濁った私淑

出雲

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私の幼少期

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恥の多い生涯を送ってきました。





私は東証一部上場の大手企業の重役を父に持つ、比較的裕福な家庭に生まれました。




父は厳格ではありましたが家庭にも目を向けることの出来る人であり、病弱な母も、年の離れた兄も、末っ子の私をとても可愛がりました。




初めてのズレを感じたのは、まだ5歳の頃。
まだ保育園に通っているような年代です。




私は空腹というものを味わったことがありませんでした。




お腹が空いていなくても、大人は食事を私に用意するので、お腹が空いてから食べ物を要求することもありませんでした。




そのことを近所に住んでいた祖母に話したところ、空腹を満たすために食事をして、食事をするために働くということ、そして空腹とは恐ろしいことだと教わりました。





戦争の終わり頃に生まれた祖母にとって食事とはいかに幸せなことか、空腹が続くことがいかに恐ろしいことなのかを刻々と話していましたが、私は私の知らない感覚に対して恐ろしい顔をしながら刻々と話をする祖母の方が、ずっとずっと恐ろしく思いました。




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