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第1章
共通歴1456年の特異点
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「楽にして構わん、面を見せよ」
その場で唯一椅子に座る少女があまりにも生意気な言葉を吐く。
しかし、咎めるものは1人もいない。
Aランク冒険者2名を傅かせる少女は、その場にいた全員を一瞬で支配していた。
圧倒的な力の差、生物としての格の違い。
上位者として生きてきた貴族にとって1人の少女に跪くなど嫌がるものが出てくるかと思われたが、その場には躊躇うものなど1人もいなかった。
顔を上げた貴族達ををぐるりと見渡した少女は呟く。
「我が祭壇への供物の献上、実に大義であった」
まるで感謝を感じない言葉、平民に対する貴族、貴族に対する王族。目の前の力関係を当然だと疑わない少女。
「我は冒険者となり、この世界を旅する。目的はいくつかあるが、取り敢えずは娯楽としよう、貴様らの領土に赴くこともあろう、その時は頼むぞ」
失礼極まりない態度の少女だが、意を唱える者は1人もいない。
静かな了解の意思だけがそこにはあった。
「さて、少し堅く話したがここまでだ、リヒトに頼み食事を持たせている、我に聞きたいことも多いだろうて、少しは肩の力を抜くが良い」
「なんと!そのような化け物がいたのですか!」
「ああ、名をたしか、、、玉藻前と呼ばれていたかな、我とてあのような化け物とやり合うのはごめん被る」
若い貴族に囲まれ、話をするアマミ。
年老いた貴族は恐れているのか、遠巻きに。それでもやはり気になるのか、耳だけはアマミに向けられていた。
「タマモノマエ、、、聞いたことのない名であるな、冒険者の2人は知っているか?」
ハルトに問われたガロとキャロルは首を横に振る。
「奴は当分現れんさ、都の陰陽師どもが封印したとか言っておったからな」
「オンミョウジ、、、?」
さらに首を傾げる貴族にアマミは答える。
「貴族に仕える魔術師のようなものさ、強力な陰陽師が複数人で封印に成功したと聞いたが、はて真実は分からぬ。一説では殺された後その姿を呪いの石に変えたという奴もおったが、あの時代に奴を殺せる者など我の知る限りおらぬ、安倍晴明でもいれば違っただろうが」
「アベノセイメイというのは?」
少しでもアマミについて知りたいのか、出て来た人名らしき物に食いつく若い貴族達。
「ふむ、我の知る限り最強の陰陽師よ、我を封じたのが晴明であったらば我とて無事では済まなかったろうな」
「なんと、アマミ様は封印されていたのですか?!」
話を聞いていた貴族が驚き、声を上げる。
その内容に、冷静を装っていた中堅貴族も耳を傾ける。
「ああ、かつて少し暴れすぎてな、まあそれでも我を崇める為に建物を建てたり貢物を用意したりと、なかなか待遇は悪くなかったがな」
そこでふと、ある貴族がその話題に触れる。誰もが最も気になりながらも、誰もが聞くことを恐れていた事に。
「では、アマミ様はなぜ、どうやってここにお越しになったのでしょう、私の見た限り、一筋の閃光となってまさに天より降りられたかの様な物でしたが」
すっと、アマミの目が鋭くなる。
それに合わせて貴族達の緊張感は増す。
静まり返った場に、透き通った声がまた響く。
「さて、我を呼んだのは同族のようでな、我とて多くは知らぬが、恐ろしく悲痛に満ちた叫びであった故、その声に応えたまでよ」
ゴクリと、誰かの喉が声にならない悲鳴をあげる。
それ程までに、アマミの纏う空気は異常だ、まるで親の仇を目の前にしたかの様な殺気に、さらにその場が凍りつく。
それでも貴族の頭領として、ハルトが口を開く。
「その、同族というのは」
ふと、アマミの纏う黒い気配が消えるとともに、言葉を発する。
「龍じゃ」
共通歴1456年の秋、世界に様々な起点が起こった。
ヘリティネリ王国の若き英雄は、裏切りにより命を落とした。
アゼルマウンド帝国では反乱の狼煙が上がる。
アドミアナ王国のとある街は消滅した。
ノルヴァニア神聖国では最高神官が人知れず殺害された。
そして、アザドラニアには龍が降りた。
その場で唯一椅子に座る少女があまりにも生意気な言葉を吐く。
しかし、咎めるものは1人もいない。
Aランク冒険者2名を傅かせる少女は、その場にいた全員を一瞬で支配していた。
圧倒的な力の差、生物としての格の違い。
上位者として生きてきた貴族にとって1人の少女に跪くなど嫌がるものが出てくるかと思われたが、その場には躊躇うものなど1人もいなかった。
顔を上げた貴族達ををぐるりと見渡した少女は呟く。
「我が祭壇への供物の献上、実に大義であった」
まるで感謝を感じない言葉、平民に対する貴族、貴族に対する王族。目の前の力関係を当然だと疑わない少女。
「我は冒険者となり、この世界を旅する。目的はいくつかあるが、取り敢えずは娯楽としよう、貴様らの領土に赴くこともあろう、その時は頼むぞ」
失礼極まりない態度の少女だが、意を唱える者は1人もいない。
静かな了解の意思だけがそこにはあった。
「さて、少し堅く話したがここまでだ、リヒトに頼み食事を持たせている、我に聞きたいことも多いだろうて、少しは肩の力を抜くが良い」
「なんと!そのような化け物がいたのですか!」
「ああ、名をたしか、、、玉藻前と呼ばれていたかな、我とてあのような化け物とやり合うのはごめん被る」
若い貴族に囲まれ、話をするアマミ。
年老いた貴族は恐れているのか、遠巻きに。それでもやはり気になるのか、耳だけはアマミに向けられていた。
「タマモノマエ、、、聞いたことのない名であるな、冒険者の2人は知っているか?」
ハルトに問われたガロとキャロルは首を横に振る。
「奴は当分現れんさ、都の陰陽師どもが封印したとか言っておったからな」
「オンミョウジ、、、?」
さらに首を傾げる貴族にアマミは答える。
「貴族に仕える魔術師のようなものさ、強力な陰陽師が複数人で封印に成功したと聞いたが、はて真実は分からぬ。一説では殺された後その姿を呪いの石に変えたという奴もおったが、あの時代に奴を殺せる者など我の知る限りおらぬ、安倍晴明でもいれば違っただろうが」
「アベノセイメイというのは?」
少しでもアマミについて知りたいのか、出て来た人名らしき物に食いつく若い貴族達。
「ふむ、我の知る限り最強の陰陽師よ、我を封じたのが晴明であったらば我とて無事では済まなかったろうな」
「なんと、アマミ様は封印されていたのですか?!」
話を聞いていた貴族が驚き、声を上げる。
その内容に、冷静を装っていた中堅貴族も耳を傾ける。
「ああ、かつて少し暴れすぎてな、まあそれでも我を崇める為に建物を建てたり貢物を用意したりと、なかなか待遇は悪くなかったがな」
そこでふと、ある貴族がその話題に触れる。誰もが最も気になりながらも、誰もが聞くことを恐れていた事に。
「では、アマミ様はなぜ、どうやってここにお越しになったのでしょう、私の見た限り、一筋の閃光となってまさに天より降りられたかの様な物でしたが」
すっと、アマミの目が鋭くなる。
それに合わせて貴族達の緊張感は増す。
静まり返った場に、透き通った声がまた響く。
「さて、我を呼んだのは同族のようでな、我とて多くは知らぬが、恐ろしく悲痛に満ちた叫びであった故、その声に応えたまでよ」
ゴクリと、誰かの喉が声にならない悲鳴をあげる。
それ程までに、アマミの纏う空気は異常だ、まるで親の仇を目の前にしたかの様な殺気に、さらにその場が凍りつく。
それでも貴族の頭領として、ハルトが口を開く。
「その、同族というのは」
ふと、アマミの纏う黒い気配が消えるとともに、言葉を発する。
「龍じゃ」
共通歴1456年の秋、世界に様々な起点が起こった。
ヘリティネリ王国の若き英雄は、裏切りにより命を落とした。
アゼルマウンド帝国では反乱の狼煙が上がる。
アドミアナ王国のとある街は消滅した。
ノルヴァニア神聖国では最高神官が人知れず殺害された。
そして、アザドラニアには龍が降りた。
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