177 / 205
○月×日『会食②』
しおりを挟むカフェのランチにしては高級そうな食材が机に並ぶ。
最初は食事が喉を通らないんじゃないかと思うほど緊張したけど、食事中社長さんに話しかけられることはなかったから、味わって食べることができた。
将平くんはずっと社長さんとお喋りしてる。
たぶん僕と矢野くんが妙に緊張してしまっていることに気づいてて、社長さんが僕らに話を振らないようにしてくれているんだろう。
将平くんは社長さんとフランス語で会話しているから、僕と矢野くんにはどんな内容かさっぱり分からない。
話している将平くんはすごく楽しそうだ。
この凄いオーラを放つ社長さんに物怖じせずに会話してる将平くんは社長さんとどういう関係なんだろう。
将平くんは社長さんを"リュカ"と愛称で呼んでいるようだし、社長と雇われ……というより、友達のような雰囲気がみてとれる。
「……兄貴、その社長さんと仲良すぎねぇか?」
社長さんがグラスを手に取り、口が止まった隙に矢野くんが将平くんを肘でつつく。
「リュカは大学の先輩だから。まぁ友達だね」
「へー。で、リュカて誰」
「昂平……お前な…」
将平くんが呆れた、という顔で昂平くんを見る。
「昂平くん、ルーカスさんの愛称だよ」
僕が小声で矢野くんに耳打ちする。
「は?愛称ぉ?」
いまいちピンときていないようだ。
「フレデリックをフレッドとか、マイケルをマイクとか、クリストファーをクリスとか呼んだりするの、海外ドラマとかでみたことあるだろ?」
「昂平くんが僕のことゆずていうのと似たようなものだよ」
「ああ、なるほど。」
やっとしっくりきたのか、矢野くんが頷く。
「それにしても、随分派手な社長さんだな」
「そうだね、綺麗なレッドヘアーだよね。」
たぶん矢野くんが言ったのは髪の色のことだけではないと思う。
けど1番目を引かれるのはやっぱり綺麗な赤毛だ。
白い肌が一際それを際立たせてる。
髪と同様に赤い睫毛の下には透き通ったグリーンの瞳。
カラコンじゃないの?と聞きたくなるほど綺麗な色だ。
それになにより顔がハリウッド俳優貼りに男前だ。
今は椅子に座っているから身長がどれ程かはわからないけど、スーツの上からでも分かるくらいに体格が良い。
組んだ脚も長い。
たぶん将平くんより背が高いんだろう。
僕がジッと社長さんを盗み見ていると、グラスから瞳を上げたグリーンの瞳が僕を捕える。
僕が狼狽えると、社長さんが唇に柔らかい笑を乗せて微笑んでくれる。
「……っ」
息を飲むほど美しいとはこのことだ。
僕の周りには容姿の整った人が多い。
矢野くんや将平くんがそうだ。
それに篤也さんや、山梨先輩、茜さん、歩くんも……
そんな中でもこの人は特に整ってる。
「おい」
「えっ」
僕が惚けていると、矢野くんが僕の視界を遮るように身を乗り出してくる。
「お前、見とれてただろ。」
矢野くんに簡単に見破られるほど惚けてたかと思うと恥ずかしい……
矢野くんの横で将平くんも控えめにだけど笑ってる。
「Amant mignon」
「え?」
社長さんが矢野くんに向かって微笑む。
矢野くんは何を言われたか分からず将平くんを見る。
「可愛い恋人だねって言ったんだよ」
「え、……ぁ、どうも。」
矢野くんが控えめに会釈する。
一日でこんなにペコペコとしてる矢野くんを見るのは初めてだ。
「将平、Allons-nous travailler maintenant?」
「C'est vrai」
将平くんと社長さんが顔を見合わせる。
「昂平、まこと、今日はありがとな。俺らはそろそろ仕事に戻るから行くな」
「ああ…」
「お仕事頑張ってね」
もちろんここのランチ代は社長さんの奢りのようで、彼はさっさと会計を済ませると、将平くんの横に並ぶ。
やっぱり将平くんより背が高い。
「A bientôt」
社長さんが僕らにそう言って微笑むと、将平くんの腰に手を添える。
「また会おうって」
将平くんは特に気にした素振りはなく通訳してくれる。
「じゃ、ほんと今日はありがとな。」
将平くんはそう言うと、社長さんに腰を抱かれたままカフェを出ていった。
「………………あれほんとに友達か?」
矢野くんの疑問はご最もだ。
僕も気になった。
ものすごく自然に社長さんが将平くんの腰を抱くものだから、友達と言うにはなんていうか……なんていうか…………恋人みたいな雰囲気で…。
それともあれが普通なのかな…
「兄貴てモテるよなぁ…」
矢野くんがそんなことを言いながらカフェを出る。
……やっぱり、そういうことなのかな。
パリッとした高級なスーツに身を包んだ将平くんと社長さんはこのホテルにいる誰よりカッコよかった。
そんな2人が、友達以上の何かがあるのかな……
人の事情に深入りしない方がいいよね。
僕はホテルの出口に向かう矢野くんの後を追いかけた。
5
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
どうせ全部、知ってるくせに。
楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】
親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。
飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。
※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。
心からの愛してる
マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。
全寮制男子校
嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります
※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください
握るのはおにぎりだけじゃない
箱月 透
BL
完結済みです。
芝崎康介は大学の入学試験のとき、落とした参考書を拾ってくれた男子生徒に一目惚れをした。想いを募らせつつ迎えた春休み、新居となるアパートに引っ越した康介が隣人を訪ねると、そこにいたのは一目惚れした彼だった。
彼こと高倉涼は「仲良くしてくれる?」と康介に言う。けれど涼はどこか訳アリな雰囲気で……。
少しずつ距離が縮まるたび、ふわりと膨れていく想い。こんなに知りたいと思うのは、近づきたいと思うのは、全部ぜんぶ────。
もどかしくてあたたかい、純粋な愛の物語。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる