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恩とプライド

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その後俺は目覚めると宴の真ん中にいた。数百はいるであろう鬼達が俺を囲んで酒を飲み丸焼きにしたオークの様な獣を一人一頭ずつ貪り食っている。

あのこれ何ですか。

決まってんだろ。宴会だよ。お前が今回仲間になる記念だ。手荒な真似して悪かった。こっちにもいろいろ準備があったからな。

どうだ。驚いたか。驚いたよな。私達妖怪は驚かせるのが大好きなんだ。

あの。何で。宴会するんですか。私、何もしてないのに。

驚くとこそこかよ。あのな。別に。英雄や恩人でなきゃ歓迎されないわけじゃないんだぜ。私達はありのままのお前を受け入れて祝ってるんだ。

宴の輪の真ん中から全身にキラキラとした金属類をつけジャラジャラ言わしながらゆっくりと近づいて来た髪のないやけにツノが長い鬼は俺にこう言った。
そうそう。俺達鬼は仲間になる奴はどんな奴だって祝うのさ。世間の評価やレッテルなんて気にすらしねえのよ。あっ。おろ。導鬼な。

そうだな。お前さんは。まさにこれだな。

そう言うと懐から取り出した藁人形を取り出した導鬼は藁人形にゴミと書かれたシールを貼り付けた。

この藁人形見てみろこれ何に見える。

勇者は言った。
ゴミです

違う。誰かにゴミと決めつけられてもこれは藁人形だ。

お前さん。誰かの意見に耳を傾けすぎの様だな。

そんなお前さんは今こんな状態だ。するとシールを貼りまくって物体を差し出した。

これのシールを貼る前の姿が何か分かるか。

分かりません。

そうだろ。今のお前さんも同じだ。周りにいろいろ求められて自分が分からなくなるくらい他人から色々貼り付けられたんだ。それで、お前さん自身も元の自分を忘れちまったんだろ。  

お前さん。元の名前何か。思い出せるか。

私は勇者

違うな。それも誰かに貼られた名前だ。お前さん自身の元の本名を聞いてる。

俺は過去を振り返り必死に元の名前を思い出そうとした。しかし、思い出せたのは魔王討伐の為に旅立つ日から始まった冒険の記憶だけだった。

俺は。私は。何者。何だ。勇者である前は何だったんだ。

はっ。それに、私は今異世界にいるんだとすれば勇者の使命を果たせない。おまけにタイマンで人間の剣士に完敗してしまった。今まで魔物相手に戦って死ね事はあっても人間相手には必ず勝利して来た私が。もはや。私には力も使命もない。私から勇者の使命や力がなくなれば私に何が残るんだ。

勇者は頭を抱えてその場にうずくまった。

おい。にいちゃん。悪い事聞いちまったみたいだな。まあこれ飲んで忘れてくれや。

私は目の前に出された酒を一気飲みした。

そうだ。そうだ。俺達や。酒が飲めればそれで良い。

酒を一気飲みしたせいで理性が吹き飛んだ俺はとんでもない事を考え始めた。

そうだ。俺が負けたのは相手が人間だから手加減したからだ。相手を殺さない為に手加減したから負けたんだ。本来の実力を発揮すれば負けることなど無かった。

それを今から証明してやる。この集落の奴ら頭にツノが生えてる時点でヒトじゃない即ち魔物殺しも問題ないよな。

試合を申し込んで最悪殺してもこいつら魔物だから問題なし。よし。今は剣は取られたが俺にはチートスキルがある今は仲間いないから巻き込む事は無い。ここの集落が消し飛ぼうが知るか。所詮魔物だ。

思う存分やってやる。俺は宴の最中に立ち上がった。



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