【完結済】俺の彼女が人として終わっているんだが

Melon

文字の大きさ
32 / 35
最終章 俺の彼女は終わっていてほしい

彼女、二人で過ごす

しおりを挟む
 それから数日後。

 休日に偶然、美湖さんと出会った。
 近くのレストランで昼食を取りつつ、燐華さんの現状について伝えることにした。

「そうですか......。燐華さん、戻らなそうなんですね......」

 美湖さんが落ち込む。

 当然だ。
 美湖さんにとって大学外での燐華さんは、自分を助けてくれた憧れの存在でもあり、大切な酒飲み仲間なのだ。
 そんな人物が消えてしまっては、落ち込んで当然だ。

「はい......。なので、俺ももう諦めて、今の燐華さんを受け入れるつもりです......。忘れられるかは、わかりませんが......」

 正直、忘れられるはずがない。
 忘れたくもない。

 だが、忘れなければ前には進めないのだ。
 本能が拒もうと、忘れるしかない。

「......寂しくなりますね。今までは一緒にお酒を飲んで楽しめていたのですが、最近は一人でお酒を飲んでばかりで......。私ですらこんなの辛いのですから、志永さんからしたら......」

「......でも、もう仕方がないと思います。燐華さんが選んだ道なので......」

「そう、ですよね......」

 そこから、燐華さんについての話が進むことはなかった。


 更に数日後。
 学園祭の準備の最終日の夜七時。

「みんな。お疲れ様でした」

 燐華さんが教卓黒板の前に立ち、みんなに言う。
 次の瞬間、全員が拍手をした。
 文化祭の準備が全て終わったのだ。

「遅くまで残ってよく頑張ったね。明日は本番。お店の経営を頑張りつつ、思い出に残るように楽しもう」

 燐華さんはそう言うと、黒板の前から移動した。


 その後、燐華さんは友達と話していた。

「燐華さん......。本当に来ないんですか?」

「うん。ごめんね......」

 燐華さんは申し訳なさそうに言う。

「志永くんもこないんだよねー......」

「はい。すみません......」

「いいよいいよ。二人は付き合ってるし、私たちが邪魔しちゃ悪いもんね」

「ははは......」

「それじゃ、帰ろうか」

「そうですね」

 燐華さんと俺は、みんなにさよならを言い、教室を出た。


 寒い冬の空の下、二人で並んで帰る。
 これから俺の家で食事だというのに、気持ちの盛り上がりはなかった。

 昔の燐華さんと飲むのだったら、こんなことにはなっていなかっただろう。
 酒を飲み、しょうもない会話をし、燐華さんの介抱をする。
 今までがどれだけ楽しくて、幸せだったのかを痛感する。

「ねぇ志永くん。お料理は何にする予定なの?」

「えーっと......。チキンとか、色々用意しましたよ。まぁ、冷凍ですけど......」

「いいね。二人きりだし、ゆっくり食べながら楽しもうよ」

 昔の燐華さんだったら、お酒は何か聞いてきたり、焼き鳥やおつまみも欲しいと駄々をこねただろう。
 そんな少しだけ子どもらしくて、可愛らしい燐華さんを思い出す。

「......あれ?」

 気が付くと、涙が出ていた。
 燐華さん気が付かれないようにコッソリと拭う。

「......どうしたの?」

 俺の声に反応し、こちらの顔を覗き込む。

「いや、なんでもないですよ」

 俺は笑って誤魔化した。


 俺の家に着いた頃には、既に午後九時頃になっていた。
 部屋に上がり、すぐさまエアコンの電源を入れる。
 ソファでくつろいで数分ほど経過すると、部屋が暖まってきた。

「それじゃ、料理の準備をしますね」

「うん。よろしくね」

 俺は立ち上がり、冷蔵庫を開けた。
 冷凍のフライドチキンを始めとする様々な料理を取り出す。
 そして、レンジに入れて温め始めた。

 その間に、飲み物を用意することにした。

(前の燐華さんだったら、これからお酒を飲んで、騒いで吐いたんだろうなあ......)

 俺は、コップを取り出しつつそう思っていた。

 だが、もうそんな彼女はいない。
 必死に昔の燐華さんを忘れようとする。

 しかし、頭から離れることはない。

 昔の燐華さんのことを考えながら、俺は冷蔵庫から瓶を取り出し、開封する。
 その中身をコップに注ぎ、燐華さんに差し出した。

「燐華さん。先に飲み物どうぞ」

「ありがとう」

 燐華さんが透明の液体が入ったコップを手に取る。

(ん? 透明の液体......?)

 俺は、何を入れたんだ。
 何を燐華さんに飲ませようとしたんだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

灰かぶりの姉

吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。 「今日からあなたのお父さんと妹だよ」 そう言われたあの日から…。 * * * 『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。 国枝 那月×野口 航平の過去編です。

溺愛のフリから2年後は。

橘しづき
恋愛
 岡部愛理は、ぱっと見クールビューティーな女性だが、中身はビールと漫画、ゲームが大好き。恋愛は昔に何度か失敗してから、もうするつもりはない。    そんな愛理には幼馴染がいる。羽柴湊斗は小学校に上がる前から仲がよく、いまだに二人で飲んだりする仲だ。実は2年前から、湊斗と愛理は付き合っていることになっている。親からの圧力などに耐えられず、酔った勢いでついた嘘だった。    でも2年も経てば、今度は結婚を促される。さて、そろそろ偽装恋人も終わりにしなければ、と愛理は思っているのだが……?

距離感ゼロ〜副社長と私の恋の攻防戦〜

葉月 まい
恋愛
「どうするつもりだ?」 そう言ってグッと肩を抱いてくる 「人肌が心地良くてよく眠れた」 いやいや、私は抱き枕ですか!? 近い、とにかく近いんですって! グイグイ迫ってくる副社長と 仕事一筋の秘書の 恋の攻防戦、スタート! ✼••┈•• ♡ 登場人物 ♡••┈••✼ 里見 芹奈(27歳) …神蔵不動産 社長秘書 神蔵 翔(32歳) …神蔵不動産 副社長 社長秘書の芹奈は、パーティーで社長をかばい ドレスにワインをかけられる。 それに気づいた副社長の翔は 芹奈の肩を抱き寄せてホテルの部屋へ。 海外から帰国したばかりの翔は 何をするにもとにかく近い! 仕事一筋の芹奈は そんな翔に戸惑うばかりで……

嘘をつく唇に優しいキスを

松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。 桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。 だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。 麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。 そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました

cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。 そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。 双子の妹、澪に縁談を押し付ける。 両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。 「はじめまして」 そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。 なんてカッコイイ人なの……。 戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。 「澪、キミを探していたんだ」 「キミ以外はいらない」

処理中です...