【完結済】俺の彼女が人として終わっているんだが

Melon

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最終章 俺の彼女は終わっていてほしい

彼女、出会いを喜ぶ

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 学園祭当日の朝。

 いつも通り、燐華さんを迎えに行った。
 家のドアをノックし、しばらく待つと燐華さんが出てきた。

「行こうか」

「はい。行きましょう」

 俺と燐華さんは、手を繋いだ。
 その瞬間、冷たい風が俺たちを通過する。

「ふふ、こんな寒い日は、お酒が飲みたくなるね」

 小さな声で燐華さんが呟いた。

「......そうですね!」

 そんな些細な呟きをしたことが、とても嬉しかった。


 それから、大学に着いた俺たちは、自分たちの店がある部屋の前まで来ていた。

「おはようございます」

 部屋のドアを開けながら、挨拶した。
 そして、俺は部屋に入った。
 それに続き、燐華さんも教室に入った。

「お......。おはよーみんな!」

 燐華さんは、手を大きく振りながら挨拶をする。

 俺は驚いた。
 燐華さんの挨拶は、偽りの自分の挨拶ではない。
 本来の燐華さんの挨拶だ。

 当然、本来の燐華さんを知らないみんなは、呆然としていた。

「り、燐華さん......! どうしたんですか......!」

「だ、だって......! 昨日支えてくれるって言ったから、勇気を出して本来の自分を出してみたんだけど......!」

 俺と燐華さんがコソコソと話し合う。
 その間、俺たち以外が喋ることはなかった。

 俺と燐華さんは緊張していた。
 もしかして、受け入れてもらえないのではないかと。

 だが、一人の生徒が、沈黙を破った。

「っぷ......! 燐華さん、テンション高すぎ......!」

 金髪の生徒が、笑い始めた。

「というか、そんな一面もあったんですね。いいじゃないですか。そんな一面もあって、可愛いと思いますよ。私は」

「わ、私もです! クールな燐華さんもいいですけど、明るい燐華さんもいいと思います!」

 茶髪の生徒がそう言った。
 そして、二人に続き、周りの生徒たちも同じように燐華さんのことを受け入れていった。

 俺と燐華さんは、安心して大きなため息が出た。

「よ、よかったですね......!」

「本当。焦ったよ......!」

 俺と燐華さんは笑いあった。


 この燐華さんの挨拶により、本日の学園祭が幕を開けた。


 時刻は午後一時。

「燐華さーん! こっち手伝ってー!」

「はーい! 今行くよー!」

 助けを呼ばれた燐華さんは、急いで向かった。
 もう完全に偽りの燐華さんではなく、本来の燐華さんになっていた。

 燐華さんは手際よく仕事をしつつ、手伝いまでしていた。
 それに加え、明るい性格により、みんなからの好感度は跳ね上がっていた。

「燐華さんありがとう。そうだ。ここからは私たちで回すんで、二人で回ってきていいですよ」

「え? いいの?」

「はい! 燐華さんに頼ってばかりではいられません! 任せてください!」

「それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」

 燐華さんがそう言うと、俺の方を向いた。

「志永くーん! 一緒に学校回ろ!」

 燐華さんが俺の手を掴む。
 そして、グイグイ引っ張っていく。

「あ、ちょっと! すみません、俺も行って問題ないですか?」

「いいよいいよ! 行ってきな!」

「大丈夫ですよ! 二人で楽しんできてください!」

 二人の生徒がそう言うので、燐華さんと一緒に回ることにした。


「熱々だねぇ。あの二人」

「そうだね。私も、あんな感じでお付き合いできる男性と出会いたいよ......!」

「燐華さんもテンション上がりまくりで楽しそうで、見てるこっちまで嬉しくなってくるね」

 二人の女子生徒は、二人の話をしながら見送った。


 それから、燐華さんと様々な場所を回った。
 燐華さんが射的の出店で景品を落としまくったり、一緒にタコ焼きを食べたりもした。

 そして、やっぱり燐華さんと言えば、お酒だ。
 ビアガーデンの出店では、大量にビールを頼み、飲んだ。
 途中で何度か吐いたが、楽しそうだった。


 そんな楽しい時間はあっという間に過ぎ、気が付いたら時刻は午後六時になっていた。
 チャイムが鳴り、学園祭終了の報告が流れる。

「片付けは明日やるから、今日はもう自由だよね?」

「そうですね」

「じゃあさ、お酒。飲みにいかない?」

「え、いいですけど......」

「じゃあ行こうか」

 燐華さんは、俺の手を握り、率先する。
 たどり着いたのは、燐華さんと初めて出会った大学のラウンジだった。

「どうせみんな打ち上げに行くだろうし、静かなここで二人で楽しもうよ」

 燐華さんは、トートバッグから缶チューハイを取り出す。
 そして、一気に飲み干した。

「いやー! 最高!」

 燐華さんが缶を握りつぶしながら言う。
 それと同時に、何かを思い出すかのように、ぼーっとし始めた。

「どうしたんですか?」

「あの日のことを思い出しちゃってね......」

「あの日って、俺が告白した日のことですか......?」

 燐華さんは頷いた。

 あの日、人がいない午後八時頃のラウンジで、一人座っている燐華さんを見かけ、告白した。
 そういえば、何故燐華さんはあんな時間に一人でいたのだろうか。

「燐華さん。あの日って、何があったんですか......?」

「......実はね。志永くんと会う前、夏鈴ちゃんに絡まれてて、ストレスで我慢できずに学校のトイレでこっそりお酒を飲んじゃったんだ......」

 燐華さんは、新たな缶チューハイを取り出し、蓋を開ける。

「それでね。ここで眠っちゃって......。起きたらもう暗くなってて......。タバコ吸って、酔いが醒めるまで休んでたんだ。酒とタバコ臭かったのは、そのせい」

「じゃあ、俺が燐華さんに告白できたのって......」

「......夏鈴ちゃんのおかげ。ってことになるね」

 夏鈴さんは燐華さんを嫌い、いじめて追い詰めた。
 大学生になっても無意識に追い詰め続けた。

 だが、そのおかげで燐華さんに出会えた。
 そして、燐華さんは俺の告白を受け入れてくれた。
 ほとんど会話をしたことがなかったのにも関わらず、俺の告白を受け入れてくれたのは、誰かの助けを求めていたからなのかもしれない。

「その点だけは、夏鈴ちゃんに感謝しないとね......」

 燐華さんは、俺に抱き着いた。

「そのおかげで、ずっと一緒に居たいと思える......。運命の人に出会えたんだから......。志永くん......。これからもよろしくね......」

 抱き着いている燐華さんの頭を、俺は優しく撫でた。
 そして、そのまま燐華さんは酔い潰れ、寝てしまった。
 俺は、燐華さんを膝枕し、ゆっくりと寝かせることにした。

「燐華さん。ありがとうございます......。運命の人だと思ってくれて......。そして、こちらこそよろしくお願いします......」

 俺も学園祭の疲れが溜まっており、眠気に襲われた。
 そして、誰もいないラウンジで一緒に仲良く眠ってしまった。

 こうして、俺たちの思い出に刻まれた最高の学園祭は終了した。
 本来の燐華さんに戻った状態でこの日を迎えられ、本当に良かった。


 それから、燐華さんは大学でも自分らしさを出し、みんなと楽しく過ごすようになった。

 燐華さんは、自分の性格のせいで悲劇が起きたと後悔していた。
 だが、それと同時に、性格のおかげで幸せな人生を手に入れた。

 もしかしたら今までのは、幸せの対価として用意された試練だったのかもしれない。
 そして、俺たちは全ての苦難を乗り越え、本当の幸せを手に入れたのだ。
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