ヤノユズ

Ash.

文字の大きさ
169 / 205

○月×日『3人会議』

しおりを挟む
将平くんの部屋に3人。
矢野くんは珍しく茶化すことなく真剣に将平くんの話を最後まで聞いてた。
そして矢野くんから出た第一声が意外な言葉だった。

「ごめん、兄貴」

そう言った矢野くんを、僕も、将平くんも驚いて凝視してしまった。

「…兄貴が、ゆずにキスした事とか腹立ってたから、面倒なことになって、困れば面白いと思って一志に連絡先教えたからさ、俺…」

実はそうじゃないかとは思ってた。
いくら将平くんの同級生だからって、矢野くんにしては親切すぎる対応だったと思ったんだ。
絶対面倒くさがる案件なのに、あっさり連絡先をリークしたから、なにか企んでそうだとは思わなくもなかった。

「それは、もういいよ。お前にはスマホは無くしたって言ったけど、本当はわざと壊したんだ。…壊したのは衝動的だったけど、あいつとはもう連絡はつかないし、問題ないよ。……けどな、」

そこで将平くんが言い淀む。
唇に指を当てて、少しだけ考える素振りをとる。
そしてゆっくりと僕らを見た。

「……昂平、お前さ、俺がまことにキスしたこと、一志に言ったか?」

「え、俺が?」

将平くんの問いかけに今度は矢野くんが考える素振りをとる。
僕も、初めて柳さんと会った時を思い出してみる。
確か、矢野くんを将平くんと間違えて声をかけてきて、高校卒業してから連絡がとれない、将平くんは元気かと聞かれて、喧嘩中だから知らないと矢野くんが答えた。
……そうだ。
兄弟喧嘩の内容が、将平くんが僕にちょっかいを出したからだと矢野くんは言った……

「……あ、……言ったかも。兄貴は元気かって聞かれて、喧嘩中で顔みてないから知らねぇて答えた。兄弟喧嘩かって聞かれて、兄貴がゆずにちょっかいだしたから、て言った」

僕が思い出していた内容を、矢野くんも思い返すように将平くんに話す。
それを聞いた将平くんの表情が曇る。

「……何か問題あるのかよ」

将平くんの表情から何か嫌な予感を感じ取ったのは、矢野くんも同じだったようで、矢野くんは恐る恐るといった感じで将平くんに疑問をぶつける。

「俺がまことに惚れてるんじゃないかって言ってきたんだよ」

「はあ?」

矢野くんが身を乗り出す。

「俺が別れ話をしたのは一方的なことで、自分は了承してないから、俺がまことにキスしたのは浮気だって。まさか惚れてないだろうなって、そう言いに来たんだよ、あいつ」

…………信じられない。

そんな勝手な言い分あるんだろうか。
驚いたとか、そんな次元じゃない……

自分は学生時代に女の人と浮気したのに、将平くんにそんな事を言ったのかと思うと呆れるしかなかった。

これは僕の心の中だけに留めておきたいけど…………そんな、矢野くん以上に傲慢な考え方する人がいるだなんて、ほんとに矢野くんはまだ可愛い方なんじゃないかと思えてくる…。

「クズだろ」

矢野くんが身を乗り出したまま、渋い顔で一言。
正直僕もそう思う……。

「家はお前らを尾行して突き止めたらしいぞ。」

「はぁ?」

「えっ」

矢野くんがさらに身を乗り出す。
思わず僕も身を乗り出す。

「制服で学校知って、学校から張ってたって言ってたぞ」

「マジかよ」

「……全然気づかなかった……」

まさか自分たちが将平くんの天敵を、将平くんの元まで導いてしまってたなんて……。

「ごめんなさい…」

「まことが謝ることじゃないよ。何も知らなかったんだし。あいつが異常なんだよ」

たしかに、異常だ。

「え、じゃあなんだ。一志のやつ、10年も兄貴のことずっと待ってたってことか?」

矢野くんの言葉に、将平くんの瞳が揺らぐ。

……確かに、10年も前に"別れる"と言って去った恋人の前に、わざわざそんなことを言いに現れるだなんて、良い見方をしたら……一途に将平くんを探して、手掛かりを見つけたから会いに来た……となるんだろうか。

「……待つって、あいつが1番出来ない事だろ」

将平くんのブルーの瞳が揺らいだのは一瞬で、今は冷めた冷たい色をしてる。

そうだよね、たった5日が待てなかったんだから……

「それに、今更浮気だなんだって言われたって、俺あっちで女性と交際してたし」

あっちとはフランスのことだろう。

「へー、兄貴てゲイてわけじゃねぇんだ?」

矢野くんのこういうすごく繊細なとこに突っ込んでいくのが凄く怖い反面、尊敬する。

「違うよ。あいつがイレギュラーだっただけ。そういうお前はどうなんだ」

「俺?俺はほぼ女。男は3人。初めてはゆずと……」

「へぇ、まことが初めてなのか」

将平くんが意外そうに、でも楽しそうに微笑む。

「あとの2人は?1人は知ってるよ、山梨くんだっけ?」

「あっ、ゆずっ、はなしたのかっ?」

矢野くんが恥ずかしそうに赤面して僕を睨む。
迫力は全然なかった。
むしろ可愛い。

「ごめんなさい」

「それで?」

将平くんが続きを促す。
なんだか恋バナに花が咲き出してしまった……?
矢野くんは渋々といった様子で話し出す。

「……1個上のゲイのやつ。ゆずとヤって、よくわかんなくなって、女とヤってもスッキリしなかった。ゆず以外の男てのは微妙だったけど、見た目が女より良かったからイけるかと思って」

聞いていてなんか複雑だけど、矢野くんが矢野くんなりにこの頃悩んでいたことは、何となく知ってる。
詳しく聞いたわけじゃないけど、僕のことを好きなのか分からない時期があったと前に言っていたから、たぶんこれがその時期なんだろう。

「俺からしたら、お前は絶対まことなんだと思ってたけどな…」

将平くんが昔を思い出しているのか、少し遠い目をする。

「絶対ゆずだよ。……ただ、傍にあると疑わねぇっていうか、だから……胡座かいてたら、ゆずが他に取られたし、その度強がってみても内心焦った。俺も他へ行ったりしたけど、好きな奴がいる人好きになんのって、すげぇ辛ぇなって思った。俺が他に行く度にゆずはこんな気持ちになってんのかなって、初めて考えさせられたんだよ。そうしたら……ゆずの愛情て、すげぇ深いなって思わされた。」

「……昂平くん…」

「……」

僕が感動して矢野くんに眼差しを向けていると、将平くんが僕を見ていることに気づく。
将平くんが何を思って僕を見たのか、分かってしまって、感動している場合じゃないんだと冷静になる。
矢野くんの気持ちも知らずに、僕と将平くんは何度も寝た。
今きっと、将平くんも罪悪感を感じたんだ。
だからなんとも言えない切ない視線を僕に送ったんだろう。

……もしかしたら、今なんだろうか、矢野くんに告白するタイミング……。

そんな気持ちで将平くんを見ると、将平くんは僕から矢野くんに視線を移した。

「昂平、俺はしばらく日本にいる。その間、まことから目を離すなよ。」

「なんだよ、急に……」

「あいつが異常なのはわかったよな。いや、分かって欲しかったから2人に話したんだ、過去むかしのことを。」

将平くんの言いたいことがわからなくて、僕と矢野くんは顔を見合わせる。

「俺は……、正直怖い。もう10年だ。なのに未だにあいつにされたことを忘れられない自分も、なんでか俺にまだ執着するあいつも、怖くて仕方ない。あいつが何考えてるかなんて昔からわからなかった。だから、あいつが昂平やまことに何かするんじゃないかって、そう思えて怖いんだよ」

「…………考えすぎだって、兄貴」

そう言った矢野くんの声も、どこか不安そうだった。
だって、そういった奇行に走る人はいる。
山梨先輩も……、茜さんも……、

「俺は、問題ない。確かに、あいつの前じゃ萎縮するけど、あいつの好きにされたりしない。今は随分とあいつより体格もいいしな」

将平くんが笑う。
でもその微笑みに、悲しさが滲んでるのがわかった。

僕の事を、小さくて、柔らかくて、可愛いいなと言ったときの将平くんの気持ちが、今わかったような気がした。

「こっちも問題ない。ゆずには俺がついてる」

「……ああ」

将平くんが心配なのはわかる。
ほんとに矢野くんが僕から目を離さなかったら、僕は将平くんと何度も浮気できなかったはずだ。

「まこと、昂平から離れるなよ」

……そうだよね。
矢野くんが僕から目を離しても、僕が矢野くんから離れなかったらいいんだよね。


この時の僕らの不安は、的中する。

柳一志という人は、僕らの想像を超える男だということを、知ることになる。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

【完結】後悔は再会の果てへ

関鷹親
BL
日々仕事で疲労困憊の松沢月人は、通勤中に倒れてしまう。 その時に助けてくれたのは、自らが縁を切ったはずの青柳晃成だった。 数年ぶりの再会に戸惑いながらも、変わらず接してくれる晃成に強く惹かれてしまう。 小さい頃から育ててきた独占欲は、縁を切ったくらいではなくなりはしない。 そうして再び始まった交流の中で、二人は一つの答えに辿り着く。 末っ子気質の甘ん坊大型犬×しっかり者の男前

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

処理中です...