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最終章 俺の彼女は終わっていてほしい
彼女、二人で過ごす
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それから数日後。
休日に偶然、美湖さんと出会った。
近くのレストランで昼食を取りつつ、燐華さんの現状について伝えることにした。
「そうですか......。燐華さん、戻らなそうなんですね......」
美湖さんが落ち込む。
当然だ。
美湖さんにとって大学外での燐華さんは、自分を助けてくれた憧れの存在でもあり、大切な酒飲み仲間なのだ。
そんな人物が消えてしまっては、落ち込んで当然だ。
「はい......。なので、俺ももう諦めて、今の燐華さんを受け入れるつもりです......。忘れられるかは、わかりませんが......」
正直、忘れられるはずがない。
忘れたくもない。
だが、忘れなければ前には進めないのだ。
本能が拒もうと、忘れるしかない。
「......寂しくなりますね。今までは一緒にお酒を飲んで楽しめていたのですが、最近は一人でお酒を飲んでばかりで......。私ですらこんなの辛いのですから、志永さんからしたら......」
「......でも、もう仕方がないと思います。燐華さんが選んだ道なので......」
「そう、ですよね......」
そこから、燐華さんについての話が進むことはなかった。
更に数日後。
学園祭の準備の最終日の夜七時。
「みんな。お疲れ様でした」
燐華さんが教卓黒板の前に立ち、みんなに言う。
次の瞬間、全員が拍手をした。
文化祭の準備が全て終わったのだ。
「遅くまで残ってよく頑張ったね。明日は本番。お店の経営を頑張りつつ、思い出に残るように楽しもう」
燐華さんはそう言うと、黒板の前から移動した。
その後、燐華さんは友達と話していた。
「燐華さん......。本当に来ないんですか?」
「うん。ごめんね......」
燐華さんは申し訳なさそうに言う。
「志永くんもこないんだよねー......」
「はい。すみません......」
「いいよいいよ。二人は付き合ってるし、私たちが邪魔しちゃ悪いもんね」
「ははは......」
「それじゃ、帰ろうか」
「そうですね」
燐華さんと俺は、みんなにさよならを言い、教室を出た。
寒い冬の空の下、二人で並んで帰る。
これから俺の家で食事だというのに、気持ちの盛り上がりはなかった。
昔の燐華さんと飲むのだったら、こんなことにはなっていなかっただろう。
酒を飲み、しょうもない会話をし、燐華さんの介抱をする。
今までがどれだけ楽しくて、幸せだったのかを痛感する。
「ねぇ志永くん。お料理は何にする予定なの?」
「えーっと......。チキンとか、色々用意しましたよ。まぁ、冷凍ですけど......」
「いいね。二人きりだし、ゆっくり食べながら楽しもうよ」
昔の燐華さんだったら、お酒は何か聞いてきたり、焼き鳥やおつまみも欲しいと駄々をこねただろう。
そんな少しだけ子どもらしくて、可愛らしい燐華さんを思い出す。
「......あれ?」
気が付くと、涙が出ていた。
燐華さん気が付かれないようにコッソリと拭う。
「......どうしたの?」
俺の声に反応し、こちらの顔を覗き込む。
「いや、なんでもないですよ」
俺は笑って誤魔化した。
俺の家に着いた頃には、既に午後九時頃になっていた。
部屋に上がり、すぐさまエアコンの電源を入れる。
ソファでくつろいで数分ほど経過すると、部屋が暖まってきた。
「それじゃ、料理の準備をしますね」
「うん。よろしくね」
俺は立ち上がり、冷蔵庫を開けた。
冷凍のフライドチキンを始めとする様々な料理を取り出す。
そして、レンジに入れて温め始めた。
その間に、飲み物を用意することにした。
(前の燐華さんだったら、これからお酒を飲んで、騒いで吐いたんだろうなあ......)
俺は、コップを取り出しつつそう思っていた。
だが、もうそんな彼女はいない。
必死に昔の燐華さんを忘れようとする。
しかし、頭から離れることはない。
昔の燐華さんのことを考えながら、俺は冷蔵庫から瓶を取り出し、開封する。
その中身をコップに注ぎ、燐華さんに差し出した。
「燐華さん。先に飲み物どうぞ」
「ありがとう」
燐華さんが透明の液体が入ったコップを手に取る。
(ん? 透明の液体......?)
俺は、何を入れたんだ。
何を燐華さんに飲ませようとしたんだ。
休日に偶然、美湖さんと出会った。
近くのレストランで昼食を取りつつ、燐華さんの現状について伝えることにした。
「そうですか......。燐華さん、戻らなそうなんですね......」
美湖さんが落ち込む。
当然だ。
美湖さんにとって大学外での燐華さんは、自分を助けてくれた憧れの存在でもあり、大切な酒飲み仲間なのだ。
そんな人物が消えてしまっては、落ち込んで当然だ。
「はい......。なので、俺ももう諦めて、今の燐華さんを受け入れるつもりです......。忘れられるかは、わかりませんが......」
正直、忘れられるはずがない。
忘れたくもない。
だが、忘れなければ前には進めないのだ。
本能が拒もうと、忘れるしかない。
「......寂しくなりますね。今までは一緒にお酒を飲んで楽しめていたのですが、最近は一人でお酒を飲んでばかりで......。私ですらこんなの辛いのですから、志永さんからしたら......」
「......でも、もう仕方がないと思います。燐華さんが選んだ道なので......」
「そう、ですよね......」
そこから、燐華さんについての話が進むことはなかった。
更に数日後。
学園祭の準備の最終日の夜七時。
「みんな。お疲れ様でした」
燐華さんが教卓黒板の前に立ち、みんなに言う。
次の瞬間、全員が拍手をした。
文化祭の準備が全て終わったのだ。
「遅くまで残ってよく頑張ったね。明日は本番。お店の経営を頑張りつつ、思い出に残るように楽しもう」
燐華さんはそう言うと、黒板の前から移動した。
その後、燐華さんは友達と話していた。
「燐華さん......。本当に来ないんですか?」
「うん。ごめんね......」
燐華さんは申し訳なさそうに言う。
「志永くんもこないんだよねー......」
「はい。すみません......」
「いいよいいよ。二人は付き合ってるし、私たちが邪魔しちゃ悪いもんね」
「ははは......」
「それじゃ、帰ろうか」
「そうですね」
燐華さんと俺は、みんなにさよならを言い、教室を出た。
寒い冬の空の下、二人で並んで帰る。
これから俺の家で食事だというのに、気持ちの盛り上がりはなかった。
昔の燐華さんと飲むのだったら、こんなことにはなっていなかっただろう。
酒を飲み、しょうもない会話をし、燐華さんの介抱をする。
今までがどれだけ楽しくて、幸せだったのかを痛感する。
「ねぇ志永くん。お料理は何にする予定なの?」
「えーっと......。チキンとか、色々用意しましたよ。まぁ、冷凍ですけど......」
「いいね。二人きりだし、ゆっくり食べながら楽しもうよ」
昔の燐華さんだったら、お酒は何か聞いてきたり、焼き鳥やおつまみも欲しいと駄々をこねただろう。
そんな少しだけ子どもらしくて、可愛らしい燐華さんを思い出す。
「......あれ?」
気が付くと、涙が出ていた。
燐華さん気が付かれないようにコッソリと拭う。
「......どうしたの?」
俺の声に反応し、こちらの顔を覗き込む。
「いや、なんでもないですよ」
俺は笑って誤魔化した。
俺の家に着いた頃には、既に午後九時頃になっていた。
部屋に上がり、すぐさまエアコンの電源を入れる。
ソファでくつろいで数分ほど経過すると、部屋が暖まってきた。
「それじゃ、料理の準備をしますね」
「うん。よろしくね」
俺は立ち上がり、冷蔵庫を開けた。
冷凍のフライドチキンを始めとする様々な料理を取り出す。
そして、レンジに入れて温め始めた。
その間に、飲み物を用意することにした。
(前の燐華さんだったら、これからお酒を飲んで、騒いで吐いたんだろうなあ......)
俺は、コップを取り出しつつそう思っていた。
だが、もうそんな彼女はいない。
必死に昔の燐華さんを忘れようとする。
しかし、頭から離れることはない。
昔の燐華さんのことを考えながら、俺は冷蔵庫から瓶を取り出し、開封する。
その中身をコップに注ぎ、燐華さんに差し出した。
「燐華さん。先に飲み物どうぞ」
「ありがとう」
燐華さんが透明の液体が入ったコップを手に取る。
(ん? 透明の液体......?)
俺は、何を入れたんだ。
何を燐華さんに飲ませようとしたんだ。
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