カルバート

角田智史

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 MK

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 ナチュールを後にして正造とコンビニで話した。
 支社長へ報告する事、報告の仕方。工事調整、等々のものだった。

 最初その契約を知った古賀さんは、PC画面に向かいながら僕へ、
 「さとし、さとし、わら。」
 と言ってきたが、僕は、
 「僕じゃないですよ、正造ですよ。」
 と返した。
 古賀さんは、ほんの少し驚いたような表情を向けた。

 そして
 「それやったらまあ、普通はお店に少しでもお礼に行くよね。」
 と古賀さんは言ってきた。
 「まあ…そうですね。」
 と僕は言った。
 正造の契約、それを取るまでは僕もやっきになっていたが、それ以降は正造に任せた。それは人間として、これから成長する為のものであって、どうするべきなのかは、自分の頭で考えるべきだった。ここから先は僕はタッチしないし、仮にも何度かは契約を取ってきた人間だったので、大丈夫だろうと思っていた。
 古賀さんがそう言ったのにもわけがあった。元々、古賀さんは正造をかわいがろうとしていたのだった。しかし、MKの中での彼の立ち居振る舞いが、あまりにも、酷かった。

 彼は歌が上手い、と言われている。自分でもそう思っている。
 彼は歌って、女の子から黄色い声を浴びせられれば、それでいいようだった。他の客や、スタッフの事は考えずに、ただ、自分が気持ちよく歌えれば良かったのだ。気が付けば古賀さんの中で、正造は受け入れられない、ダメな人間になっていた。
 りこもいつも伝説のように話すのだった。
 「3時間よ3時間!ずーっと正造の自慢話聞いちょったかいね。えー!正造すごーい!て言いながら、全然思ってもねーのに。」

 いつもの調子で僕は古賀さんと、古賀さんの勤務終わりに「今日も行く?」という流れになってMKを訪れたのだった。暫くして、正造は店を訪れた。そしていつも通りに飲んで、いつも通りに歌っていた。
 古賀さんが言っていたのは、飲まなくてもいいから挨拶だけでも来るべきだよね、今日はもう延長とかせずに明日の仕事の事も考えてワンセットで帰るべきだよね、といった趣旨のもので、結局、自分さえ気持ち良くなればいい、いつもと何も変わらない正造を見た古賀さんはやはり、憤慨していた。
 正造は見事に、いつもと変わらず、閉店直前まで店にいたが、店終わりにまきと古賀さんがパスタを食べに行くというので、僕もついていったのだった。
      
 それは今回の契約の、反省会とも言えるものだった。
 「ねえどう思う?ありえんやろ?」
 と憤慨する古賀さんの前には僕の大事なお客さんのまきがいて、僕は反応に困っていたが、まきは
 「いや、あの時さとしが怒ってるんじゃないかなーと思ってた。」
 と契約の際に、ずっと夢うつつだった僕の事を気遣ってくれていた。
 「いやいや、眠かっただけよ?」
 「ほんとに?さとし怒ってるとかと思った。」
 優しいまきに言葉が出ずに
 「やーほんとにいい子やわ。」
 と僕が言うと、古賀さんも
 「いい子やわ。」
 と賛同した。
 「ほんとにねー、さとしがあそこで説明してくれたから良かったけど…、あれはちょっとね…。」
 日頃から、言葉に気を遣って人の悪口なんて言わないまきが、これに関してはいつもの丁寧な言葉選びが追い付いていなかった。。僕は心から悪いな、と思ったのだった。
 「さとしは担当やん!正造と一緒やん!これがまださとしが課長とかやったら分かるけどさぁ。部下に実績を付けるとかやったら分かるけどさぁ。ありえんよねマジで。」
 古賀さんは変わらず僕の肩を持って憤慨していたが、やはり、僕の大事なお客さんの前だった。 
 一通りの古賀さんの愚痴を聞き、そして皆パスタを食べ終わって、ここは2人、会社の人間として、
 「ご契約ありがとうございます。」
 とまきに頭を下げて、別れたのだった。

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