ヤノユズ

Ash.

文字の大きさ
上 下
128 / 197

○月×日『左手』

しおりを挟む
眼が覚めると、真っ白な場所にいた。

薬品の匂い。
……病院だ。

左手に温かい感触。
柔らかい枕から顔をずらして左手を見る。

僕の左手を、矢野くんが握ってくれていた。
矢野くんは椅子に腰かけたままベッドの、ちょうど僕のお腹の辺りに頭を乗せて眠ってる。

いつからこうしてくれてたんだろう。

そういえば、頭の痛みを感じない。
でも頭に変な違和感がある。
どうやら包帯が巻いてあるみたいだ。

目を閉じる前、矢野くんに抱かれてた。
矢野くんが病院に連れてきてくれたんだろうか。

「やあ、目が覚めたみたいだね」

病室に笹川先生が入ってくる。

「はい、あの…」

「彼が君を抱えて病院に駆け込んできてね。処置して、ベッドに寝かしてからはずっとつきっきりだったよ」

笹川先生が眠る矢野くんにタオルケットをかける。

ずっと、こうして手を握ってくれてたんだ。
胸の、真ん中の辺りがあったかい。

矢野くん……

「最初はどうなることかと思ったけど、彼はほんとの王子様になったのかな?」

笹川先生は悪戯っぽい顔をして僕を見た。

「…だと、いいですけど」

先生は、僕がレイプされたのを知ってる。
矢野くんに無理矢理抱かれて病院に来た僕を治療してくれた先生だ。

「まぁ、今の彼は大丈夫だと思うけどね」

笹川先生は僕の頭に手で触れると、うん、と頷く。

「痛み止めを打ったからね、痛くないだろう?傷も残らないよ、大きなたんこぶはできてるけどね。それもすぐ治るからね」

先生は治療を終えると部屋を出て行った。

「ありがとうございました。」

また部屋に矢野くんと二人きりになる。
静かな部屋に矢野くんの寝息。
僕の左手に矢野くんの右手。
大っきくて、あったかい。

あの頃はよく、手を繋いでたよね。
手の大きさは同じくらいだったけど。
僕らこんなに大きくなった。
それだけ長い間一緒にいたんだ。

「………こうへいくん、」

矢野くんの寝顔を見ながら、僕も目を閉じた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

聖女召喚に巻き添え異世界転移~だれもかれもが納得すると思うなよっ!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,519pt お気に入り:846

転生先で奴隷を買ったら溺愛された

BL / 完結 24h.ポイント:220pt お気に入り:1,605

ずっと、君しか好きじゃない

BL / 連載中 24h.ポイント:20,617pt お気に入り:584

最強S級冒険者が俺にだけ過保護すぎる!

BL / 連載中 24h.ポイント:7,518pt お気に入り:890

鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,073pt お気に入り:159

異世界のんびり散歩旅

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:2,301pt お気に入り:745

能力1のテイマー、加護を三つも授かっていました。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:11,006pt お気に入り:2,217

最愛の推しを殺すモブに転生したので、全力で救いたい!

BL / 完結 24h.ポイント:5,510pt お気に入り:2,131

処理中です...