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○月×日『大歓迎』
しおりを挟む教室で昼食中。
矢野くんは明らかに不機嫌だ。
……原因は分かってる。
僕が矢野くんに告白できてない状態で、矢野くんと触れ合うことに抵抗を感じ始めたからだ。
今までは逆だった。
矢野くんと付き合いながら将平くんと触れ合うことで満たされてた。
溜めて溜めて、ここぞって時に暴露してやるんだって思ってたから矢野くんとも体を重ねてた。
けど、今は違う。
罪悪感がある。
将平くんとの関係が終わったからこそ、感じ始めたものだ。
だから将平くんと終わってから、矢野くんとは1度もしてない。
今の矢野くんは、僕が嫌だと言ったら本気で手を出してこない。
だから体調が悪いとか、家の用事があるとか、毎回理由を考えて避けてきた。
けど、2週間が限界だ。
矢野くんは見事に欲求不満が見て取れる。
最初の1.2回は矢野くんも素直にうなづいてくれてたけど、それ以降は流石に避けてると分かったみたいだったし、こんな態度になってしまうのは仕方ない。
全部僕のせいだ。
「……昂平くん、お弁当…」
矢野くんの御機嫌を少しでもマシにしたくて、矢野くんの好物を詰め込んだお弁当を机に並べる。
けど、矢野くんは特に表情は変えずに「いただきます」と言ってお弁当を食べ始める。
「…………恋人ぽいことって、沢山あるよ……?」
恋人になる前から体は重ねてた。
先日矢野くんが恋人ぽいことしたいって言ってくれて嬉しかった。
勝手だし、矛盾してるのは分かってるけど、セックスだけが恋人じゃないと思う。
「わかってる。だから回数減るとか、そういうのは分かる。けど、避けるのはわかんねぇ」
……ごもっともだ。
僕の言い分は、避けてる理由にはならない。
「……避けて、無い……よ?」
明らかに目は泳いだし、しどろもどろな言い方になった。
そんな僕を矢野くんは呆れたような目で見てくる。
「へー?じゃあなんだよ」
「ぅ、えっと……」
また何か適当な言い訳を考える。
これが矢野くんの機嫌を損ねてるのに…。
「ぁ、家だと……家族いるし。ね?」
すごく最もらしい理由がでた気がする。
まぁ、実際は家に人がいても致したことはあるんだけど。
「へー、家族ね。」
「うん、僕の家も、昂平くんちも。ね?」
同意を得たいのに、矢野くんは首を縦には振ってくれない。
「じゃ、ホテル行こ」
「えっ」
そう来るとは思わず、間抜けな声が出てしまう。
「えっ、てなんだよ。」
明らかに照れて回答に困った感じの「えっ」では無いことに矢野くんの眉間にシワがよる。
「マジで何なわけ。今まで何だかんだ拒否ってもこんな避け方なかっただろ」
確かに。
おもちゃにされるのが嫌で、嫌嫌しても、結局受け入れてた。
「俺は、セックスできないから不機嫌なんじゃねえぞ。ゆずが避けてる理由が分からないから不安なんだ。」
……不安、
「俺としたくないのか?」
「そ、そんなことない……」
したいよ。
「俺のこと好きか?」
「……うん、」
大好きだよ。
「じゃあ、なんで避けるんだよ」
矢野くんの蒼い瞳が僕を真っ直ぐに射抜く。
僕の大好きな瞳。
「………………ふ、」
「ふ?」
「……太って、」
「ん?」
「太っちゃった、から……デートとかで、美味しいもの沢山食べて…」
これは、真実じゃないけど、全くの嘘でもない。
避けてる本当の理由じゃないけど、実際恋人になってデートが増えた。
その分出かけた先や学校帰りの買い食いも増えた。
少しだけ太ったのは嘘じゃない。
「そんなことかよ……」
矢野くんが肩を落として項垂れる。
真実味のある理由だったからか、矢野くんは僕の話を信じてくれたようだ。
「ゆずは細すぎるくらいなんだから、ちょっとくらい太ったがなんだよ。……はぁ、」
矢野くんの呆れ声に、安堵のため息がまじる。
「でも、僕チビだし、太ったらかっこ悪い……」
「かっこ悪くねぇよ。」
矢野くんが顔を上げて僕を見る。
「幸せ太りってやつなら大歓迎だし」
蒼い瞳が細められて、矢野くんが微笑む。
「てことで、そんな理由なら容赦しねぇから」
天使みたいに優しく微笑んでたのに、急に悪戯っぽい顔をする。
けどこっちの顔の方が、矢野くんには似合ってるかもしれない。
矢野くんの機嫌は治ったけど、僕の罪悪感はつのる方向で固まってしまった。
放課後矢野くんにどうされてしまうのか、胸が苦しかった。
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