ヤノユズ

Ash.

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○月×日『Too late~at that time~④』

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リュカが宿泊するホテルの前に併設された小さな公園のベンチに座って、足元をジッと見下ろした。

約束は果たした。
まことを脅していた写真も消させた。
だから、一志とこれ以上どうこうなんてありえない。
これで終わりだ。

最中に“愛してる”て、何度言われたって……

言われたから、何だ。
でも、
あいつを許せないのに、乱される。

俺は、

あいつのこと……

「将平?」

頭上から声がして、顔を上げると青池颯太あおいけそうたがいた。

「颯太……、リュカは?」

「ルーカスを部屋まで送ってきたとこです。将平はここで何してるんですか?」

颯太がゆっくりとした動作で隣に座る。

彼の名前は青池颯太。
年は俺の一つ上で、リュカと同じ。
まことまでとはいわないけど小柄。
真っ黒なサラサラな髪に分厚い黒縁メガネ。
フランスの大学での先輩だ。
ちなみに日本人。
普段何考えてるかわからないのに、実はかなり頭がキレる天才だ。
学生時代からリュカに心酔してて、今はリュカの秘書だ。
リュカの友人で、今ではリュカの通訳として仕事してる俺とも付き合いが長い。
彼も外国語は話せるが、リュカ第一主義だから、リュカの仕事とケアで通訳に割く時間は無いらしい。

「……何してるんだろうな、なんとなく……」

リュカに会いに来たのは確かだ。
でも、会ってどうしたかったんだか……

この、なんとも言えない惨めな気持ちを、どうにかして欲しかったのかも……

別の男に抱かれてきたままの汚れた体で……

最低じゃないか。


リュカは、俺のことが好きだ。
いつも甘やかしてくれる。
それが心地いい。
きっと今のこんな俺でも、望めば何でも叶えてくれるだろう。

気持ちに応えることができないくせに、いいように利用しようなんて、浅ましいよな……

「将平、日本での仕事が終わったら、ルーカスと一緒になったらどうですか」

颯太の急な提案に、リアクションがとれなかった。
ポカンとして颯太を見る俺に、颯太は言葉を続ける。

「ルーカスのこと好きでしょう?」

何を迷うことがあるのかと、颯太は訝しげな瞳で俺を映してくる。

「す、きだけど……、一緒になれってのは……」

「そのくらいルーカスが将平に本気だってことです。」

知ってるよ。
何度フってもリュカは俺のことが好きだって言うんだから。
女役が嫌だって言った時も、だったら体の関係は無くてもいいとまで言ってくれた。

「将平、僕はルーカスが柳一志に劣ってるとは思えない」

「え?」

颯太の口から思わぬ人物の名が出て、冷や汗が出た。

「ルーカスは凄い人です。学生のうちに企業して、成功し、今じゃ何万、何億人ものトップですよ。あなたも一緒に仕事してるんだから知ってるでしょう。彼は仕事だけでなく人柄も良く、頭もいい。ルックスだってパーフェクトです」

これはルーカスに心酔してる颯太の口癖みたいなものだ。

「比べるのも烏滸がましいですが、柳一志は普通のサラリーマン。収入だってルーカスの足元にも及ばない。まぁ、一般男性よりは見た目は整ってますけど、離婚歴のある子持ちですよ。なんで将平がそんな男に拘ってるいるのかわからない。あなただって素晴らしい人なのに、美しくて、才能もあって、ルーカスに見初められて、それなのに……」

颯太の言葉が途切れたのは、俺が颯太の腕を掴んだからだった。

「…………、」

聞きたいことがありすぎて、まとまらなくて、言葉が出なかった。

「将平?」

戸惑ったような颯太。

颯太が一志のことを知っているのには、今更驚かない。
いや、正直驚いたけど、颯太ならありえると思ったからだ。
リュカを何度も振ってるのを、リュカに心酔してる颯太がよく思ってないのは知ってた。

リュカにも颯太にも一志のことは話したことはないのに、どうやって颯太は一志のことを調べたのか……

それも、俺でも知らない一志のことを……

「……子持ち、て?」

やっと絞り出した言葉はそれだった。
俺の知らない一志の現在《いま》。

「将平、もしかして知らなかったんですか?」

颯太が意外そうに、いや、この顔は“しまった”て顔だ。
俺が知らなかったとは思わなかったんだろう。
だからこんな説教紛いなことをし始めたのかもしれない。

リュカと、一志を天秤にかけて、俺がバツイチ子持ちの男を選んだと勘違いして……

「すみません。知っていて柳一志と逢瀬を交わしているのかと……」

「…………」

俺と別れた後に、何もないわけないと、思ってはいた。
あいつのことだから、学生時代と変わらずくるもの拒まず、さるもの追わずで、だらしない性生活を送っているんだと…

けど、俺と再会した時、別れを了承してないとか、まこととのことは浮気だとか……そんなことを言っていたから……

俺と寝たがっていたし……

あいつは俺に未練があるんだと思った。


けど、違った。

結婚して、子供を作ってた。

俺のこと……



……愛してるって……


愛してるって言っていたのに……



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