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一章
4話 舌打ち
しおりを挟む「明人君、なんか…やりたいゲームとかある?」
と尋ねてみると、目をキラキラさせながら
「はい、僕の好きな音ゲーに最近新しい譜面が追加されて…それも僕の大好きな曲で…ハードまではクリアしたのであとはエキスパートだけなんです…!」
と、手を胸元でぎゅっと握り、うんうん頷きながら沢山話してくれた。
「そうなんだ!じゃあ…僕、明人君がプレイしてるとこ隣で見てて良いかな?」
口角を上げ、期待に満ちた顔で僕を見つめてくれる明人君にこう尋ねると、両手の指先をツンツンと合わせながら
「良いですけど…見てるだけで大丈夫なんですか…?対戦とかできますけど…。」
と不安そうに呟いた。
「音ゲーはいくら練習しても全く無理で…でも人がプレイしてる動画とか見るの大好きだから大丈夫!」
まるで子犬のように僕の目をじっと見つめる明人君にこう説明すると、納得したのか、数回頷き
「…わかりました、龍馬さんの為にフルコンボとります…!」
と、少し照れ臭そうにガッツポーズをした。
「おぉ!応援してるよ!がんばれー!」
明人君に着いて行くと、少し大きめの機械の前に立ち止まり、財布から100円玉と青いカードを取り出し、100円玉を入れてから、カードをアーケードに読み込ませた。
すると、ユーザー情報が画面に大きく表示され、明人君が少し恥ずかしそうに僕の方をチラッと見て、またぐっと俯いてしまった。
そんなに照れなくてもいいのに…かわいいな。
それより…結構やり込んでるな…。
ランクがもう直ぐ3桁に行きそう…すごいな…。
ユーザー情報を確認してから、楽曲選択の画面に移動すると、明人君がもう一度僕をチラリと見てから
「…この中で…好きな曲ありますか?」
と、質問してくれた。
優しいなぁ…。
「好きな曲?そうだな……」
画面を見ながらうんうんと頷っていると、僕の顔と画面を交互に見ながら、ゆっくりと画面を動かしてくれた。
…あれ…この曲…!
「…あ!これ!これがいい!」
僕の大好きな曲があり、急いで画面を指差すと、ふんわりと微笑んでから、その曲を選択してくれた。
「この曲良いですよね…僕一片すっごい好きなんです…。」
「そうなんだ…僕も好きだよ!」
僕が選んだ曲は、一片の報いのOPだ。
さっき言った、僕の好きなアーティストが歌っているOP。
まさかあるとは思わなかったな…。
こういうの地味に嬉しいよね…。
次に、難易度選択の画面に移り、この曲の過去スコアが表示された。
「…全部S++…」
「頑張っちゃいました…」
少し分かりにくいけどドヤ顔をして、自分の胸をトントンと叩いた。
かわいいなぁ…。
「すごいね…得意なんだ…。」
「これくらいしか取り柄ありませんけどね…。」
「十分凄いと思うよ!」
と言うと、嬉しそうに笑い、照れ臭そうにぐっと俯いた。
イントロがスタートし、明人君が手を開いたり閉じたりしてからボタンのある場所にそっと手を置いた。
このゲームは、画面中央に自分で選択したキャラが表示されて、リズムに合わせてノーツと呼ばれる丸い模様がキャラに向かって降ってくるんだ。
それがぴったりとキャラに重なった時にボタンを押すというゲームなんだ。
ちなみに、このボタンは左右にも動くようになっていて、ノーツが矢印型の時は矢印の方向に動かしたり、ぐるぐるとしたノーツの時はボタンをぐるぐると回すといった複雑な操作もあるみたい。
ちなみに明人君の選んだキャラは、一片の報いに出てくる可愛くデフォルメされたアリスだった。
…アリス推しなのかな?
色々考えながら明人君を見てみると、白い模様が降ってくる前に、カタカタと指を慣らし、少しだけ溜息を吐いた。
すごい…めっちゃゲーマーっぽい…!
すると、次の瞬間、ノーツが上から沢山降ってきて、それを慣れた手つきで消していった。
…上手いなぁ…明人君…。
アップテンポの曲だから、ノーツの速度が速すぎて、僕なんてノーツを見つけるのに苦労するくらいなのに…明人君…すごいなぁ。
「…あ、ニューレコード!」
あれっ、いつの間にか終わってた…もしかして一番だけなのかな…?
「すごいね!明人君…テンポすごく早くなかった…?白いのもぶわーって降って来たし…!」
と、聞いてみると明人君が
「はい…でも僕にかかればこんなもんですよ…!」
腰に手を当て少し胸を張りながら言った。
「すごいよ明人君…!尊敬しちゃうな…」
「……そこは無視するところですよ…。」
二曲目の選択画面になり、明人君が肩をコキコキと慣らしてから、アーケードの荷物置き場に鞄を置いた。
…新譜面ってそんなに難しいのかな。
曲が始まり、さっきの倍くらいのノーツが降ってくる。
それを慣れた手つきでサクサクと消していく明人君。
…本当に凄いなぁ…。
「…あぁ…」
画面をじっと見ていると、画面に大きくMISS!という表示が出て、明人君の方から舌打ちと独り言が聞こえた。
「…チッ、反応悪いんだよ、クソが…ぶっ壊すぞ。」
…ん?
他の人の声かと思って周りを見てみても、僕達の周りには人が居なくて…。
…えっと?あれ?明人君…?
「チッ…僕が押してんだろ、ちゃんと反応しろ…何様のつもりだ?機械の分際で…。」
今度はしっかり口が動く所を見た。
いや、見てしまった。
しっかり舌打ちしてた。
見なきゃ良かった。
僕の天使が。
曲が終わり、最終スコアが表示され、明人君と画面を見ていると、肩をビクッ!と震わせてから恐る恐るこう尋ねて来た。
「…あの…独り言聞いてましたか……?」
「え?舌打ちなんて聞いてないよ?どしたの?」
嗚呼、咄嗟に出た言葉がこれなんて。
自分の嘘の下手さを呪いたい。
すると、明人君が背中をぐっと丸め
「…すみません…僕…小さい頃からいっつもゲームやると口悪くなっちゃうんです…今回は大丈夫だって思ったのに…。」
と言いながら俯き、ボタンをカチカチと押した。
「そ…そんな気にしなくていいよ?小さい頃からの癖ならなかなか治らないだろうしさ…あ、ほら!僕だってちっちゃい頃からのほっぺ掻く癖治らないよ!」
…しまった、励ますつもりが何言ってんだ僕。
こんな馬鹿みたいな事言ったら明人君のこと困らせちゃうよ…。
なんて事を色々考えていると、明人君が、荷物置き場から鞄を取り、
「ありがとうございます、龍馬さん。」
と、僕に向かってそっと微笑んでくれた。
…なんだか、初めてしっかりと笑顔を見た気がする。
すると明人君が微笑んだタイミングで、明人君の後ろにある画面から
『また来てくださいね!』というボイスが再生され、画面の中の女の子が優しく微笑んだ。
うん、また来るよ。
今度は、智明も含めた三人で。
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