カルバート

角田智史

文字の大きさ
11 / 83

 さとし

しおりを挟む
 日々の連続。
 私には耐え難く、昼夜逆転の生活を繰り返す中で、いかにすれば現状から逃れられるか、日々、思いを巡らせていた。
 働く場所が変わったとしても、大して意識に変化はなく、日々漠然と過ごしていた。
 毎日毎日、会社へ出勤しては無意味に思われる所作を繰り返し、眠さと戦いながら単調な仕事をこなしていく。
 時に上司や先輩に叱られながら、時に後輩と馬鹿を言いながら、それでも決して満足感など得られるはずもなく、家に帰れば、誰もおらず、夜出勤する頃には何かに追われている妻を後目にアパートを後にする。
 拘束時間が長く、得るものは少ない。
 そんな3年間を過ごした。
 何も仕事がない事の方がいい事であって、毎朝のように所長に、
 「何かあった?」
 と聞かれ、
 「いいえ、何もありませんでした。」
 と答えると
 「いい事やん。」
 と返される。

 そんな事を繰り返した後に僕はは異動を命ぜられる。
 移動先は移動元と比べると忙しかった。寝るような暇はあまりなかった。

 「営業になれって。」
 僕は机のパソコンに向かいながら、
 「ああ…そうですね。」
 と気のない返事をした。
 脇田さんは続ける。
 「絶対、営業がいいって。まず何?拘束時間やね、18時になったら帰れるっちゃかい。今階級何?給料もあんま変わらんとって。あんねー3カ月はインセンティブが固定で入るかいよ。で、土日が休みやろ?子供の行事とか余裕で出れるっちゃかい。」
 このまくしたてるような話術で彼はトップ営業にのし上がっていった。
 彼は一度、関東の方に出向し、その頃の経験も非常に大きかったらしく、常に自身に満ち溢れた言動をする。
 僕は「営業」という職種に対して、ある一定の距離感を保っていた。そう、大概のイメージ通り、ノルマに追われるとか、うさん臭い、押し売りのイメージだとか、そういったものだった。
 ただ、どこかでやってみたいという意識が働いていたと思う。前職はセールスドライバーという位置づけの配達員であった事もある。当時積極的な営業なんてした事はなかったが、ある程度のイメージはついていた。結局は、自分にできるのだろうか、という不安が大きかったのだと思う。

 営業職になる前、僕はリーガルの上等な靴を買った。意識的に毎日磨いて出勤すると、周りの人間からも「靴がピカピカやん」と言われるようになっていった。もちろん今も欠かせない毎日のルーティーンとして靴を磨いているが、これには様々な理由がある。

 ・足元を見られないように
 ・道行く人々を不快にさせないように
 ・靴ではなく、心を磨いている

 等々の理由により、これからも靴を磨く事は欠かす事はないだろう。

 そういったタイミングで会社の方針として営業員を増やす事が決まった。更には営業員が一人退職する事も重なり、僕に白羽の矢がたった。
 営業職になる前の支社長との会話を一つだけ覚えている。
 「角田はどこ出身なの?」
 長野県出身の支社長はそう聞いてきた。
 「角田出身角田です。つかみはOKです。」
 
 後に考えると、この一言が営業を意識させる大きな一言だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

処理中です...