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○月×日『白状』
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「いつ退院できるんだ?」
椅子に座った篤也さんが林檎の皮をむきながら僕に尋ねる。
「明日です。わざわざお見舞いに来てもらったのに、大したことなくてすみません…」
「頭に包帯巻いてるんだ。大したことだろ」
篤也さんがお皿にウサギを並べて、僕に差し出す。
林檎をウサギにして切ってくれるなんて、なんか可愛い…
「お店は順調ですか?」
「ああ、繁盛してるよ。今日はちょうど定休日だったからな、実家に顔出して、ついでにまことの顔でも見ていくかと連絡とってみたらこんなことになってるんだもんな」
「夜道には気をつけなきゃダメですね…」
「背後から頭殴るやつがおかしいだろ。ヘルメット常備してるわけじゃねーんだし」
「はは、たしかに」
篤也さんが切ってくれたウサギ林檎をかじる。
病院は退屈だったから、訪ねてきてくれて嬉しい。
矢野くんがいないと、部屋には一人で心細かったし…
「……あの、………先輩とは、」
「あれから一度もあってねぇよ」
「…そんな……」
ずっと気になってたことだ。
篤也さんと、山梨先輩。
「まこと、気にすんな。お前は自分のことだけ考えろ。昂平はどうした?」
「学校です。」
「そうじゃなくて、お前らどうなってるんだよ。花村が今更昂平のことでお前に手を出すとも思えんしな」
「……ぁー…、」
僕は肝心なことを忘れてた。
篤也さんは何も知らないんだ。
だって、篤也さんと話したのはあのランチした日が最後。
矢野くんが山梨先輩と別れたことも、知らないのかも…
「あれから、色々あって…」
僕は少しずつ話した。
矢野くんと先輩の交際中に、歩くんと出会ったこと、花村さんと歩くんのこと、僕と歩くんのこと、そして矢野くんと先輩が別れてしまったことも、全部。
僕が恐る恐る篤也さんを見ると、篤也さんは驚くでもなく、喜ぶでもない、落ち着いた表情をしていた。
「…で、歩てやつとは切れたってことでいいのか?」
そう聞かれて、少し戸惑う。
僕自身も微妙に心残りというか、スッキリしていないことだ。
ハッキリと、別れようと言葉にしたわけではない。
別れ話をする前にあんな事が起きてしまって、矢野くんの言う通り浮気も同然だったけど、ほんとにこんな終わり方でいいのか迷ってる。
「…たぶん、」
「たぶん?はぁ……まったく、呑気だな」
「誰が呑気だって?」
病室のドアを開けて入ってきたのは矢野くんだった。
制服姿で、コンビニ袋を持ってる。
「なんでアンタがいるんだよ」
矢野くんは隠すことなく不機嫌だ。
「元カレの見舞いだけど?」
そんな矢野くんに篤也さんが意地悪な返事をする。
「腹立つ男だな」
矢野くんがコンビニ袋を僕に渡す。
中を見ると僕の好きなお菓子がはいってた。
「ありがとう」
お礼を言うと矢野くんの怖い顔が少しだけ和らぐ。
「へぇ、優しいじゃん」
篤也さんが矢野くんを揶揄う。
矢野くんは何も言わずに篤也さんを睨む。
「そう敵意むき出しにするなよ。ただの元カレだって」
「その元カレていうのやめろ。マジで」
「お前だって蘭の元カレだろ」
その言葉に矢野くんが黙る。
そして何か言いたげな顔で僕を見てくる。
僕はゆっくり矢野くんから視線を外す。
「俺が聞いたから話してくれたんだよ。いいだろ、終わった事なんだし」
篤也さんが僕をかばってくれる。
「まことが話してくれたから、俺も白状しようかな」
僕と矢野くんは顔を見合わせてから、篤也さんを見た。
「昂平、言ってただろ。俺がまことと付き合ったのは復讐だろって。あれ、半分くらい当たってた」
篤也さんの言葉に矢野くんが知ってたって顔で頷く。
「まあ、正しくは復讐したかったからまことに近づいた。あいつも、男寝取られてみればいいって、やり返したくてさ。だからあの部屋からも出なかったし、あいつがまだ俺に惚れてんのは分かってたから、あいつが仲良くしてるやつなら誰でも良かったんだよ」
僕と先輩が一緒にいるところは何度か目撃してて、そんな時、矢野くんの部屋で矢野くんに抱かれる僕を見て、僕に目をつけた。
矢野くんに出てこられると面倒だったから、僕を脅して口封じさせた。
すべて済んだら、すぐに開放してくれるつもりだったらしい。
篤也さんは初めから全部話してくれた。
「人に見られながらセックスするなんて、頭悪そうだったし、ビッチなやつだと思ったら、全然違うからさ、手こずったよ……、そう、手こずった。惚れて付き合うことになるなんて思わなかった。」
嘘をついてる顔じゃない。
最初こそ復讐のつもりだったけど、心変わりしたんだ。
「俺はさ、感謝してる。まことと付き合ったから、あいつともう一度向き合うこともできたし、あいつへの愛情を、憎しみだけで終わらせずに済んだ。…昂平も、俺と同じだろ」
そう、矢野くんも変わった。
先輩と付き合って、人間味のある人になった。
「じゃ、俺はそろそろ退散するよ。まこと、またな」
篤也さんが僕の髪を撫でる。
それをすかさず矢野が防ぐ。
「たく、こんなの彼氏にしたら苦労するぞ、まこと」
篤也さんが呆れ顔で言う。
「でもこれが矢野くんだから」
嫌じゃない。
そんな僕に篤也さんはやれやれといった様子で部屋を出て行った。
「矢野くん、お菓子食べよう」
篤也さんが帰って、矢野くんが篤也さんの愚痴を言い始める前にアクションを起こしてみる。
矢野くんは大人しくベッドに腰掛けてくれた。
「どれから食べる?」
珍しく素直な矢野くんに、コンビニ袋の中のお菓子を見せる。
けど、矢野くんはお菓子じゃなく、僕の顔をじっと見つめて、ゆっくり口を開いた。
「話がある。」
すごく真面目な顔で言われて、僕は小さく頷いてた。
椅子に座った篤也さんが林檎の皮をむきながら僕に尋ねる。
「明日です。わざわざお見舞いに来てもらったのに、大したことなくてすみません…」
「頭に包帯巻いてるんだ。大したことだろ」
篤也さんがお皿にウサギを並べて、僕に差し出す。
林檎をウサギにして切ってくれるなんて、なんか可愛い…
「お店は順調ですか?」
「ああ、繁盛してるよ。今日はちょうど定休日だったからな、実家に顔出して、ついでにまことの顔でも見ていくかと連絡とってみたらこんなことになってるんだもんな」
「夜道には気をつけなきゃダメですね…」
「背後から頭殴るやつがおかしいだろ。ヘルメット常備してるわけじゃねーんだし」
「はは、たしかに」
篤也さんが切ってくれたウサギ林檎をかじる。
病院は退屈だったから、訪ねてきてくれて嬉しい。
矢野くんがいないと、部屋には一人で心細かったし…
「……あの、………先輩とは、」
「あれから一度もあってねぇよ」
「…そんな……」
ずっと気になってたことだ。
篤也さんと、山梨先輩。
「まこと、気にすんな。お前は自分のことだけ考えろ。昂平はどうした?」
「学校です。」
「そうじゃなくて、お前らどうなってるんだよ。花村が今更昂平のことでお前に手を出すとも思えんしな」
「……ぁー…、」
僕は肝心なことを忘れてた。
篤也さんは何も知らないんだ。
だって、篤也さんと話したのはあのランチした日が最後。
矢野くんが山梨先輩と別れたことも、知らないのかも…
「あれから、色々あって…」
僕は少しずつ話した。
矢野くんと先輩の交際中に、歩くんと出会ったこと、花村さんと歩くんのこと、僕と歩くんのこと、そして矢野くんと先輩が別れてしまったことも、全部。
僕が恐る恐る篤也さんを見ると、篤也さんは驚くでもなく、喜ぶでもない、落ち着いた表情をしていた。
「…で、歩てやつとは切れたってことでいいのか?」
そう聞かれて、少し戸惑う。
僕自身も微妙に心残りというか、スッキリしていないことだ。
ハッキリと、別れようと言葉にしたわけではない。
別れ話をする前にあんな事が起きてしまって、矢野くんの言う通り浮気も同然だったけど、ほんとにこんな終わり方でいいのか迷ってる。
「…たぶん、」
「たぶん?はぁ……まったく、呑気だな」
「誰が呑気だって?」
病室のドアを開けて入ってきたのは矢野くんだった。
制服姿で、コンビニ袋を持ってる。
「なんでアンタがいるんだよ」
矢野くんは隠すことなく不機嫌だ。
「元カレの見舞いだけど?」
そんな矢野くんに篤也さんが意地悪な返事をする。
「腹立つ男だな」
矢野くんがコンビニ袋を僕に渡す。
中を見ると僕の好きなお菓子がはいってた。
「ありがとう」
お礼を言うと矢野くんの怖い顔が少しだけ和らぐ。
「へぇ、優しいじゃん」
篤也さんが矢野くんを揶揄う。
矢野くんは何も言わずに篤也さんを睨む。
「そう敵意むき出しにするなよ。ただの元カレだって」
「その元カレていうのやめろ。マジで」
「お前だって蘭の元カレだろ」
その言葉に矢野くんが黙る。
そして何か言いたげな顔で僕を見てくる。
僕はゆっくり矢野くんから視線を外す。
「俺が聞いたから話してくれたんだよ。いいだろ、終わった事なんだし」
篤也さんが僕をかばってくれる。
「まことが話してくれたから、俺も白状しようかな」
僕と矢野くんは顔を見合わせてから、篤也さんを見た。
「昂平、言ってただろ。俺がまことと付き合ったのは復讐だろって。あれ、半分くらい当たってた」
篤也さんの言葉に矢野くんが知ってたって顔で頷く。
「まあ、正しくは復讐したかったからまことに近づいた。あいつも、男寝取られてみればいいって、やり返したくてさ。だからあの部屋からも出なかったし、あいつがまだ俺に惚れてんのは分かってたから、あいつが仲良くしてるやつなら誰でも良かったんだよ」
僕と先輩が一緒にいるところは何度か目撃してて、そんな時、矢野くんの部屋で矢野くんに抱かれる僕を見て、僕に目をつけた。
矢野くんに出てこられると面倒だったから、僕を脅して口封じさせた。
すべて済んだら、すぐに開放してくれるつもりだったらしい。
篤也さんは初めから全部話してくれた。
「人に見られながらセックスするなんて、頭悪そうだったし、ビッチなやつだと思ったら、全然違うからさ、手こずったよ……、そう、手こずった。惚れて付き合うことになるなんて思わなかった。」
嘘をついてる顔じゃない。
最初こそ復讐のつもりだったけど、心変わりしたんだ。
「俺はさ、感謝してる。まことと付き合ったから、あいつともう一度向き合うこともできたし、あいつへの愛情を、憎しみだけで終わらせずに済んだ。…昂平も、俺と同じだろ」
そう、矢野くんも変わった。
先輩と付き合って、人間味のある人になった。
「じゃ、俺はそろそろ退散するよ。まこと、またな」
篤也さんが僕の髪を撫でる。
それをすかさず矢野が防ぐ。
「たく、こんなの彼氏にしたら苦労するぞ、まこと」
篤也さんが呆れ顔で言う。
「でもこれが矢野くんだから」
嫌じゃない。
そんな僕に篤也さんはやれやれといった様子で部屋を出て行った。
「矢野くん、お菓子食べよう」
篤也さんが帰って、矢野くんが篤也さんの愚痴を言い始める前にアクションを起こしてみる。
矢野くんは大人しくベッドに腰掛けてくれた。
「どれから食べる?」
珍しく素直な矢野くんに、コンビニ袋の中のお菓子を見せる。
けど、矢野くんはお菓子じゃなく、僕の顔をじっと見つめて、ゆっくり口を開いた。
「話がある。」
すごく真面目な顔で言われて、僕は小さく頷いてた。
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