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○月×日『山梨先輩と僕と…』
しおりを挟む山梨先輩の部屋は、前に来た時よりものが増えていたけど、綺麗に片付けられてた。
あの後、歩くんとはわかれて、今は先輩の部屋にお邪魔している。
偶然にも話を聞かれてしまった。
だから、先輩とも話をしなければいけない。
「……さっきの子、前に言ってた後輩の子だよね」
「ぁ、はい……」
かなり前に先輩には歩くんのことで相談したことがあった。
あの後すぐに矢野くんと先輩は別れてしまったんだっけ……。
「さっきの子も、不思議がってたけど…。柚野ちゃんが浮気だなんて、本気でいってるの?」
……僕を心配してくれる人達は、僕のことをどれだけ純粋な人間に見ているんだろう。
僕にだって、ドロドロした気持ちくらいある。
歩くんを好きな頃、花村さんに対しても醜い感情があったし、矢野くんが先輩と付き合ってた頃だって、100パーセントの気持ちで応援できなかった……と思う。
「……本気です。」
僕が真っ直ぐに先輩を見ると、先輩は表情を歪めた。
「……せっかく昂平と恋人になれたのに、なんで……、なんでそんな形で昂平を試すようなことするんだ……っ」
どこか、取り乱したような雰囲気を見せながら、先輩が僕に訴えかける。
先輩のあまりの悲痛な表情に、僕の良心も痛まずにはいられなかった。
……どうして先輩がそんな苦しそうな顔をするんだろう。
先輩は矢野くんとも別れてるし、僕だってただの後輩だし、一時期は先輩の好きな人と付き合ってた男だ。
なのにどうしてそんなに親身になれるんだろう。
「矢野くんと同じやり方じゃなきゃ……、」
「昂平は、柚野ちゃんの恋人でしょ?恋人になる前に昂平が柚野ちゃんにしてきたことは確かに酷いことばかりだったけど、なんで柚野ちゃんは今更そんなことするの。気に入らないんだったら、付き合う前に清算しとくべきだろ?」
……先輩の言い分は、わかる。
でも、あのころの僕はそれでいいと思ってたんだ。
将平くんがあらわれるまで、矢野くんを裏切って傷つけようなんて考えなかった。
どうして今こんなことをしているかって、それは将平くんに言われた言葉をすんなり肯定できてしまったからだ。
先輩と別れて、寂しくなったから、人肌が恋しくなって僕のとこに帰ってきた矢野くん。
そんな矢野くんを受け入れてしまった僕。
今まで辛かったことを言葉で謝られても、ゆるせなくなってしまってるのに。
この関係は全部矢野くんのペースに僕が付け足されただけ。
矢野くんのオマケ。
それがこれからも続くなんて、僕は恋人なのに、たまらない気持ちになる。
僕の中にあったもやもやが、爆発する前に、矢野くんにも痛みを知ってもらいたかった。
僕ならいつでも手に入ると思われたくなかった。
好きになった人が、先輩とダメになったから僕ならと思って欲しくなかった。
ゆずが好きだから、だから恋人にしたいって心から想って欲しかった。
だから将平くんの言葉に傾いてしまった。
先輩は恋人になる前に清算しておくべきと言ったけど、きっと今だからこそ試せることだと思う。
恋人であるかそうでないかでは話が変わってくる。
恋人から裏切られたほうがダメージも大きいにきまってるからだ。
「……昂平と別れてから、昂平が君を気になってるみたいだったから、2人は上手くいくと思ってたのに……」
先輩が項垂れるように俯く。
今、わかった気がする。
やっぱり、先輩が矢野くんと別れたのは僕のため……僕のせいだったんだ。
僕が矢野くんを好きでいられるように、矢野くんと別れたんだ。
先輩と別れたら矢野くんが僕に甘えてくるのはわかってたんだろう。
先輩は、矢野くんに僕と"今まで通りすごす"ように言っていたようだし、……一体いつから考えていたんだろう。
いや、最初からいつでも矢野くんを手放せるようにしていたのかもしれない。
「ごめんね、僕にこんなこと言う資格ないよね。僕は柚野ちゃんが昂平のこと好きだと知っていて付き合ったし、それなのに昂平をふった…」
先輩はいわないんだろうな。
僕のために矢野くんと別れた、なんて。
それなのに、こんなずるいことをしてる僕に謝罪するなんて……。
先輩はあのまま矢野くんと上手く付き合っていけたかもしれないのに……。
「でも柚野ちゃんのその賭け、勝たなかったら後悔するよ。」
「え?」
「恋人が浮気したら、許したりしないよ……、知ってるでしょ?」
知ってる……?
……そうだ、篤也さんは、先輩を遠ざけた。
先輩が親友と浮気したのを見て、遠ざけて、先輩にも同じ気持ちを味あわせたいと僕に近づいたんだ。
先輩が気持ち的に浮気はしていないと知って、2人は1度はやり直したけど、上手くは行かなかった……。
けど、僕は、先輩とは違う。
自分から望んで浮気してる。
だったら、先輩が言うように、後悔することになる可能性が高い。
けど、その価値はある思ってる。
だから覚悟して行動してる。
ただトドメを刺す時は自分でやりたいだけ。
茜さんや、歩くんや、山梨先輩に邪魔されたくない。
「……考え無しにやってるんじゃないです。……矢野くんと、付き合っていくために、必要なんです……」
こんな言い分、きっと誰にもわからない。
けど、矢野くんがわかってくれたら、僕たち、ずっと一緒にいられると思う。
先輩の言う通り、賭けだ。
ただこの賭けの意味は、僕にしかわからない。
だから、価値があるんだ。
先輩はやっぱり理解ができないって顔をした。
分からなくていい。
矢野くんだけがわかってくれればいい事だから。
矢野くんが解ってくれなかったら、僕たちは本当に終わるんだと思う。
でも、それでいい。
僕たちの関係が、それまでだったってことだからだ。
「矢野くんには、僕がちゃんと話します。先輩は、何もしないでください。」
僕は、それだけ言うと部屋を出た。
先輩は、本当に、僕たちのために、矢野くんと別れたのかな。
……矢野くんが先輩を幸せにすることだって出来たのに。
でも、矢野くんが先輩を好きでも、先輩は篤也さんが好きだったから、先輩は幸せにはなれない。
……矢野くんと付き合ったのは?
幸せになりたかったからじゃないの……?
…………僕らのためじゃない、自分のためなんだ。
矢野くんとそうなろうとしたけど、できなかったから、僕と矢野くんに自分が得られなかったものを期待したんだ。
先輩は、篤也さんとやり直すことができたのに、行動できなかった。
篤也さん以外の人に抱かれたせいで、自分を汚れ物のように感じ、そんな自分が篤也さんに触れることを躊躇ってた。
篤也さんも先輩と同じだったのかもしれない。
先輩に触れなかったのは、嫌悪からじゃない。
大切だったからだ。
それだけ2人はお互いを大切な存在に思ってた。
……僕と矢野くんだって、そうだ。
矢野くんは山梨先輩だけじゃない、茜さんとも、女の子とだって、他にも矢野くんと関係したことある人は沢山いる。
なのに僕が矢野くん以外のたった1人、篤也さんと関係した時は汚された玩具には触りたくもないって感じで嫌悪してきた。
矢野くんがワガママで自分勝手な自己中だってことは、小さい頃から分かってた。
散々僕を振り回してきて、好き勝手やって、自分のエゴで僕を犯したくせにあっさり山梨先輩に落ちて、だったら僕もやってやる。
今までは度胸がなかっただけで、今は将平くんという協力者がいる。
そうして僕に裏切られても、矢野くんはそれでも僕のとこに帰ってきてくれる。
ぼくがそうしたように、矢野くんも。
それが、僕を恋人として好きってことだから。
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