暗渠 〜禁忌の廻流〜

角田智史

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〔nabarいこうや〕
 nabarはとあるスナックが立ち退いた後にできたバーだった。
 開店してからというもの、よく辛麺がおいしいと噂を聞いていて、更にフリータイムの飲み放題を破格の値段で提供していた。オープンの時間さえもう少し早ければおそらく通っているのだが、店に入る時間帯のタイミングがつかめずにまだ一度しか入った事はなかった。
 久々の土曜出勤だった。
 何かが物足りない、そんな感覚の中でも僕は変わらずにスナックの女の子達と同伴に行っていた。
 土曜日、僕は飲みに出る事は少ない。また、スナックの女の子達も、土曜日となると予定が詰まっている事が多く、せっかく土曜日に飲みに出れると思ったのに、何か塞がれたような感覚に陥っていた。

 〔いく〕

 賭けに近い感覚でのDM、彼女からの返信に僕は久々に心躍らせた。
 時折、LINEもインスタのDMも送っていたが、それにこの返信がくるまで既読はつかなかった。
 以前からの話で彼女はLINEよりはインスタの方がいいと言っていたので、このやり取りはインスタだった。
 
 またもこのピンク色のビル。
 そのビルの前で待ち合わせた。
 「何してはんねん。」
 「何してはんねん、俺もやけど。」
 僕は2度続けて同じ事を言った。彼女はただ笑って2人エレベーターへ乗り込んだ。

 スナックの女の子達、誰からも彼女と連絡がついたという話は聞いていなかった。
 前回と違って言いたい事がたくさんある、そんな雰囲気ではなかった。

 確かに、LINEもインスタもシカトを決めこんではいたのだが、スナックの女の子があげるストーリーズ、そして僕があげたものも彼女が見ていたのは知っていた。以前とは違い、何かそこに繋がりが見え隠れしていて、ただ単によこしまな理由で辞めていったわけではないんだろうと感じられていたし、僕からすればそこが、唯一切り崩せるツールであった。
 ある日僕は、アルファポリスのURLを親しい友達を彼女だけにして、ストーリーズへあげたのだった。
 彼女がそれを見たとこまでは分かったが、中身まで読んでいたのかどうかまでは把握しようがなかった。

 彼女は青い液体を飲んでいた。ライチがなんとかと言っていた。
 最初に、
 「なんでやめたん?」
 会話の流れでそんな質問はしたが、 
 「まあ、それはもうちょっと酔ってからで…」
 そう言った彼女と僕も同じ感覚だった。
 それからさあ、いつ切り出すか、暗にそんな空気が流れている中でも2人は共通の知り合いの話だとか、そんな話をしていた。ある程度酒が入ってから、彼女の方が切り出した。

 「アレ…読みましたよ。」

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