148 / 205
○月×日『目撃者②』
しおりを挟むワンルームに笑い声が響く。
声の主は花村さんだ。
「あの……」
そんなに笑える内容だったんだろうか?
そんなはずはないと思うけど……。
僕は花村さんの部屋で、花村さんに正直に話すことにした。
本当は将平くんに相談したかったけど、花村さんはそんな隙はくれなかったし、事情を話さないなら矢野くんに話されてしまう。
「あの……花村さん?」
「いやいや、マジで笑えるよ、きみ」
花村さんはやっと笑いを収めると、一息ついてから僕を見る。
「きみのこと見直した」
「え、」
「昂平に一泡吹かせたいってさ、俺も思ってたんだよねぇ」
え、なんで花村さんが……?
花村さんは矢野くんを脅して好き勝手してたわけだから、いい思いしかしてないんじゃ……?
「きみってわかりやすいよねぇ。失礼なこと考えてるでしょ。俺に対する昂平の態度、普通にムカつくじゃん。あっちだってそれなりに楽しんだくせにさぁ。」
被害者の僕からしたらその言い分は全く理解できないけど、下手な事言って機嫌を損なってもらっては困るから、黙っておく。
「で、昂平の兄貴はどうなの?」
「……どうって…」
「セックス上手いの?」
「……、」
なんで僕花村さんとこんな話してるんだろ。
花村さんも、将平くんとのセックスが良かったかどうか聞いてどうしたいんだろ。
……まさかとは思うけど、黙ってる代わりに自分にまわせなんてこと……。
そんなことを考えていると、花村さんはまた僕の考えを読み取ったみたいだった。
「……きみってマジで失礼すぎ。俺が昂平の兄貴とヤるわけないじゃん。俺にはあゆっていう彼氏がいるんだし」
「え、彼氏?」
今、彼氏って言った。
「付き合うことになったんですねっ」
歩くんは明らかに花村さんに好意があったけど、体だけの関係に不満があった。
付き合うことになったのなら、歩くんにとっていい出来事だ。
僕にとっても嬉しい出来事だ。
「……きみさ、あゆのこと好きだったんじゃなかったっけ?なんでそんな嬉しそうな顔ができるの」
花村さんが心底不思議って顔で見てくる。
「え、なんでっていわれても……」
そんな顔て、素直に嬉しいからだと思うんだけど。
「歩くんが花村さんを好きなのはなんとなく知ってたから……、花村さんも歩くんを好きで、付き合うことになったなら、良かったなって」
「…………きみって、いい子だね」
花村さんが大きな瞳をまんまるくして、ポツリと呟いた。
それはからかいとか、馬鹿にした言葉じゃなくて、素直な気持ちが溢れ出た、という感じだった。
「あ、ありがとうございます。」
とりあえず褒められた?ぽいので、お礼を言っておく。
「ぁ、僕今は歩くんのことは何とも……、だから、気にしないでください」
「そこは別に気にしてないけど。」
「ぁ、そうですか、すみません……」
余計なお世話だったか……。
でも、あの頃のことはほんとに、いい思い出というか、歩くんに恋してた気持ちだけ大事に取っておきたいというか……。
花村さんに色々されたことは正直、忘れたいけど。
「話戻すけど。きみの浮気相手取ったりしないからさ、むしろ協力する。もっと色々教えてよ」
なんか、恋バナしよって言われてるみたいだ。
花村さんは矢野くんにバラす気はないようだし、いいのかな……。
「えっと、将平くんは、最初は怖かったけど、今は凄く優しくて……それは将平くんにも目的があるって解ってるけど、そう感じさせないくらいに優しくて、」
「優しいのはわかったよ。エッチは?エッチも優しいの?」
「…ぇ…ん、凄く……、…凄く気持ちよくて」
「へぇ、優しくてエッチ上手いとか最高じゃん。いい浮気相手だねぇ。昂平てテク無しだからねぇ」
「え、花村さんでも気にするんですか、そういうの」
「ちょっと、馬鹿にしないでよ。数こなせばいいってもんでもないよ。質がいいに越したことないっしょ。昂平は乱暴だし相手のこと気遣うタイプじゃないじゃん。まぁ、俺に対してだけかと思ったけどさ、君に対してもなんだ?恋人に対してもそれってさ、セックスじゃないよ。オナニーっしょ」
「……、」
そっか。
そうだよね。
わかってたことだけど、今しっくりきたかも。
オナニーか。
なるほど……。
だから、虚しさがあったんだ。
「……ありがとうございます、」
「え?」
「自分でも解ってたんです、でも……花村さんに言葉にしてもらって、スッキリしたっていうか……」
「……まぁ、しんどいよね。好きだと余計にね」
「はい……」
矢野くんが好きだ。
だから辛い。
「なんかさ、今のきみとなら仲良くできそうかも。」
「え」
「どう?愚痴りたくなったら聞いてあげてもいいよ?俺と仲良くしといて損は無いっしょ?」
綺麗な顔がニヤリと笑う。
いたずらっぽいそれは、企んでると言うよりは、素直に楽しんでるって感じだ。
「友達てことですか?」
「友達!うわ、友達とかいないからわかんないっ」
ケラケラと花村さんが笑う。
「恋バナできる友達ていいかも。」
いたずらっぽい顔が、少し照れくさそうにする。
花村さんと友達。
考えたこともなかった。
でも、面白いかもしれない。
ほんとに友達になれたら、いいよね。
「じゃあ、よろしくお願いします……友達、」
「ウケるけどね、ぼくときみが友達とかさ。ま、よろしく」
軽く握手を交わす。
「ぁ、もう闇討ちしたり、乱交とかは無しで……」
過去の嫌な出来事を口にすると、花村さんが気まずそうな顔をする。
「友達にそんなことしませーん」
口をとんがらせながら花村さんが呟く。
「約束ですよ。花村…………茜さん、」
少し控えめに名前を呼んでみる。
「約束ね。まことくん」
うわ、なんか、友達っぽい……。
油断はしない方がいいのはわかってる。
けど、これは嬉しい展開だと思う。
友達が出来てしまった。
1
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
どうせ全部、知ってるくせに。
楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】
親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。
飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。
※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。
心からの愛してる
マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。
全寮制男子校
嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります
※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください
握るのはおにぎりだけじゃない
箱月 透
BL
完結済みです。
芝崎康介は大学の入学試験のとき、落とした参考書を拾ってくれた男子生徒に一目惚れをした。想いを募らせつつ迎えた春休み、新居となるアパートに引っ越した康介が隣人を訪ねると、そこにいたのは一目惚れした彼だった。
彼こと高倉涼は「仲良くしてくれる?」と康介に言う。けれど涼はどこか訳アリな雰囲気で……。
少しずつ距離が縮まるたび、ふわりと膨れていく想い。こんなに知りたいと思うのは、近づきたいと思うのは、全部ぜんぶ────。
もどかしくてあたたかい、純粋な愛の物語。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる