カルバート

角田智史

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 ナチュール 4

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 昨日見た階段をまた上っていった。
 5月25日。今度は正造と一緒だった。
 提出をした金額は伝えていた。それは社内許可がいらない範囲だった。新規取得の際にはこの社内許可、大幅な値引きやイレギュラーな事案の際に必要で、それは比較的珍しくもなんともないものだった。むしろ社内許可がいらない条件の方が珍しいものだった。それは正造の事を考えての事だった。
 彼は何故か提示した金額よりも何百円か下げる事を考え、それを僕に相談してきていた。ここに至っては契約を取る事が最重要事項であって金額はさほど関係なかった。心からどうでもいいと思った僕は、
 「まあ、いいんじゃない?」
 と答えた。

 2階のドアを開けるや否や、正造は契約ファイルを取り出し、それを広げた。
 「まきさん!安くしたから!」
 謎なテンションと言葉に、まきは明らかに戸惑っていた。
 基本的に2人同行の際には、後輩に喋らせる。僕がついていったとしても、補助的な言葉しか発しないのであるが、今思うとやはり、2人で行った時の僕の言葉は大きい。それは経験に裏打ちれたようなものと、脇から冷静に状況が見える事により、適格な言葉を選んでお客さんに訴えられるという事が大きい。
 僕は基本的に口を出すつもりはなく、一言お礼を言えばいいだろうと思っていた。ところが彼はプランや契約内容について、何も説明しようとする事なく、
 「ここと、ここを書けばいいから!」
 と、申込書の、お客さんが記載しなければならない部分を説明していった。
 さすがにまずい、と思った僕は
 「いや、順番が違うね。」
 と、契約のしおりを広げて、契約の内容の説明にかかった。
 営業員の同行。それはもちろん、2人がかりでお客さんを落とす、その意味合いと、もう一つ、重要な意味合いがあった。それは同行した営業員の実力、成長を見るものだ。この対応はちゃんちゃら話にもならないものだった。
 もろもろの注意事項、それをまきに説明していったが、僕の心は痛んだ。約1年間、支社長と2人、今までさんざん指導してきた事は何も生かされてなかった。まきに対して本当に申し訳なかった。

 ただ、しかし、僕は眠かった。

 前日もMKに行って、飲んでいたのだ。極力喋りたくもなかった僕は、重要なところだけを伝えていった。
 所々の会話の中で、やはり、もう、本当にどうでもいい、そう思う部分も多々あって、それは、工事の日取りだとか、もろもろの、調整事項、その一つ一つ、決めなければいけない事を、彼は僕の顔を見ては、同意を求めるような、こちらに聞いてくるような、そんな事を繰り返していた。
 営業には調整能力も必要である。契約を取ってからというもの、聞かれた事に対しての返答、逃げ方、これからの予定の伝え方、一つ、一つを信頼されるべき対応を取って行かなければならない。知らない事、分からない事が問題ではなく、それにぶち当たった時の対応力を見られるのだ。
 申込書はとりあえず書いてもらった。ただ、まきの中でも、せっぱつまっている感じは全く見受けられなかっただろう。僕は「本当にありがとうございます。」とまきに伝えたが、彼のそれは僕に便乗したものでしかなかった。
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