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○月×日『青白い顔』
しおりを挟む僕と矢野くんは病院にいた。
将平くんが自殺未遂をしたからだ。
第一発見者はルーカスさんだった。
将平くんは昨夜、ルーカスさんと過ごしたそうだ。
早朝、浴室の湯船を血でいっぱいに染めた将平くんをルーカスさんが発見した。
将平くんは手首を切って出血性ショックで病院へ運ばれたけど、発見が早かったこともあり一命はとりとめた。
僕と矢野くんは急な出来事に言葉も出なかった。
今は容体の落ち着いて眠ってる将平くんに付き添ってる。
個室だからか、すごく静かだ。
ルーカスさんは似合わないパイプ椅子に座って、ベッドで眠る将平くんをじっと見下ろしてる。
元々色白な将平くんの顔は血の気がなく青白い。
一命はとりとめたといっても、生死を彷徨ったんだ。
そっと矢野くんに視線を移すと、矢野くんも青白い顔をしていた。
「そろそろ面会時間が終わります。」
呆然とするしかない僕らに青池さんが声をかけてくれる。
「ぁ……はい、……昂平くん」
僕がそっと矢野くんの手に触れると、矢野くんは小さく頷いて僕の手を握り返した。
「本来ならご家族が付き添われた方がいいんでしょうが……、将平には私たちが付き添いますので」
青池さんは矢野くんを一瞥してから、僕を見た。
矢野くんの精神状態じゃ、将平くんのそばに付き添うなんて無理だと判断したんだろう。
……正直、僕も無理だと思う。
「……宜しく頼みます」
矢野くんが、なんとか振り絞って口を開き、青池さんに頭を下げた。
青池さんは、ルーカスさんの秘書というだけでなく、フランスの大学での将平くんの友人らしい。
きっと青池さんもショックだったはずだ。
ルーカスさんも、青池さんも、取り乱すことなく、呆然とする僕らの代わりに色々と対応をしてくれた。
「……ゆず」
病院を出たところで、矢野くんが足を止める。
「…………一志だよな…」
矢野くんはなにかを確信しているみたいだった。
「……わからない。けど、……、」
僕も、将平くんの自殺未遂には、柳生さんが関わってる気がする。
僕らに連絡をくれたのは青池さんだった。
個人的な連絡先を知るはずもなく、青池さんが学校に連絡を入れてくれた。
授業中にも関わらず血相をかいた先生が矢野くんを呼びに来て、事情を知った矢野くんが酷く動揺していたから、僕も事情を聞いて矢野くんに付き添う形で病院まで直行した。
タイミングが悪いことに、矢野くんの両親は今朝方海外出張に出かけたばかりで連絡がとれなかった。
連絡がついてもすぐにかけつけることはできないだろう。
「……、帰って、休もう?これからのことは……、将平くんが目を覚ましてからじゃなきゃ…………」
どうにもできない。
……いや、どうしていいかわからない。
もし本当に柳生さんと将平くんの間に何かあったのだとしても、僕と矢野くんにはなにもできない。
それに……
もし、柳生さんだけが原因じゃなかったら……?
僕だって、将平くんを利用した。
僕には、将平くんが目醒めてくれることを祈るしかできない。
けど、将平くんが目を覚ましたら、一変するような出来事がおこりそうで怖い。
「……昂平くん、」
足を止めた僕を、矢野くんが振り返る。
「ゆず?」
青白い顔で、疲弊しきった矢野くんの顔を見て、何もいえなかった。
何か言うには、もう何もかもが遅すぎる。
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