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◯月×日『冷えた心臓』
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昼休み、お弁当を持って矢野くんと中庭へ向かう途中のこと。
「あ」
前方に、山梨先輩を見つけて思わず立ち止まった。
先日の、篤也さんの部屋の前でのことがずっと気になっていた。
先輩の言った言葉の意味がわからなくて、そのことを聞きたいけど、今はそうもいかなかった。
僕の隣には矢野くんがいる。
急に立ち止まった僕を怪訝そうに見下ろしてる。
どうしたものかとオロオロしていると、山梨先輩が僕等に気づいて足を止めた。
「また出し巻き卵つくってもらったの?」
先輩がからかうように矢野くんに視線を送ると、矢野くんはあからさまに嫌な顔をした。
「いいなぁ、手作り弁当」
先輩の視線が僕が胸に抱いた弁当箱に注がれる。
「…先輩は、一人ですか?」
少し視線を彷徨わせてから先輩に尋ねると、先輩は大きく頷いて微笑んだ。
「そうなの。僕も柚野ちゃんみたいにラブラブな恋人が欲しいよ」
「っ、え…っ?」
「は?」
先輩の言葉に驚いたのは僕だけじゃなかったみたいで、矢野くんまでもが呆気に取られた顔をしていた。
先輩には矢野くんにつけられた痕を見られてるし、僕に恋人がいると勘違いされてもおかしくないけど、まさか矢野くんがその相手だと思っているんだろうか。
「あの、先輩…」
僕は湯気でも出そうなくらい真っ赤な顔を俯かせながら先輩の誤解を解こうとしどろもどろになりながら口を開く。
「…友達とは、程々にね」
先輩は僕の耳に吹き込むように囁くと、僕等に背を向けて歩いて行った。
僕の上昇していた体温が急降下して、背筋が震えた。
違う。
矢野くんじゃない。
山梨先輩は、篤也さんのことを言ったんだ。
そして、釘を指した。
「相変わらず、変な人だな」
矢野くんが去って行く山梨先輩の背を振り返りながら呟く。
「…うん」
胸に抱いた弁当箱をきつく抱きしめながら、冷えた心臓がバクバクと音を立ててるのをリアルに感じた。
先輩は知ってる。
「あ」
前方に、山梨先輩を見つけて思わず立ち止まった。
先日の、篤也さんの部屋の前でのことがずっと気になっていた。
先輩の言った言葉の意味がわからなくて、そのことを聞きたいけど、今はそうもいかなかった。
僕の隣には矢野くんがいる。
急に立ち止まった僕を怪訝そうに見下ろしてる。
どうしたものかとオロオロしていると、山梨先輩が僕等に気づいて足を止めた。
「また出し巻き卵つくってもらったの?」
先輩がからかうように矢野くんに視線を送ると、矢野くんはあからさまに嫌な顔をした。
「いいなぁ、手作り弁当」
先輩の視線が僕が胸に抱いた弁当箱に注がれる。
「…先輩は、一人ですか?」
少し視線を彷徨わせてから先輩に尋ねると、先輩は大きく頷いて微笑んだ。
「そうなの。僕も柚野ちゃんみたいにラブラブな恋人が欲しいよ」
「っ、え…っ?」
「は?」
先輩の言葉に驚いたのは僕だけじゃなかったみたいで、矢野くんまでもが呆気に取られた顔をしていた。
先輩には矢野くんにつけられた痕を見られてるし、僕に恋人がいると勘違いされてもおかしくないけど、まさか矢野くんがその相手だと思っているんだろうか。
「あの、先輩…」
僕は湯気でも出そうなくらい真っ赤な顔を俯かせながら先輩の誤解を解こうとしどろもどろになりながら口を開く。
「…友達とは、程々にね」
先輩は僕の耳に吹き込むように囁くと、僕等に背を向けて歩いて行った。
僕の上昇していた体温が急降下して、背筋が震えた。
違う。
矢野くんじゃない。
山梨先輩は、篤也さんのことを言ったんだ。
そして、釘を指した。
「相変わらず、変な人だな」
矢野くんが去って行く山梨先輩の背を振り返りながら呟く。
「…うん」
胸に抱いた弁当箱をきつく抱きしめながら、冷えた心臓がバクバクと音を立ててるのをリアルに感じた。
先輩は知ってる。
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