暗渠 〜禁忌の廻流〜

角田智史

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 最後まで彼女は口を割らなかった。

 nabarへ2人で入ったその次の約束は、前々から2人の間で行こうと話していた居酒屋だった。以前のその話の際には予約がいっぱいで入れなかった。
 7時の約束で僕は、店に早く着いた。先に入っている旨をLINEして僕は扉を開けようとしたが、店の看板の電気は点いておらず、僕は恐る恐る扉を開いた。
 店の中には電気が点いていて開店していたので安心した。カウンターには店主らしきおばさんが立っており「いらっしゃい」と声を掛けられた。
 「江藤で…」
 店主は少し戸惑った様子で
 「さおり?」
 と聞いてきたので、僕は、
 「ああ、そうです。」
 と答えた。

 店内の席はカウンターと座敷、全席が掘りごたつ式になっていて、僕はカウンターの一番奥へ通された。カウンターでの掘りごたつ式は珍しく、僕は家の中に上がり込んだような不思議な感覚に陥っていた。
 「こんばんは~。」
 間もなく、彼女が入ってきた。店主と「お久しぶりです」といった会話をしながら、僕の右横に座った。
 彼女はやはりいつものようにビールを頼んだ。
 食べ物や飲み物を頼みながら、店主と彼女は懐かしい会話を繰り広げており、たまらずに僕は聞いたのだった。
 「同級生?」
 「そうなんですよ~、もう中学校の時はずっとここの2階に入り浸ってて~。」
 店主は同級生の母親だった。そして何度も飲みに行く度に聞く言葉もやはりここでも聞いてしまうのだった。
 「もう、3人目が生まれたんですよ~、でもシングルです!」
 聞けば丁度、その同級生が帰省しているタイミングで、後に2階から降りてきて彼女と何年振りという再会を果たしていた。
 
 その再会の場に居合わせてしまっていた僕。さおりの同級生と、その母親と、その懐かしいエピソードを聞いてしまった僕。
 それを考えると、今より更に彼女に入り込んでしまった、という恐れを覚えずにいられなかった。
 料理と雰囲気と、今までまだ経験した事のないようなそんな居酒屋さんであって、存分にそれを堪能したのだった。
 店を出て、「どうする?」と聞きはしたものの、僕は先日違うスナックで出会った雇われ店長のところへ行きたいと思っていて、そう聞きながらもその店へ足を向かわせた。

 そのスナックは広い空間ではあったが、1人で切り盛りしていた。
 店に入るとカウンターに若い男性客が2人。僕ら含めて4人で僕は丁度いいと思った。

 前回、まずは僕の中の世界に彼女を引き戻す事には成功していた。そしてあのスナックからいなくなった理由も聞き出していた。僕の次の課題は、そのスナックのママとさおりを引き合わせる事だった。

 ただ、彼女は彼女で、何かを、そうそれは今何の仕事をしているのかを、話したい、それを僕は感じていた。単純に聞いたところで、問い詰めたところで、その答えは返ってくるわけではなく、返ってくるわけではないけれども、話したい、そんな彼女の中の複雑な感情が、僕は透き通るように見えていた。
 インスタに上がる電車での行き来、そしてその時間帯、仕事としての費用対効果、そのあたりを考慮していくと必然と答えは導き出せはしたものの、それを何もオブラートに包まずに質問できる程の器量は僕にはなく、向こうもこちらも「大体そのあたり」そんな理解で話は進んだものの、何より、これをやはりハッキリと、彼女は、伝えたい、それは彼女の中にあって、ただそれを切り出すそんなタイミングは中々、その辺りには落ちていないもので、それはある意味致し方ない事でもあった。
 
 
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