暗渠 〜禁忌の廻流〜

角田智史

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 別れは突如としてやってくるものである。


 それは、もちろん大なり小なりある話であって、もう二度と会えない死別から、ほんの隣町へ引っ越すそれだけでも、人間は涙を流せるものである。元々分かっているスケジュールのそれでもやはり涙を流す人間は数えきれないだろう。
 常に転勤が頭の中にある僕にとって、夜の街で出会った女性達は「別れ」に関してのある程度の予測は出来ているし、想像するに、今までの僕の経験上やはり、その想像が覆る事はないだろうと常日頃から感じているのである。
 それは何より、僕自身がそうやって心の内で決めているその部分が大きいだろう。

 きっと、僕がこの街にいなくなれば、連絡を取る事もないのである。

 数多く出会って連絡先を交換してきた女性の中で、さおりだけはその中でも特異な存在である事は言うまでもない。
 例え転勤になったとしても、僕はきっと何かにこぎつけてさおりと会おうとするだろうし、さおりもまた、何かのタイミングで連絡をくれるだろうとそんな予感がしている。

 2人の空間が無くなっていく。
 今までのように容易に予定を合わせる事ができなくなる。

 その事が「別れ」であるのならば、僕はさほど落胆する事でもないんじゃないかとも思える。

 ただしかしどうだろう。

 今の僕にとって、夜の街それ自体に魅力を感じなくなってきている今日この頃、唯一さおりと繋がれる、酒と、居酒屋と、スナックと、小さな小さな繁華街、その糸が今にもちぎれそうな程に細くなってきているのを肌で感じていて、まるで定例会のように近況報告をしていたその2人きりの空間が、以前に比べて僕の中で薄い存在となっている事は否めないのである。
 会えばまた、僕はさおりに惹かれるし、会わなければ、ただそれだけで通常の生活を送っていくだけであって、何よりも2人で会う事自体が、僕にとってもちろんプラスにもなり、マイナスにもなり得て、傍から僕を見ている僕としては「会わない方が身の為だ」という事は、ずいぶん以前から頭では分かっていた。
 ただ会えばまた一緒にいたいという気持ちは膨れ上がり、ふとした時に会いたいと思うようになり、そしてまた会って、それを繰り返す、お互いにこの社会を生きていく上で、どこか何か足りない部分があって、それを補う為の居心地のいい存在である事は確かでもあるが、不健全な関係だとも思っている。

 僕が会おうとしなければ必然的に「別れ」が待っている。

 それが頭をよぎった瞬間に僕は、言われようのない寂しさも覚えた。
 それは今までずっと考えてきた、先述したような物理的な、転勤によるものでも、家庭の事情でもなく、自分自身思いがけなかった、決してあるはずがないと思っていた、自分の心による別れであった。

 いつもの定例会の前には、必ず僕の頭の中によぎるのである。
 転勤、そしてその時僕はさおりを飲みに誘うだろう、そしてその時にさおりへ伝えたい事を全て、その一夜で伝えられるだろうかと。
 そう考えた時には決して時間が足りるはずもなく、今日こそは、今日こそはと、ほんの少しずつでもいいから伝えていこうと考えはするものの、いざさおりの今にも吸い込まれそうな大きな目を前にすると、それまで考えてきたその全ての事は真っ白になってしまっていて、どうでもいいような会話しか繰り広げられないのであった。
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