幸せの魔法

千羽

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EPISODE.2

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「う、うぅ…」

 苦しみ悶える青年の手には血と脂で塗れた剣が濁られている。よく見ると、道に鎧を脱ぎ捨てた様な跡もある。どこかの兵士で魔獣に襲われたのか、はたまた近くで戦争でもしてるのか。ユノからしてみれば正直な話どれも関係ない話ではあるが、右半身に現れている現象は放っておけなかった。

「これは、魔症」

 彼のその姿には見覚えがあった。その名は魔症。悪魔と接触した者のみに起きる症状で、これは悪魔にとって自分の餌である証、マーキングの様な物だった。どういった経緯で悪魔と接触したかは分からないが、このままでいずれ身体が腐り堕ちてしまう。そうして死にかけた時悪魔は囁くのだ。「自分と契約すれば助かる」と。

「君、声は聞こえるか?聞こえたら返事をして欲しい」

「う、うぅぅ。た、助けて、くれ」

 彼は右半身が既に覆われているもののまだ意識は保てているようだ。しかし、このままではいずれ手遅れになるだろう。
 ユノはすかさず彼を家のベッドまで運ぼうと背負う。パッと見で体はそこまで大きく見えなかったが、意外と重い。普段の運動不足を呪うも、息切れだけが虚しく部屋中を襲う。
 ユノは何とか精一杯で青年を運び入れ、処置を開始する。
 本来であれば魔症は一度発症したら治す方法は無い。いや、正確にはほぼ不可能と言った方が良いだろう。治す方法は最高位の聖人による祝福、もしくは悪魔の血で中和するしかない。
 まず、この症状は一日で体を巡るため聖人による祝福という方法は、聖人がその辺を歩いてでもいない限りほぼ間に合わない。そして、悪魔の血による中和。悪魔の血を手に入れる暇があれば聖人を探した方が早いだろう。つまり、現状ではほぼ助けようがない。しかし、ユノは違う。彼は人間であったものの現在は比較的悪魔に近い。悪魔の血ほど即効性は無いが、魔人の血もそれに近い効果は起きる。
 ユノは果物ナイフを手に取ると自らの右腕を切りつける。赤い鮮血は腕を辿り手首まで滴り、ゆっくりと青年の口元へと落ちていく。
 ユノは注視しながら見ているものの、青年の喉元は動くことは無い。不穏に思い青年の口元に耳を持ってくも息をしている様子は無かった。

「クソっ」

 ユノは傷口に口を当て自らの血を啜る。口に血を貯めると、青年の口元へともう一度、次はマウストゥマウスで輸血。
 大きく血を送られた青年は息を吹き返す。コヒューという息を吐き、薄く目を開けた。

「大丈夫か?声は聞こえるか?」

ヒューヒューという息遣いから小さく「ありがとう」と青年は口にして眠り着いた。
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