暗渠 〜禁忌の廻流〜

角田智史

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 大事に思っている。
 
 そうであれば当然その思い出や記憶さえも大事であって、それを直接伝える事ができないでいる僕には、こんな形でしか思いの丈を伝える事はできない。
 思いの丈を綴っていくという事は、時に勇気と、時に希望と、時に憂鬱と、そんな全てが入り混じったような状態を紆余曲折ありながら継続的に、常に自分と向きあいながら、自己の反省と共に、未来への展望を思い描いていかなければならない。
 頭で考えつつも、魂として感じる事を素直に受け入れつつ、時に神に判断を委ねながら、今ある自分とこれからの自分をリンクさせていくのだ。常に感じている吐き気や、毎晩うなされるような感覚の要因、それは重々承知している中で、それを導き出したのは自分自身であり、それがまた僕のなりたい自分の一つであろう事は、僕自身が一番良く分かっていた。

 僕は彼女を見つけ出していた。
 さほどの時間はかからなかった。僕を信用して、くれる情報は男であれば値千金のもので、その中でも最も大きいものはその時間帯が割れてしまっていた事であった。

 ただ僕は、もう一度彼女を抱き寄せたかった。
 「また飲みに行ってくれる?」
 「嫌じゃない?」
 僕の腕の中にくるまって、そんな言葉をかけてくる彼女を心から愛しく思った。僕の腕の中の彼女は、状況を噛み砕く事ができず、興奮冷めやらない様子が見てとれたが、それと正反対に、僕にとってはあまりにも自然体で、落ち着いた空間だった。

 どうやっても叶わない。

 根底に、決して揺るがないそれがある中で、僕が彼女に対して、何かのアクションを起こす事は、これ以上なく恐ろしい事だった。それは自分自身が、彼女の事しか考えられなくなる事が目に見えていたからだった。人生そのものが変わっていってしまう、そんな恐れを僕は彼女と会う度に感じていた。
 だからこそ僕は、彼女をこんな形で呼び寄せた。感情ではなく、仕事として。金銭でのやり取りを使って。
 このまま進んでいけば、いつかそんなタイミングで間違いが起こる、起こしてしまう、そんな感覚が芽生えてきた中で彼女の激白は僕をこれ以上なく悩ませた。

 プライベートなのか、それとも仕事なのか。

 どこまでも答えを出す事が出来ないその考えは四六時中に僕を悩ませた。
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