形で爆発する。
-しかし
世界が静寂に包まれた。
毎晩の対話を経て、少しは態度が柔らかくなったガロ。
その顔は再び怪訝なものへと変わる。
「ガロ、失礼でしょ」
そんな相方を嗜めるのは、ガロと同じA+ランクの冒険者であるキャロル。しかし、キャロルの表情もまた、良いものではなかった。
「この地に何かご不満でも?アマミ様がお望みでしたら領主に伝え、できる限りご希望を叶えます。」
不安げな顔をするキャロルに、美しい少女は微笑を浮かべて答える。
「そうではない、折角何の縛りもなく世界に降り立ったのだ、色んなものを見てみたいし、食べてみたい」
恐ろしい存在である事を理解している分、意外と素朴な理由を口にした少女に、キャロルとガロは少し驚く。
「アマミ様よ、俺らこれでもかなり上位の冒険者なんだわ、もしよかったら俺らとパーティを組まねえですか?」
相方の不安定な敬語ににがわらいを浮かべつつ、キャロルもまたガロの提案を肯定する。
「確かに、私たちとパーティを組めば冒険者という意味ではかなり便利になるとは思います。都市などに入るときの検問も無視できますし、アマミ様には都合がいいと思います。それに、もしもアマミ様がどこかへ向かうのでしたら、お供をさせていただきたいです。」
理のかなったキャロルの提案に、少し考えたのち、少女は頷く。
「ああ、では君たちに任せよう。まずはエウロニの街を見てみたい、案内してくれ」
「偽りの神を信じるとは何事か!!貴様らに信仰心は無いのか!!」
エウロニの中央広場
大勢の人で賑わう露天の広場は、1人の男の怒号で静まり返っていた。
真っ白な生地に金色の刺繍の入ったローブ、"法衣"と呼ばれる物を纏った5人の男達は、彼らの代表と思われる男の声と同じく、怒りを露わにしていた。
「空から降ってきただと?!山に篭っているだと?!何処の馬の骨とも知れぬ物を、神として信仰するなど!」
立ち止まった街の人々を見渡しながら怒る男の、その目は不安で揺らいでいた。
エウロニの人々の彼らを見る目は冷たく、厳しい。
実態もなく、彼らの危機に何の手助けもしなかった"神"と呼ばれる存在と。
絶望の淵にあるエウローンに突如空から舞い降り、彼らを救い、そして今も尚切り立つ連峰より見守ってくれる存在。
彼らの信仰心がどちらに向くのかというのは、あまりに愚かな問いであった。
それどころか、自分たちの救世主とも呼べる存在を侮辱され、彼らは怒りすら覚えていた。
「出ていけよ!」
ふと、エウロニの若者の声が響く。
その場にいる皆の心を代弁したかの様な言葉は、広場にいたエウロニの人々の心に火をつけた。
「そうだ!出ていけ!」
誰のものとも分からぬ言葉はやがて嵐の様な怒号となる。
「人を救わずして何が神だ!」
「俺たちの事は見捨てたくせに!」
「悪魔に怯えて助けにも来なかったのに何を今更!」
民衆の怒りに満ちた怒号に、法衣の男たちは後退る。
その目に映るのは怯え。
国教の司教として人々の尊敬を集めてきた彼は、その光景に見覚えがあった。
かつて異教徒を公開処刑に処した時のものだ、その時は自分が彼らの中心に立っていた。
そして命乞いをする異教徒の家族を、一人一人殺していった。
その行為に自分の正義を信じて。
その時、飛び交う怒号に一つの声が響く。
-殺せ-
誰が叫んだとも分からぬその言葉は、すぐに場を支配した。
騒ぎを聞きつけた騎士団が向かった時には、すでに暴動へと発展していた。
エウローンに起きた悲劇、圧倒的な力の前に、なす術なく家族を失った民衆の不満は、自分たちを救わなかった王国と、そして国教であるノルヴァーナ教へと向いていた。
そしてそれは騎士団とて例外ではなかった。
だからこそ見て見ぬ振りをした。
現状のエウロニに、ノルヴァーナ教の司教が立ち入る事の危険性を理解していなかったわけではない。
エウロニの正門に彼らが現れた時、本来は領主の元まで護衛するべきであった事も。
分かっていて何もしなかったのだ。
担ぎ上げられた司教と神官。
彼らの未来は想像するに易い。
民衆の狂気は、もはや止められない。
膨れ上がった不満は、暴力という形で爆発する。
-しかし
世界が静寂に包まれた。
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