カルバート

角田智史

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 さくら

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 さくらのチキン南蛮と言えば有名である。
 延岡発祥、延岡発祥と言われているチキン南蛮。私が幼い頃には明らかに宮崎県内だけのソウルフードであった。ところが今となっては、全国放送のTV番組でも、コンビニやレストラン、居酒屋メニューでも見かける事は珍しくなくなった。
 「さくら」を選んだ理由は、やはりちょっとした贅沢感だろうか。
 悩んだ末での決断ではあった。
 その方法を閃いた後、2,3日間、すぐには動けなかった。
 様々な物事が錯綜する中で、僕の中にあった最も大きな懸念、それは果たしてこれが彼の成長に繋がっていくだろうか、というものだった。
 しかしながら、日々繰り返される、夕方のルーティーン。支社長と彼の一日、一日の聞き取りの作業、営業日報報告は、聞くに堪えられず、何の打開策も得られずにただ、真横で指を咥えてた僕は、彼がこの状況を抜け出し、新たな一歩を踏み出す、その一手に賭けた。

 「仕事の話なんですよね?」
 彼の持ち味の少し早口の言葉で僕に聞いた。
 「そうだよ。」
 彼をここに誘った時には、既に仕事の重要な話だと伝えていた。僕は常日頃から極力、彼に対して、仕事以外の話をするように意識していた。

 「さくら」のチキン南蛮メニューは大きく2つ、ムネ身とモモ身に分かれている。正直なところ、宮崎で生まれ育った僕からすると、弁当屋だったり、居酒屋で提供されるものの方がレベルが高く、こと「さくら」で食すメリットとしては、先述した部分と、出来立てである事、サラダにかけるドレッシングがうまい事ぐらいだろうか。
 ムネ身よりモモ身の方が若干高くつく。2人ともムネ身のチキン南蛮定食を注文した。
 確かに重要な話ではあったが久々の「さくら」、それはそれで楽しみたかった。

 先日、彼の乗っている社用車が無施錠であった事が監査で引っ掛かった。無施錠は社内的に重い事柄であり、部長譴責を受けていた。しばらくの間、車の使用を禁じられ、徒歩で営業回りをしていた。日々の圧力とそれらが重なり、すっかり元気のなくなった彼を後目に僕は箸を進めた。
 否、「さくら」のチキン南蛮はカットされていない為、ナイフとフォークが正しい。

 ある程度まで食事が済んだ後に、僕は切り出した。
 「実際のところどうなん?決まりそうな物件はあるん?」
 我々は営業員である。実績を積まねばならない。
 彼は3カ月の間、自力での契約が無く、支社長から「今月中に自力で契約を取れなければ営業員から外す」と通告を受けていた。
 5月24日だった。時間がなかった。
 「南永塗装と、横山興業はいけると思います。」
 と、日々支社長に繰り返している事と全く同じ内容をつらつらと並べた。
 「はっきり言ってそれは決まらんつよ。」
 僕は一刀両断した。
 何を隠そう、その両物件とも僕と同行で飛び込み営業をしたところだった。先方の感覚は痛い程に分かっていた。
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