カルバート

角田智史

文字の大きさ
上 下
34 / 81

 山之内被害者の会 2

しおりを挟む
 それは、居酒屋チェーン店で行った。僕の中では既にしずかは男友達の感覚になっており、わざわざ無理に金を使う必要もなかった。とりあえずしずかはこちらに来る予定にしてもらったが、正造とはハッキリとした予定を立てられなかった。
 グループLINEでしずかから「正造」と呼ばれ、へそを曲げたのだった。無理に来なくてもいいよとは言ったが、正造は結局、居酒屋へ入ったのだった。僕としては山之内と近い関係の人間が集まって、彼の話題で盛り上がる事は、この上なく楽しくなると感じていた。
 店に入った正造は、全く、やる気を感じられず、「ああ。」「そうっすね。」「ああ。」と繰り返していた。
 だが結局酒が入った後に、喫煙所でしずかの事を嬉しそうに、
 「いやー!やっぱ話してみるとまあまあ面白いっすね!」
 と言い出したので、僕は彼の子供さに呆れ果てていて、もう、「やろ?」という同意ではなく、
 「ああ、まあね…。」
 と返した。

 元々は大いに盛り上がれるはずだったのだが、正造の子供さで話のスタートが遅れ、そして僕のやる気すらも削がれてしまっていた。もちろん金額の事も考え、まだしずかが来ていない時に
 「とりあえずここで飲み放題2時間にして、MK行こうか?」
 と提案したのだが、正造は
 「二時間!?二時間!?」
 と飛ぶ鳥を落とす勢いで言ってきて
 「それは無理っす。もうMKが開いたらMK行きましょう。」
 と言ってきた。僕の提案はお財布にも優しい提案だったにも関わらず、へそを曲げたその事の方が優先された。だからこそ無理しないでいいよと事前に言っていたにも関わらず、その体たらくである。へそを曲げた正造に、僕もまたへそを曲げたのだった。

 結局は、それなりに山之内の話ができた。その後、僕らはMKに向かった。
 3人でMKに入るその瞬間も僕は楽しみだった。
 何度かあるが、僕が女の子を連れていくと、一瞬空気が止まる。それを狙っている部分もあり、僕は暗に楽しんでいた。
 当然この日も、入った瞬間に空気が止まった。いつもは僕と女の子の2人だが、今回は正造も一緒になっての入店で、より一層、空気が凍り付いた。僕はそれだけで、ご満悦だった。
しおりを挟む

処理中です...